07
風呂に入りたい、ご飯が食べたい、もう寝たい。
結局それで返事が聞けることはなかった。
そのくせ、ベッドで寝転んでいるあたしの隣ですぐに寝たから意味が分からない。
「祐希ー!」
「お、奈々子か」
いつ見ても奈々子の笑顔には救われる。
が、横にいる麻由里先輩が複雑そうな表情を浮かべてたから挨拶だけに留めておいた。
学校、教室で自分の席に座っていたら昨日のことを思い出して恥ずかしくなって飛び出す。
「そんなに赤い顔をしてどうした」
「昨日寝られなくてな」
朝に一緒に登校しているところを見たのはかなり久しぶりだ。
この様子だとふたりの仲は順調のようだった、こちらとは全然違うな、うん。
美麗なんかただの制服姿だというのにハイテンションで奈々子を描いてるし……先輩も止めてくれよ。
「祐希のおかげでなんとかなりそうだ、ありがとう」
「礼なんかいいよ、色々支えてきてもらったんだから」
真の常識人は先輩だ。
美麗が大人しくて優秀とか考えたのがアホだった。
これからはただの変態として扱おうと決める。
あたしの複雑さを他所にゆっくりと時間は進んでいた。
分かりやすい変化は毎時間先輩が来るようになったこと。
そして、あの変態がその度にハイテンションになったことだ。
結局この女はさ、相手が女なら誰でもいいんだよな。
その証拠に、休み時間に遭遇したSMコンビニも涎を垂らしながら描いていたからな。
ただの制服姿なのにどうしてそこまで盛り上がれるのかが分からない。
「この学校はいいわよねっ、探さなくても向こうから魅力的な女の子達が来てくれるんだもの」
「あっそ」
気持ち悪いとか言わない、暴力とかも振るわない最低限の常識がある女がここにいるのに。
やってらんねえよこんなの、なんのために晒したんだよこの内側を。
「だりぃ……」
こんなに家に帰りたいと思ったのは初めてだ。
だって、こちとら告白したのにあれだぞ、普通考えるために時間使うだろ。
変態を好きになった自分が悪いのか、じゃあそれを好きな自分も変態だから変わらないのかもな。
「ちょっと、あっそはないでしょ」
「知らねえよ、奈々子と麻由里先輩はともかく、SMコンビを魅力的だと思ったことはない」
チョコ棒くれる優しいやつだとは考えているが、とにかく相方が駄目だ。
普通彼女が他の女と話しているからって物理攻撃仕掛けるか? 流石にそこまでするやつは少数だろ。
偉ぶるつもりはないが一応先輩でもあるのにあれ、やっぱり髪の毛がぼさぼさだったりするのが悪いんだろうかと凹んだ。女性らしい魅力がなくて悪かったな!
「返事、しなかったから拗ねてるの?」
「お前ってちょっとずれてるよな、お前が他の女でハイテンションになっていたからだよ」
「あ……私、また……」
どうなってんだこいつの脳内。
一体全体、描きたい欲になっている時はどんな感じなんだよ。
いまのこいつはまた反省モードだ、逆に謝られるとむかつくって分かってねえな。
「転べ」
「え、ええ」
今度は逆にあたしが跨る。
不安そうな表情でこちらを見つめてくる美麗を見ると、ちょっと苛めてやりたくなった。
「これで逃げられないだろ? 答えてくれ、散々時間も経過したんだから言えるよな?」
こいつは自分ひとりだけすうすうと寝やがった。
こちらがどんなに複雑だったかなんてどうでもよかったんだろうな。
あれならまだ断られた方がマシだった、初めて気づいたが待たされるのは嫌ならしい。
「……重いわよ」
「いい眺めだ、お前は普段無表情だからな」
「それはあなたじゃない」
「違う、お前だ」
そのくせ、他の女を描ける時はにっこにこの、それどころではなく正しく変態のそれだ。
なにをしたというわけではないのに恍惚とした表情で、涎だって垂れてそうなぐらいのそんな感じで。
「……お前にとって創作以外ではあたしは必要ないのかよ」
「……そんなこと言ってないじゃない」
「でも、返事しねえじゃねえか」
「あんなことを言っておきながらなんだけれど、漫画がもう出来上がるのよ。それで、それが出来たら……えと、私から告白しようと思っていたの――なのにあなたが告白なんてするからっ、計算が狂ったじゃないの! どうしてくれるのよっ」
えぇ、待たせたうえに逆ギレっ?
こっちはそのせいで睡眠時間だって少なくなったというのになんだよ……。
「下りなさいよ、私の方が上よ」
「お前って優秀そうで残念だよな」
「なっ!? ……なにも言えなくなったじゃない!」
あまり騒がれると誰かが来るかもしれないから塞いでおいた。
そのまま立ち上がって固まったままの美麗を担ぐ。
「戻るぞ」
うーん、やはり奈々子や純、遊、麻由里先輩とかとは違って重い。
こいつは身長もそこそこ高いというのもある、胸とかはないのにな。
「戻ってきたか」
「おう」
意味なくあたしの席に座らせてこちらは奈々子達と話すことに。
「へえ、受け入れたのか」
「うん、麻由里ちゃんがいっぱい好きだって言ってくれたから」
「いいなあ、こっちなんか逆ギレされたぐらいだぞ……」
「大丈夫だよっ、ねえ?」
「そうだな、美麗は祐希のことが大好きだからな」
そうだとしても逆ギレしなくていいよなという話。
純を見習えよ、素直にならないと良くないことが起こるって小学生なのに分かっていたというのに。
高校生がこれではため息をつきたくなる、逆にレアすぎて感心しておいた方がいいか?
「はぁ……」
放課後になっても中途半端な気持ちで歩いていたら純&遊に遭遇した。
「「よっ」」
「おぉ! 今日ほどお前らに会えて良かったと思えたことはないぞぉ!」
「な、なんか……キモい」
「だ、だよな、姉ちゃんのテンションがおかしい……」
ぐはぁ!? ついにきたか、反抗期。
「ひ、ひぃっ、遊帰ろうぜ!」
「だ、だなっ、それじゃあな、姉ちゃん!」
なんだと不思議に思って振り返ってみたら怖い顔の変態が。
よくそんな顔ができたものだな、誰のせいだと思っているんだこいつ。
「やっぱり撤回するわ、私の物語に男の子はいらないの」
「はいはい、いいから早く返事しろ」
「……好きよ、それどころか大好きに決まっているじゃないの!」
「お、落ち着け、なんで今日はそんなにハイテンションなんだよ……」
面倒くさいから家まで連れ帰った。
外でやると近所迷惑になってしまう。
「漫画、完成させたら見せてくれよ?」
「ええ、そんなの当たり前よ」
こちらは昼寝をすることにした。
流石にこのままでは眠たすぎる、目的も達成できたいま焦る必要はない。
もちろん作業場所がこいつの部屋なのをいいことにベッドに転んだ。
今日は風呂にまだ入っていないが、変態さに対抗していかなくてはならないのだ。
ああ……誰のベッドであったとしてもかなり落ち着く。
だからあっという間に眠気がやってきて、あたしはそのまま欲に任せたのだった。
「できた……」
いまの私達にとってはあまり意味のないもの。
けれど後悔はしていない、確実に将来助けになるからだ。
「あ、ふふ、可愛い寝顔」
すうすうと寝ている彼女の唇に唇を重ねて横に寝転んだ。
「……仕返しかよ」
「あら、起きてしまったらすぐ残念になるわね」
「うるさい、お前覚悟しろよ」
そんなのなんでもいい、大して抵抗もせずに自由にさせた。
――が、こう言っておきながらヘタれるのが彼女で、モヤモヤとしたのは言うまでもない。
「あ、漫画出来たわよ」
「お、読むわ!」
いえ、これが私達らしく見えてきた。
少なくとも私にとって、彼女のキラキラとした眩しい笑顔が見られただけで満足なのだった。
これで終わり、読んでくれてありがとう。