世界最強のマッサージ師
「母さん。今日ついに僕は成人の儀を受ける事が出来るよ。」
「そうねぇ。ひろきはずっと楽しみにしていたから、良かったわねぇ」
成人の儀は20歳になると受けることが出来る儀式で、儀式を受ければスキルを使う事が出来るようになる。
子供の頃から僕は魔王を倒す英雄に憧れていた。
剣技や魔法のスキルを持っている大人を見ては、何でスキルのレベル上げをして魔王を倒しに行かないんだろうと不思議に思っていた
スキルを得た後のために体もずっと鍛え続けてきた。今僕は最高の気分だ。
「それじゃ、母さん行ってくるね。」
家から出て僕は成人の儀を行う教会を訪ねた。
教会には小さい頃からお世話になっている姉のようなシスターが既に待っていてくれた。
「ひろきくん、いらっしゃい。ようやくひろきくんもスキルが使えるようになるね。剣技のスキル出るといいね。」
「ありがとう、ミア姉さん。楽しみすぎて昨日は全然寝れなかったよ。」
「知ってるよ。小さい頃からずーっと言ってたもんね。それじゃぁ、さっそく始める?」
「よろしくお願いします。」
「了解。それじゃぁ、ちょっと待っててね。」
少し待っているとミア姉さんは部屋の奥から透明な水晶玉を持ってきた。
成人の儀に使う鑑定の水晶だ。
「それじゃぁ、両手を水晶の上にのせてみて」
水晶の上に手を乗せると水晶が白く光りだした。
水晶に映る文字をミア姉さんが読み取る「えっ?何これ?」
ミア姉さんの顔が曇り、僕の中に嫌な予感が芽生えた。
「どうしたんですか。僕のスキルが何か変だったんですか!」
するとミア姉さんは少し申し訳なさそうな顔をしながら僕のスキルを教えてくれた。
「よく聞いて、ひろきくん。あなたのスキルは【治癒魔法(笑)】よ。」
一瞬僕はミア姉さんが何を言っているのか分からなかった。
「ミア姉さん、何ですか(笑)って。そんなスキルあるんですか。」
「えっと、私も初めて見たから困惑しているのだけど、どうやら普通の治癒魔法とは違うみたいね。
普通の治癒魔法は【治癒魔法Lv1】のスキルで、軽いけがを治すことが出来るんだけど、【治癒魔法(笑)Lv1】のスキルは筋肉のコリをほぐすみたい」
僕は血の気が引いて地面にへたり込んでしまった。コリをほぐすスキルで魔王を倒すことなんかできるはずがない。
「僕の今までの努力は何だったんだ…」
放心状態の僕をミア姉さんが元気づけようとして声をかけてくれた。
「マッサージ屋を開業したら人気が出るかもしれないから、元気出して。」
その一言で僕はうかつにも大泣きしてしまった。
一年後
成人の儀を終えてから1年後、僕は城下町でマッサージ屋を開業していた。
僕は成人の儀の後、あまりのショックに3か月ほど部屋に引きこもっていたが、ミア姉さんと母さんの説得により、マッサージ屋として社会復帰したのだ。
「ノアばあちゃん、腰がめちゃめちゃ凝ってるねぇ。【治癒魔法(笑)Lv1】。どうだい、楽になったかい?」
「いや~、ひろきのマッサージは最高だね~。もうひろきのマッサージ無しじゃ生きていけないよ~。また、よろしくねー。」
「まいど、おおきに~。」
最初は嫌々始めたマッサージ屋だったが、町の人に感謝され必要とされるうちに最近は僕の天職なんじゃないかという気がしてきた。
【治癒魔法(笑)Lv1】はマッサージの時に使用すると気持ちいいらしく、結構な頻度で常連になってくれるのだ。
「ひろき、いるかい?」
「あ、カイラさんまた来てくれたんだね。嬉しいよ。」
カイラさんは王都でも有名な女性S級冒険者だ。親しみやすい性格と確かな実力で多くの人に慕われている。
S級冒険者というとムキムキで厳つそうなイメージがするけど、カイラさんはスピード重視らしく細身で引き締まった肉体をしていて、女性からも憧れの的である。
ノアばあちゃんの紹介で僕のマッサージを受けて以来、相当気に入ったらしく、今では一番の常連さんだ。
「そんなに喜んでもらえるなんて、私は幸せ者だよ。どうだい、ひろき、私と結婚するかい?」
「またまた、カイラさん。からかわないでくださいよ。カイラさんと結婚したらファンクラブの人に殺されちゃいますよ。」
「いや、ファンクラブの人はきっと祝福してくれると思うぞ。」
「はい、はい。そういえば今日はどうしますか、マッサージやっていきますか?」
「む、そうだな。是非お願いしよう。」
まったく。カイラさんの冗談は心臓に悪い。こんな素敵な女性が僕に本気で求婚するわけがないのだ。
僕は自分の立場をわきまえてる。変に勘違いしてカイラさんとの関係が壊れてしまったら辛すぎるだろ。
「そういえば、この前【治癒魔法(笑)Lv2】を覚えたんですけど、カイラさん体験してみませんか?
どんな効果があるかわからなくてまだ誰にもやったこと無いんですよね。」
「なんだと!ひろきのマッサージがもっと良くなると言う事か。それは是非体験せねば!!よろしくお願いするぞ。」
「ありがとうございます。それじゃぁ、先に普通のマッサージをしてから【治癒魔法(笑)Lv2】を試しますね。いつもどおり、ベットにうつ伏せになってください」
「うむ、分かった」
ひろきはベットで横になったカイラの筋肉を【治癒魔法(笑)Lv1】を使いながらほぐしていく。
カイラさんの筋肉は本当に良く鍛えられている。S級冒険者だけあって一般女性より圧倒的に筋肉量は多いのだが、柔らかく、実践向きな筋肉をしている。
カイラさんをマッサージするとカイラさんの今までの努力が見えるような気がして尊敬してしまう。
「あ~。気持ちいい。やっぱりひろきのマッサージは最高だな。もう、ひろき無しじゃ生きていけないよ~。」
「それ、さっきノアばあちゃんにも言われましたよっと。そろそろLv2試してみてもいいですか?」
「あいよ~。よろしくね~。」
「それじゃぁ、行きますね。【治癒魔法(笑)Lv2】。」
「あっ…、んっ、んっ」
あれ?カイラさんから何か色っぽい声がしてきたぞ。何か、顔も少し赤らんできてるし。これヤバいやつじゃないのか。
「カイラさん、大丈夫ですか!!マッサージ止めますね。」
「んっ、大丈夫だから、もっと続けてくれ。大丈夫だから。」
ほ、本当に大丈夫なのか。何か全身火照ってきてるし。顔も前より赤い。ん?何かお尻ももぞもぞ動いてるぞ。心なしかズボンが湿っ…
「ストーップ!!もう終了です。おしまいです!!」
「そんな!!ひどい!!こんなところで終るなんて生殺しだ!!どうせやるなら最後までやってくれ~!」
「最後までって何ですか!!とにかくもう終了です。ありがとうございました」
やばい。Lv2はやばい。多分かけた人に快感を与えるとかそうゆうやつだ。こんなの使ってたらいつかトラブルに巻き込まれるぞ。
何かカイラさんもぐったりしてるし、効果ありすぎだろ。
ん?ぐったりしてる?これモンスターにかけたらどうなるんだろう。やっぱりぐったりするのかな。
やばい。気になる。カイラさんにお願いしてみようかな。
「あの~、カイラさん。モンスターを弱らせて動けなくしてから僕の所に連れてくるって出来ますか?Lv2がモンスターに効果があるか試してみたいんですけど…」
「はぁ、はぁ、もちろん…、出来るとも…、ただし…、条件がある…。」
「何でしょう。流石に正規料金でS級冒険者を雇うお金は無いのでお安くして頂けると助かります。」
「もう、いちど、【治癒魔法(笑)Lv2】を、私にかけてくれ…。」
「あ…、はい…」