TS異世界サキュバス転生逆レ空手レベルドレイン最強生物成り上がり無双
サキュバスとは、最弱の生物である。
サキュバスとは魔物である。一般に見目麗しい女性の姿形をしており、男性の精を啜るとされている。
その肢体は男を籠絡する上ではこの上無い武器となり得るが、基本的にはほぼ無害と言って差し支えないと言われている。
何故か。単純に言ってクソザコだからである。
まず本体性能が軒並み低い。その腰使いを披露する以外ではほとんど役に立たない筋肉と手淫の時以外は箸も持てない貧弱さが大きな理由であろう。
近年の研究によればこれはサキュバスという魔物が成立する際に、その起源となるモノから淫行以外の権能を取り払うことでその力を高めるという、一種呪術的な過程が組み込まれたためだという。
兎角、サキュバスに物理的精強さは望むべくもない。半人前の冒険者であろうと棒切れ一本で撃退できることだろう。
また、出来ることが圧倒的に少ない。サキュバスが持っている魔物的特殊能力は基本的にただ一つ。吸精、すなわちドレインである。
個体によってドレインするものに若干の差異はあれど、これだけである。大抵の場合はエナジードレインやパワードレインなどであり、それらの差も個体の好き嫌い、つまり味の好みでしかない。
このドレインによって何が起こるかというと、吸われた側はしばらくの間吸われた能力が下がってしまう。そしてサキュバスは、お腹が膨れる。そう、満腹だ。
サキュバスはドレインによってカロリーを摂取し活動している。そして彼女らの一度に吸えるエナジーやパワーの量はなんとも残念なことに吸われる側の男性にとっては微々たるものでしかない、というのがサキュバスが弱い理由の二つ目である。
実は吸ったものを自身の力に換えるという能力も備わっているのだが、彼女らの怠惰と権能以外を削ぎ落とされた弊害がその選択肢を選ばせない。
こうしてサキュバスは最弱の生物の名をほしいままにしている。なんなら人間に飼われている者も居たりする。彼女らにとっては人間が強い方が吸える精も美味しいとかで、人間を殺すほどの悪事を働こうとする者もいない。ダンジョンの比較的安全そうな所に居座ってやって来る冒険者と仲良くする者も居る。ダンジョンで男女。その関係はWin-Winだ。
ああ、サキュバスはこれまでもこれからも最弱の生物であった。
そう、この俺が産まれるまでは、そのはずであったのだ。
俺は前世でしがない大学生をやっていたが、あまりにもモテなさ過ぎたため発狂。
オナホを片手に一日五十発を発射し、テクノブレイクで死んだ。前世では最期にオナホというサキュバスに精を吸い尽くされてくたばった俺がこうしてサキュバスとして生まれ変わるとは因果なものだ。
サキュバスとしてダンジョン内に産まれ落ちた俺は、その辺で男を待っていたセンパイサキュバスに話を聞き(めっちゃエロくて興奮した。かなりキョドってたと思う。最早センパイサキュバスってのもエロいよね)、この世界と自分自身を知った。
剣と魔法のファンタジー、その一画に産まれた最弱生物の一匹が俺。
最初は呑気に「前世ではモテなかったし、今世ではモテるかな〜。いやむしろモテない男共に夢を与えてやるのも良いかもな〜」なんて考えていたが、俺の中の厨二脳が上げる叫び声を無視することはできなかった。
YOU、最強目指しちゃいなよ。
あの人はむしろインキュバス囲ってた側だよね。大学生っつってんだから理解るネタで来てね。
しかしこれはまごうことなき俺の心の叫び。俺は最強を目指したがっている……?
生前なろうで学びまくっていた俺は、この世界をゲーム的ステータスのある世界だと当たりをつけた。センパイサキュバスの言っていたドレイン出来るものを選べるというのがヒントになった形だ。
繰り返される試行錯誤。虚空に向かって「ステータスオープン!」だの「メニュー!」だの叫んでいた俺はセンパイサキュバスにマジでドン引きされていたが構うことはない。
そして10分後。ビンゴォ……(ねっとり)
まさか自身の左乳首がステータスボタンになっているとは、よもやよもやだ。おそらく意思を持ってそう行動しなければ意味がないのであろうが、なろうで予習していた俺だから辿り着けたアンサーであっただろう。
兎角ステータス画面を開いた俺は、それらを確認しほくそ笑む。あった、あったぞ。この世界にはレベルの概念があった!
吸われたステータスがしばらくすると元に戻るという点からヒントを得たが、つまりしばらくするとレベルが上がって元のステータスに戻るということなのだろう。
自分のステータスは軒並み酷いものであったが、どうやら性行為の際にはステータスにエグい倍率の補正がかかるらしい。
これらの材料によって俺の行動方針は固まった。
センパイサキュバスに礼を言ってその場から立ち去る。センパイサキュバスはこの場で待っていれば獲物が来るんだから待っていれば良いのに、と声をかけたいような、やべー奴にこれ以上関わりたくないような微妙な心持ちのまま「そう、じゃあ、お気をつけて……」と。あばよパイセン。今度会ったらもうちょっと仲良くできるカナ……。
サキュバスの産まれる小部屋(俺の故郷)からそっと出る。ここからは俺一人の力でやっていくんだ。
冒険者共は安全な場所でもなければ俺に構ったりしないであろう。最中に他の魔物が襲って来たら事である。
では何故、俺は安全な場所から一人飛び出したのか?
それは俺がこれから最強の生物へと成り上がるための通過儀礼とするためである。
最強の生物となるためにはやって来る冒険者に阿っていてはいけない。
むしろこちらから冒険者を喰ってやるくらいの気持ちでいかねばならぬのだ。
それ故、俺は行動方針をこう定めた。
即ち、TS異世界サキュバス転生逆レ空手レベルドレイン最強生物成り上がり無双である!
続かない。