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065作品目  作者: Nora_
4/7

04

 答えは「寝なさい」だった。

 そもそも体に力が入らなかったから朝まで寝た。

 気づいたら美麗はいなかったが、風邪を引いたわけではないということが分かって良かった。


「嘘つきやろうが……」


 側になんかいないじゃねえか。

 やはり所詮創作に活かすためでしかなかったのだ。

 そりゃそうだ、自分で魅力がないと判断しているのだから。

 そう考えれば外見だけでも誰かに求められてマシか? はっ、あんまり嬉しくねえな。


「……動くよな、学校に行かないと」


 腹も減ったし飯が食いたい。

 その時々で優先度が変わって当然だ。


「母さん」

「おはよ」

「え、元に戻ったんだな」

「そうなのよ、今朝気づいたらね」


 どんな症状やねん……。

 とりあえず昨夜の分と今日の分をどちらも詰め込んで家を出た。


「さみぃ……」


 が、昨日の川に比べれば遥かにマシだ。

 キンキンで焦ってて、でも結果があれで、ガキ相手にマジで怒鳴って。

 風呂に入って、それからあたしはなぜか倒れた――意味のないことばかりしている。

 なにも動かなければ制服だって濡らさずに済んだだろう、惨めな気持ちにならなくて済んだだろう。


「祐希ー!」


 奈々子の明るさはいまのあたしにとっての救いだ。


「ありがとな」

「わっ、ど、どうしたの? そんな、美麗じゃないんだからさー」


 抱きかかえて学校まで向かった。

 単純に温かくていいのだ、おまけに無料だからなおさらいい。


「おはよう」

「あ、美麗おはよ!」


 既に学校に来ていたようだな。

 席のところで奈々子を下ろして自分も席へ。


「大丈夫なの?」

「大丈夫じゃなければ学校に来てねえだろ。残念だったな、母さんは元に戻ったぞ」

「それはあなたがおかしかっただけよ」


 そうだな、おかしいのはこちらなんだ。

 恋人でもなんでもないんだから変なことを気にする方がアホだ。

 じゃあこの複雑さも全部おかしいからなんだな、それならいいよな。


「で、なんだよ、嘘つき少女め」

「嘘つき?」

「……側にいるとか大嘘じゃねえかよ」

「あのねえ、家族でもないのだから帰らなければならないでしょう?」


 ちっ……逃げたくせによ。


「なんでそんな顔しているのよ」

「はいはい、あたしがおかしいからだよな、分かってる分かってる」


 こいつといて嫌な気分になるのなら奈々子や麻由里先輩といればいい。

 でも、なんだかそういう形で利用するのも申し訳ないから席に張り付いていた。

 美麗は同じような態度で接してきたがそれを無視することなく上手く躱して。

 なんにも楽しくねえ1日を過ごして家に帰る。


「あ、この前の」

「あ? ああ……クソガキか」

「クソガキって言うな!」


 適当に持ち上げて睨んでおく。


「もうあんなことするなよ」

「分かってるよ。つか、なにかあったの?」

「は?」

「お前、なんか元気ない顔してるけど」


 まさか心配してくれるとは思わなんだ。

 こいつのことだからアホとかバカとか言って暴れると思った。

 意外と真面目なのかもしれないな、いや、クソガキには変わりないが。


「そうだよ、お前らのせいでな」

「……ば、バカみたいに信じて突っ込んで来る方が悪いんだよ」

「だな、バカなんだよあたしは」


 ガキ――少年を下ろして背を向ける。


「だからあたしみたいになるなよ、じゃあな」


 それでも無視すれば良かったなんて心の底から思えない。

 自分が濡れたぐらいでなにも起こらなかったならそれでいいと思えた。

 死亡事故があったなんて聞いたら悔やんでいただろうから。

 じゃあバカでもまだマシということだ、誰かのために動けたというのも悪いことではないだろう。

 意味もなく昨日の川を眺めながら座ってた。

 どうしようもないぐらい悲しい気持ちになって泣いていたら、いつの間にか横にやつが座ってたけど。


「泣くなら家にしなさい」

「……母さんに見られたくないんだ」

「どうしたのよ? 最近、あなたはおかしいわよね」


 本当だよ、どうしてこうなった。

 仮に一緒にいても、そこまで深入りをしてきたわけではなかったのに。


「麻由里先輩から聞いたわ、風邪の時も泣いてたそうね」

「寂しかったんだ……あたしもあいつらと同じでメンタルがガキなんだよ」


 それを恐れてできることならなんでもすると美麗に言った。

 でも、よく考えたら別に美麗じゃなくてもいいんだよな、と。

 きっかけは奈々子だったんだから奈々子と仲良くしていれば良かったんだ。

 なのに熟慮せず、平気で裸を晒し、平気で唇を奪わせて。

 価値がないから気にすんなとか格好つけて、それでこうして複雑になっていて。

 なのに対等じゃねえ、興味を抱かれなければすぐ離れ離れだ。

 なにをやってたんだよあたしは、そもそも自然に友達になってもらえるような努力もしないでよ。


「悪い、あの契約はなしにしてくれないか」

「どうして急に?」

「辛いんだよ……お前がいまのままでいるならやめてくれ」


 だから頼んだんだ、あたしにだけしてくれって。

 ま、自由にしろって言ったのは自分だからあんまり効力もねえけどさ。


「お前といるとこうなるんだ……」

「酷いことをしたつもりはないけれ……ど」


 やっと分かったか、いまさら驚いたような表情浮かべやがって。


「奈々子や麻由里先輩だったらこんなメンタルにならず受け入れてくれるだろ、見栄えもいいし、すぐにでも変えたらどうだ? 誰がモデルだろうと別キャラクターを生み出せるんだからさ。だから――」


 なんでこのタイミングでそれを選ぶのか。

 いまやめてくれって言ったのに、これで上書きとかバカなこと言うんじゃねえだろうな?


「してないわよ、ふたりとキスなんて」

「嘘つくなよ、そういうのが1番嫌なんだよ」

「キスしたのはあの時あなたに衝動でした2回だけよ!」


 いや、じゃあ奈々子からの連絡はどう説明するんだ。

 仮に指示したのだとしたらなんでそんな無意味なことをさせる?

 メリットはなにもない、仮にあたしに好かれたいのならなおさらのこと。


「もう健全なのしか描かないからお願い」

「……またそうやって騙すんだろ」

「しないわそんなことっ」

「なんでだよ、奈々子や麻由里先輩の方が魅力的じゃねえか!」

「分からない人ねっ、私があなたのことを気に入っているからに決まっているじゃないの!」


 はぁ、水面を見つめながらこんなことを話しているのがバカらしくなってきた。


「来い、だったら証明してみろよ、側にいるって言ったやつ」

「ええ、分かったわ」


 やっぱりあたしはバカだ。

 こうやってすぐに側にいることを許可してしまうんだからな!


「――というわけで、あなたが無理しないよう張りついているわね」

「待て待て、どういうわけだよ?」

「あら、あなたが望んだんじゃない、一緒にいてほしいって」

「どうであれ家は無理だろ?」

「ええ、だから朝必ず迎えに来るわ」


 いや、そうじゃねえんだ。

 一緒にいられる頻度はいまでも低くない。

 それどころか最近はかなり一緒にいると言ってもいいぐらいだ。


「だからさ、あたしが言いたいのはそうじゃねえんだよ」

「なによ?」

「キスとか他のやつにしないでほしいんだよ!」

「だからしてないって言ったじゃない」

「あ、そうか……いや、つまりその、エロを描く時に参考にするのはあたしだけにしてくれ……」


 なにを言っているんだか。

 けど気になるのはそこだ、そこだけはしっかりしてほしい。


「元々他の人は全員健全的に活用させてもらっていたんだけれど……」

「はあ!? じゃ、じゃあ……」

「そうね、勝手にあなたが想像して拗ねてただけね」

「スケッチブック見せろ!」


 あ、あっさり渡すじゃないか。

 ぱらぱらと捲って確認するが、うん、確かにみんな笑顔とかそういうのだけだ。

 やけに細かく描かれたあたしや、全裸のあたし以外は健全としか言いようがない。


「は、恥ずかしいわね……」

「お、お前なっ、本当にキスしてないんだろうなっ?」

「してないわよ、しかもあなたがファーストキスの相手だからね?」


 いや、逆に好都合か。

 こいつがこちらの側にいてくれるということなら監視もしやすい。

 こんなことを言っておきながら結局裏ではしてましたじゃ絶対に許さないからな!




 あれからも騒いでいたけれどやっと落ち着いてくれた。

 あと、私の家に泊まりたいと言い出してきたので連れて行った。

 勘違いによるものだが、彼女が大胆なことを言ったことには変わらない。

 

「さあ、これを着なさい」

「美麗の服? このままじゃ駄目なのか?」

「ええ、ラフな感じが描きたいのよ」


 ベッドに転ばせて、上も下ももう少しで見えそう! というところまで捲くる。

 それを描き終えたら今度は下着状態だけのものを、それが終わったら産まれたままの姿を――は冗談として、下着姿までに留めておいた。次の本は私と彼女の物語だ、確実に参考になる。


「自分で言っておいてなんだけどさ、これって意味あるのか?」

「あるわよ」

「でもさ、美麗は見なくても描けるんだろ? あんまり意味ない気がするんだけど」


 確かにそれは間違っていない意見だ。

 これまでたくさん描いてきたから想像通りの体や顔を描ける。

 でもそれは理想じゃない、そして私にとっての理想とは祐希だった。 

 ……いま言っても信じてもらえないだろうから言わないけれど。


「次の作品に必要なの、触ってもいい?」

「おう――え?」


 別にいやらしい意味じゃない。

 色々なところに触れてみたいだけだ。

 制服越しとかではなく素のままで。


「あなたって無駄な脂肪がなくていいわね」

「そうか?」


 お腹とか、太ももとか、内側だとか、柔らかさを最大限に表現したいのだ。

 問題なのは私の技術でそれができるのかということ、どうせなら実在する女の子かってぐらいにリアルに描きたかった。


「ちょ、そこは際どすぎだろ」

「大丈夫、後は下に触れていくだけだから」


 ふくらはぎとか足の裏とか。

 これまでの私は彼女の見た目通り描くことしか意識してなかった。

 それでは駄目だ、どんなところが硬くて、どんなところが柔らかいのか伝えられないといけない。


「……恥ずかしいだろ」

「ただのスキンシップだと思ってちょうだい」

「んっ……くすぐったいんだって」

「うん、ありがとう、大体分かったわ」


 机で早速どういうタイミングで使用するかを考えていく。

 たまたまお泊りしたタイミングで~とか、雨に降られた後に透けた下着を見て興奮して~とか。

 私の性格をS寄りにするのなら結局いつでもできることだから汎用性は高い。


「次の話、私とあなたの作品なの」

「おいおい、R18にとかしねえよな?」

「あなたが望むなら描けるわよ、幸いあなたの情報はここにあるわけだし」


 自分のはいくらでも後で見られるのだから。

 そしてできることなら付き合った後のことも描きたい。


「ねえ、確認してもいい?」

「は」


 結局我慢しきれずに全てを確認した。

 そのおかげでこちらは捗りまくりだ、R15バージョンとR18バージョンを出そう。

 泊まってくれるということだったからあまり気にせず集中できた、気づいたら0時越えていたけれど。


「あら、まだ起きていたのね」

「そりゃ、お前が寝る時間まで待っていないとな」

「もう寝ましょう――と言いたいところだけれど、お風呂に入らないとね」


 また風邪を引いても嫌だからささっと入ってお互いに部屋に戻ってきた。


「さあ、寝ましょう」

「どこに寝ればいいんだ?」

「それならあなたはベッドに寝てちょうだい、私は床で寝るから」

「それならあたしが床の方がいい、気を使うな」


 2枚目の毛布を勝手に取り、くるまって目を閉じてしまう祐希。

 しょうがないからこちらはベッドに寝ることにする。

 そういえば寝顔を描いたことがないと思いだしてある程度してから床へ下りた。

 うん、暗いけれど見える、スケッチブックを見なくたって描けるから大丈夫だ。

 私が単純に見ていたかった、目を逸らしたくなかった。


「……寝顔を描くんじゃねえ」

「いいじゃない、限りなく健全よ」

「スケッチブックを置け」

「はぁ、ええ、分かったわよ」


 曲がっても嫌だから机にちゃんと置いてからベッドに戻ろうとして、できなかった。


「また描かれても嫌だから一緒に寝る」

「……それならベッドでいいじゃない」

「だな、そうしよう」


 撮影者がいてくれれば良かったのに。

 恐らく私は嬉しそうな顔をしていると思う。

 少し残念なのは祐希が嬉しそうな顔をしてくれていないというところか。

 紙に描くのが無理なら脳内で描こう。

 彼女さえ描ければ問題解決なんだから気にする必要はない。


「寝ろ」

「……なんで分かるのよ」

「手が動いてるんだよ、癖みたいなものだろ」


 ……私もこの子もお互いを見ているということか。

 いまちょうどいいところだったけれどしょうがない。

 それなら早く寝よう、早く起きれば問題なく描くことができるから。




「ふぁぁ」


 意外、というのが正直な感想だった。

 こうして自分以外のベッドで寝たのは初めてだが、あっさりと寝られてしまったから。


「たくさん描きやがって」


 最新のページには蕩けた顔のあたしか。

 いつもと違ってそのままだ、身バレとか怖いから勘弁してほしいんだが。

 つか、自分がヒロインの作品を描くとか勇気あるな、それをするならあたしの方だろ、祐希だし。


「え……凄えな」


 1番端のページにはあたし達がキスしているところが描かれていた。

 あたしのことは見えても、ここまで上手く自分が絡んだ場合のことまで描けるなんて。


「勝手に見ないでよ」

「いやこれ……」

「あら、それより過激なのそっちに描いているわよ?」


 試しに見てみたら……どんだけあたしのことが好きなのかとツッコミたくなる感じだった。

 あたしに触れてからたった数時間でここまで描けるなんて才能の塊だな。


「お、お前さ、あたしのこと好きなの……か?」

「最初に言ったと思うけれど」

「いやそれはあくまで創作資料としてじゃないのか?」

「ふふ、どうかしらね」


 なんだそれ。

 ただまあ、嫌われているわけではなさそうで安心できた。

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