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065作品目  作者: Nora_
1/7

01

読むのは自己責任で。

会話のみ。

過去作品と名字名前及びキャラ性の酷似。

ワンパターン。

 起きたら小学1年生ぐらいのガキがいた。


「おい、ここはあたしの部屋だぞ」


 だろうな、という言葉を吐いておく。


「私はあなたのお母さん」

「は? ちょっと来い」


 脇に抱えて1階へ移動すると親父がいたので理由を聞いてみる。


「ああ、その子は俺の妻だ」

「やれやれ、ついにおかしくなったか」

「失礼なこと言うなっ、その証拠に胸がないだろ!」


 いや、小学生ならねえだろそれ。

 ちなみに親父は女児にぶっ飛ばされていた。


「そ、そもそもな、母さんの見た目のままだろ?」

「いや、もっと老けてるだろ母さんは」

「老けてないよ! ため息だってついてないよ!」


 ……もうこいつが母でいいか、いつもならいるはずの母がいないしな。


「よし母さん、家事してくれ」

「まっかせて!」


 取れないところは手伝ってやる。

 いい感じの台がないから椅子だって持ってきてやった。


「おぉ、上手いな」

「あなた達のご飯をいつも作っていますからっ」


 これは母だと認めるしかないようだ。

 それと確かに母って感じの顔をしている。

 あまりにも幼すぎて分かりにくいだけだなこれは。


「さて、俺はそろそろ行くぞ」

「親父、帰りにシュークリーム買ってきてくれ」

「分かった、じゃあ行ってきます」

「いってらー」

「いってらっしゃい!」


 こちらも母(女児バージョン)と遊んでいないで行く準備をしないと。

 朝飯を食って必要なことを済ませてから外に出たら滅茶苦茶寒かった。


「なんだよ……どうしてこんなに一気に冷え込んでんだ」


 空気を読めよ気温! 昨日まではもうちょい温かっただろ!


祐希ゆうきー」

「おう」

「あっ!?」


 良かった、おかしいのは母だけのようだ。

 二渡祐希があたしで、いま転んだのが葉室奈々子ななこ

 一応小学生の頃からの仲だから仲が悪いということはないと思う。


「大丈夫かよ?」

「えへへ……心配してくれる祐希が好きー」

「友達だからこれぐらいは普通だろ、ほら掴め」

「うんっ」


 寒いから自然と速足になる。

 でもこのちっこいのは歩幅もちまちましているので抱えて歩くことにした。


「あ、また奈々子ちゃんが運ばれてる」

「ああ、こうした方が早くてな」

「いいなあ、私もそうしてほしい!」

「いいぞ」


 なんだか不思議な絵面になったが気にしないで教室まで移送。

 名前も知らない女子は「ありがとねー」と言って別クラスに戻っていった。


「おはよう、ふたりとも」

「おう」

「おはよー」


 こいつは薮崎美麗みれい、奈々子とは特に仲がいい常識人。

 だが、小さい少女を溺愛している女でもある、その勢いを前にしたらあたしでも引くぐらいだ。


「美麗、実はあたしの母さんが小さくなったんだけどさ」

「なんですってっ!? きょ、今日行くわっ、絶対に行くわ!」

「で、また漫画を描くのか」

「当たり前よ!」


 現実の女児が参考にされていてもかなり別物に仕上がるのが不思議なところ。

 しかもこいつは画力が高い、更に言えば内容もほのぼのとしたものだから大丈夫。

 だから母(女児バージョン)があられもない姿にされることはないだろう。


「あははっ、美麗はまた気持ち悪いねー」

「ぐはっ!? ふぅ、落ち着いたわ」

「うん、それがいいよ」


 興奮状態を止めるのは常に奈々子だった。

 笑顔で容赦なく毒を吐くのが効果的なんだろう、流石にあたしには真似できないが。


「ほ、本当に小さくなったのよね? 嘘ついたらあなたでえっちな本を作るから!」

「大丈夫だ、行くぞ」


 放課後、用があると言った奈々子と別れてふたりで家に帰ってきた。


「お邪魔します!」

「いらっしゃいっ」

「ふふぉぉ!? み、見て見てっ、祐希見てっ!」

「あたしは知ってるよ」


 本当に見た目はいいくせに残念な一面だ。

 そのくせ、あたしが関わる中で1番優秀だったりする。

 おまけに普段は真面目だから教師からも信用されているのだ、こんなのが内に棲んでいるとは知らずに馬鹿みたいに信用してな。だから「薮崎はいつも偉いな」という担任の言葉を聞く度に吹き出しそうになるぐらいだった。


紀恵のりえさんっ、描いてもいいですか!?」

「それなら背中を掻いてー」

「ぶふっ、わ、わざわざそんなところをっ、分かりました!」


 いや違うだろ、母はただ掻いてもらいたいだけだろ。

 そう説明されて、掻いた後に描いていた。


「祐希ちゃん、ちょっとちょっと」

「なんだ?」

「私、小さくなっちゃった」


 そんなの見れば分かる。

 ちなみに美麗はどんな対象でも女児化できてしまうのでぶっちゃけなんにでも興奮できるやつだ。

 いまは勝手に母の服を捲くりながら「なるほど」とかクソ真面目な顔で呟いていた。


「専業主婦で良かったな」

「うん、確かに」


 働いていたら大変だろうし。

 力はそのままみたいだが身長がとにかく問題だろう。


「じゃ、あたしは上にいるから」


 この状態になったら奈々子が止めるか本人が満足するまで止まらない。

 説得すること自体がアホらしいことだからと自室に戻った時だった。


「祐希、脱ぎなさい」

「またかよ……それならせめて暖房をつけてからにしてくれ」

「ええ」


 これだけはあたし達の秘密だ。

 こうして協力する時が結構あった。

 奈々子じゃ駄目な理由は、可哀相なことができないからだそう。

 あたしはいいのかよって話だよな。


「今日は全部よ」

「さ、流石にそれは恥ずかしいんだけど……」

「駄目よ、言うことを聞きなさい」


 安易に引き受けたりするとこうしてエスカレートするから気をつけような。

 で、言うことを聞いている馬鹿な人間がここにいる。

 いや、変にごねたりするともっと酷いことになるからだ。

 そのひとつの例が、美麗の描くエロ漫画に登場させられる羽目になる。

 こいつはふたつの面を持っているのだ、健全と不健全のふたつをな。

 ただ、あんまり見られるとその……なんか変な気分になってくるのが正直なところ。


「もういいわ、ありがとう」

「お、おう……」


 こ、これはあれだ、友達が犯罪に走らないよう協力してやってるだけでだな……。

 よく同性の裸をまじまじと見られるものだ、テスト勉強をしている時みたいな顔をしているからどうしようもないんだよなこちらとしては。やはり女児ものが1番だということか、それならなんであたしなんかを見て描くんだろうな。だってその界隈の中ではばばあだろ、それとも許容できる範囲が広いやつしかいないのか? もしそうなら色々な趣味の人間がいるということになる。


「あなたはいい体よね、正直に言って興奮するわ」

「え、でも小さいのが好きなんだろ?」

「それとこれとは別腹よ」


 変態でも危ないので(周りが)送っていくことにした。

 なぜか手を握ってきているのが怖い、嫌な予感しかしないから。


「あなたのことが好きよ、協力してくれるから」

「じゃあもう少し遠慮しろよ」

「それは無理な要求ね」


 だと思ったよ。

 こんなので聞いてくれるのなら同級生にあんなの求めない。

 突っ立っているだけだから楽でいいが、恥ずかしすぎて毎回消えたくなりたいぐらいだった。

 そして絶対に奈々子には知られたくないことだ、変態扱いをされるのはごめんだからな。


「また明日な」

「ええ、送ってくれてありがとう」

「あんなことに比べれば普通だからな」


 できればやめたいが、奈々子が被害に遭うぐらいだったらあたしが引き受けよう。

 なにもデメリットばかりではないのだ、結構泣ける作品を作って読ませてくれるから。

 それなら例え裸を晒そうが問題はないわけだ、意外にもファンだったりするし。

 とにかく問題は奈々子にバレるのではないのかというリスクがつきまとっていること。

 

「ま、最悪変態扱いでもいいか」


 なんなら言ってしまった方が楽かもなと思った。




「二渡さんに用があるって人が来ているけど」

「ありがとな」


 廊下に出たらいきなり壁ドンをされた。

 目の前の女は不敵な笑みを浮かべて「元気だったか?」と聞いてくる。

 元気だと答えたら笑みの種類を変えて「そうかっ」と楽しそうにしていた。

 この人は3年の大嶋麻由里まゆり先輩、これまた奈々子と特に仲がいい人だ。


「奈々子は今日も小さくて可愛いな」

「麻由里先輩も小さいけどな」

「いや、自分を可愛いなんて言えないだろ? だから奈々子を愛するんだ」


 ツインテールなんてあざとい髪型にしておいてよく言うよ。


「麻由里先輩! 描いていいですかっ」

「駄目だ、お前は気持ちが悪いからな」

「当たり前ですよっ、可愛い存在を目の前にしたらそうなるのが普通です!」


 今日も暴走してらあ。

 で、結局美麗は誰でもいいんだ、この通りな。

 そのおかげで結構楽できたりもする、最後は必ず戻ってきて要求してくるが。


「祐希、今日も美麗は気持ち悪さ全開?」

「ああ、いつも通りだな」

「なら私を描けばいいのに」


 まさか奈々子の口からそれを聞けるとは。

 美麗だってさぞ嬉しいに違いない――そう思っていたのだが。


「あら、奈々子は駄目よ」

「え、なんで?」

「あなたは健全だからこそ輝くのよ!」


 そうきっぱり言ってのけた。

 昔からいままで貫いていることでもあったから清々しかった。


「「じゃああたし達は不健全なのかよ」」

「ええ!」

「「えぇ……」」


 ま、このことを言っても無意味なことは分かっている。

 彼女にとってはぶっちゃけてしまえば誰であれ対象が女性なら捗る、ということだ。

 仲良くなればあたしにだけではなく他にも全裸要求やそれ以上のこともするかもしれない。


「美麗っ」

「なによ? 珍しくそんなに大きな声を出して」

「あたしならいくらでも協力するから他のには手を出すな」


 馬鹿だとは分かっているが、他の合間に剥かれるのは複雑だ。

 絶対に無心ではできなくなる、おまけに漫画だって楽しめなくなる。

 そんなことになるぐらいなら喜んで見せてやろうじゃないか。


「へえ、それはつまり、そういうことよね?」

「ああ」


 こうしておかないといけない理由もある。

 奈々子が去ってしまったらひとりになってしまうからだ。

 みんな奈々子経由で関われているだけだから、ひとりぐらいは自分の力で引き止めたいわけ。

 そういう場合にこれは役立つということ、対価を与えておけば人は満足するものだからな。


「どういうことだ?」 

「そうそう、どういうこと?」

「特別なことはなにもないぞ、ただ美麗の欲を発散してやろうとしているだけだ」

「それってなにかえっちなことなの?」

「いや? 至って健全だ」


 ヌードモデルをやる人なんて他にもたくさん存在しているんだから気にするな。

 そのためには美容とかを意識しておかなければならないが。


「なるほどな、つまり祐希も変態だということだろ?」

「そうだそうだー、変態だー」

「人間はみんな結局変態なんだよ」


 美麗に話してからバラしてしまおうとしたら止められた。

「ふたりだけの秘密よ」と囁き、顔を見たらウインクをされるという始末。

 その後、予鈴が鳴ったことにより解散に。

 面倒くさいことにならないよう授業は真面目に受けることにしている。

 学力が高いのは美麗と麻由里先輩、普通ぐらいがあたしと奈々子。

 そのかわりに運動が得意なのがあたしと奈々子となっているため、意外とバランスが良かった。

 

「祐希、ちょっと」

「おう」


 珍しく教室を出るのか。

 いつもスケッチブックとにらめっこしているやつだから珍しい。


「いまからキスするから」

「は? え、ん!?」


 描ければなんでもいいのかよ!

 なんだかな、同性とキスするって不思議な感じだ。


「あ、その顔でままでいて、ふむ、やっぱりお手本が目の前にいると楽ね」

「いやお前、いいのかよ?」

「ちなみにいまのがファーストキスだったわよ?」

「あたしもだよ……もっと大切にしろよお前」

「あら、他の子に手を出さないかわりに自由にでしょう?」


 いきなりそういう物理的接触をしてくるとは思わなかった。

 創作意欲が湧いているのは結構だが、本当に己の身は大切にした方がいい。


「あなたって私好みの顔なのよね」

「そうかい」

「本当に興奮するわ、授業中もあなたが視界に入ると体が疼くの」

「それはやめろ、家に帰ったら付き合ってやるから」

「でも、奈々子の方が上ね、あの子を前にすると尊さしかないの! あの子で不健全なことを考えるなど罰当たりな行為だわ!」


 ……そんなの分かってるわ。

 誰より上とか考えたことはない。

 誰より下とかも考えたことはなかった。

 評価を下すのは結局他者だ、マイナス思考をしていてもなにも意味がない。

 おまけに本当にそうなってしまう、それだけはごめんだ。


「ごめんなさい、いま物凄く後悔しているわ、私は奈々子のために残しておいたのに!」

「だろうな、だから大切にしろ本当に。ちゃんと付き合うから、言ったことぐらいは守るぞ」

「祐希……そんなこと言うともう1度してしまったのをいいことに自由にしたくなるからやめてちょうだい、あなたは天然よね」


 適当に寝転んだらそのまま上に座ってきた。

 何気にこの真面目な表情が好きだったりする、テンションが上がっている時は気持ち悪いが。


「いいわね、このアングル」

「すごいな、なんでも捗って」

「当たり前よ、あなたは描かれる時でも自然でいてくれるからいいの」


 変に照れたりする方が後の精神ダメージが違うからだ。

 おまけに美麗は相手を悲しませたりはしない、一応常識はあるということ。


「ね、していい?」

「ま……お前がしたいなら」


 こいつのよく分からない点は、奈々子のことが大好きなくせにあんまりふたりきりではいないことだった。尊いとか言うぐらいなんだからもっと積極的に誘ってもいいところをこうしてあたしで満足しているということだ。


「あ、いいわねその表情、なにをされても真顔な彼女ということで」

「満足したか?」

「ええ、大丈夫よ」


 気持ちが悪いと言われることを恐れているわけではないだろう。

 それに健全な本だって描いているんだから奈々子のことも描けば良かったのにしなかった。

 これはあれか、自分みたいな存在が近づくだけで汚れてしまうとかそういうのか。

 本気で言いそうだもんなそういうの。


「胸は……ドキドキしているのね」

「無反応は無理だろ」

「いいわっ、そういうの凄くいい! 無表情だけど本当はドキドキしているとか最高じゃない!」


 期待に沿えたようで結構。

 大丈夫、こいつとはこういう風にフラットに接していれば問題ない。

 要求がエスカレートする可能性はあるが、流石に暴力とかはしないはずだ。


「あ、予鈴ね、戻りましょうか」

「その前に洗いたい」

「そういえばそうだったわね」


 ただまあ、本当に絵が絡むと他が疎かになる点だけは気をつけておかないと。

 こいつが危ないことに巻き込まれるのは嫌だった、誰だって友達の不幸なところなど見たくない。


「美麗、あたしはいつでも近くにいるからな」

「今日はどうしたのよ?」

「痛いの以外だったらなんでもするから友達でいてくれ、頼むっ」

「そんなこと急に頼まれても、例えこれがなくても友達ではいるわよ」

「そうか、ならいいんだ」


 これで不安にならなくて済む――と考えてしまう自分は馬鹿なのかもしれないが。

 それでも信じて行動するだけだと考えつつ教室に戻った。




 今日の帰り道は逆に美麗がいなかった。

 奈々子とふたりきり、なんにも珍しくない普通の光景。


「ね、美麗となにしてるの?」

「あ……美麗に言うなって口止めされてるんだ」

「教えてほしいなー」


 どうせバレるならと言おうとしたのにできなかった。

 奈々子の笑顔は迫力がある、にこにこしているのに裏ではなにを考えているのか分からないみたいな感じで。ちなみにこれは美麗の前でも同じだ。


「キスしてたよね」


 ……見てたのか。

 これは確実に気持ち悪いと言われるのがオチ。

 まあここまでバレているのならもうしょうがない、不可抗力みたいなものだ。


「いいなあ」

「え?」

「私もまだしたことないからさ」


 そりゃ相手がいないならできないことだからな。

 あたしだって今日まで未体験だった。

 両親はしたかもしれないが世間的にはそれはノーカウント、経験とはならない。

 が、相手が同性であれあたしはしたことになる、相手からされたのだとしても。


「祐希、経験者ならしてよ」

「ちょ、お前らは自分を大切にしろよ」

「安心して、お試しみたいなものだから」

「駄目よそんなの!」

「そうだ駄目だ、こいつが言うと説得力がないけどな」


 なにをやっていたんだか、こんだけ寒いのに汗をかいてる美麗がやって来た。

 奈々子との間に壁を作るように立ちふさがる、そうだ、そうしておいてくれ。


「奈々子のファーストキスは私が貰うわ」

「いいよ、はい」

「え、ちょ、ど、どうしたらいいのかしら祐希」

「知らね、好きにしたらどうだ」


 帰ったら縮まった母の代わりに家事でもするか。

 それが終わったらさっさと風呂に入ってコタツに突入する。

 みかんでも食べていれば無限に時間をつぶせる場所がそこだった。

 部屋に帰れば暖房も使えるものの、なるべく電気代がかからないようにしたい。


「あたしは先に帰るからな、気をつけろよお前ら」


 無視かよ、まあいいけどよ。

 家に帰ったら考えた通りに実行していく。


「母さんはコタツにでも入ってればいいぞ」

「そういうわけには、私は専業主婦ですし」

「学校が終わったらあたしもそのようなものだ」

「むぅ、じゃあ休ませてもらうね」

「おう」


 あ、そういえば課題もあったっけ。

 やることは毎日たくさんあるな、だから飽きもせず生きられているということかと気づく。

 人間は結局、欲には勝てない。

 口ではなんだかんだ言っていても脳や体は正直になることだろう。


「我慢できたのかねえ」


 貫けたのならプロだ、逆に負けたのなら人間らしくていい。

 実は自分にもそういうものが潜んでいるかどうか探してみたものの、すぐに出てくる様子はなく。


「よし、風呂だ」


 食後はすぐに風呂に行くのが常のこと。

 後にすればするほど湯が冷めるし面倒くさくなる。


「キス、したのか」


 わざわざ連絡してきやがった。

 なんか滅茶苦茶ハイテンションで気持ち悪いぐらいで。

 対する奈々子は冷静、なんにも良くなかった、美麗の鼻息が荒かったと説明してくれて。

 不特定多数としていそうなあいつとよくしたなと呟く。

 最初からしておけば良かったのによって気持ちになった。


「祐希、どうしたんだ?」

「別になんでもない、今日もお疲れさん」

「ありがとな、たまにはビールを注いでくれ」

「いいぞ」


 あれ、いちいち安いの買ってるんだな。

 酒が飲めればそれでいいということか、本気で酔いたい時は高いのを買うと。

 普通はそうやって切り替えをするもんだよな、いつだって最高のままでいられるわけじゃない。

 ま、あたしのそれに価値があるわけでもないし、いまか後かって話でしかないか。


「なのになんだろうな、この虚しい気持ちは」


 愛情がないからか。

 胸をドキドキさせていようと向こうにとっては興味のないこと。

 あいつからすれば外見だけがあればいい、内側はいらないってことだ。

 つまりそれはあたしを否定しているのと同じだが、なんでもするとは自分だから守らないと。

 ひとりになることよりかはマシだろう、そう信じて行動するしかない。


「なんだよ?」

「返事ぐらいしなさいよ」


 どうやって返事すればいいんだよ。

 恐らくどう反応を返しても素っ気ないとか言われてお終いだ。

 幸い美麗はちょっと時間が経てば落ち着くから問題ない。


「尊い存在とキスできて良かったな」

「それなんだけれど……」


 なんだよ? なんでそんな声音なんだ。


「やっぱり駄目ね、尊い存在に手を出したら」

「欲望に負けておいてなにを言うんだ」

「それを言われると耳が痛いけれど」


 布団の中にこもりながらだらだらと通話。

 美麗は意外にもすぐに切ったりはしなかった。


「あなたにしたこと後悔しているわ、多分それも影響していると思うの」


 だろうな、罪悪感に推し潰れそうになったんだと思う。

 そりゃ尊いだの推しだの言っていた人間とする前にしたら駄目だろ。

 絵が絡むと馬鹿になる、あたしの方が常識あるな。


「祐希?」

「悪かったよ、後悔させちまって。ま、これからは気をつけろよ、あたしにしたこと全部いつかは後悔するんだからな」


 後悔して当然だ、興味ないんだから。

 創作意欲を満たすためには十分ではあるが、薮崎美麗の心は満たせない。

 

「流石にそこまでは……」

「無理するな、友達ならなんでも吐けばいい」


 分かってるよ、こちとら内面になんにも魅力がないからな。

 表面上だけであれば結構いい勝負ができると思う。

 が、それも内面を知られるまでの話だが。


「……私が約束を破ったこと、怒っているの?」

「約束?」

「他の子に手を出すな」


 あ、そういえばそれすっかり忘れてたな。

 所詮は口約束だから効力はないということを説明しておく。


「だから気にするな、お前がしたくて相手もいいって言ってんなら自由にしろ。ただ、そうするなら2度と触れないでくれ。ま、問題ないよな、お前はあたしに興味なんかないし、じゃあな」


 触れないのであれば約束通りしてやるよ。

 脅されてしているわけじゃないんだからな、相手が男なら殺して死にたくなるだろうが。


「ま、待ちなさい」

「どうした?」

「あなたに興味があるに決まっているじゃない」

「それはあくまで表面にだけだろ。二渡祐希に興味があるわけじゃない。たまたま好みの顔があたしだったってだけだろうが」


 嫌だねえ、これじゃ嫉妬しているみたいで。

 やっていることが普通ではないから忘れそうになるが、友達でいてもらうためにしているんだ。

 それさえ守ってくれれば正直なんでも良かった、複雑な気持ちになるのは確かだけどな。


「どうしたのよ、情緒不安定ね」

「ああ、感情のコントロールが難しくてな」

「と、とりあえず今日はもう切るわ」

「おう、おやすみ」


 あれか、一応ファーストキスとかそういうのを大切にしようとしていたのかもな。

 だからここまで引っ張り続けているんだ、なかなか乙女の一面があるじゃないか。

 あいつが後悔しないように行き過ぎた行為は注意するとしよう。

 まあ、現状のままなら他で進展があっても面倒くさいことになったりはしない。

 キスなんて後から付き合えば普通にしているやつらばかりだ、しかもあたし達に限っては同性同士のそれだからあまり問題にもならないはずだ。恋する相手が女だったりすると……まあその時はその時だな。


「なるほど、これが賢者タイムってことか」


 なんか萎えるって聞くし正にそれだよな。

 しかもこちらはほぼ無理やりだった、なおさらそうなってもおかしくない。

 にしてもここまで長引くのかよ、男子って面倒くせえな――とまで考えて。


「これ発症しているってことは男じゃねえか……」


 空気を読んで『俺』って言った方がいいか? と真剣に考えたぐらいだった。

 もちろん、そういうのを気にして変える方がださいと気づいてすぐにやめたが。




「よう、祐希」

「あ、麻由里先輩」


 この人といるのは落ち着く。

 無茶な要求はしてこないし、話し方は自分っぽいけど優しいし。


「どうした、今日はあのふたりといないのか?」

「あのふたりはふたりで盛り上がっているんだよ」

「そうか、なら優しい先輩が相手をしてやろう」


 ツインテールに触れて遊んでいることにした。

 なぜこのような髪型にしているのか聞いたら「可愛いあたしにはこれが似合う」と自信満々に言ってきて眩しいぐらいだった。やっぱりマイナスな気持ちを抱えてても仕方がないということだ、それならあたしも見た目だけはいい女として生きておこうと決める。


「お前、友達でいてもらうために引き受けているんだろ?」

「よく分かったね」

「そんなことをしても無駄だ、期待に応えられないと判断されたらあっという間に去られるぞ」


 それだけは怖い点か。

 いくらポジティブに考えると決めたって現実を見なければ始まらない。

 そしてどうしたって現実的な面が気になってしまうのだ、人間とはそういう生き物だろう。


「なら麻由里先輩はいてくれよ」

「卒業まではな、ただあたしは卒業したら海外に行くからな」


 すごいスケールの大きい話だった。

 日本全国にだって行けてないのに海外? 時期尚早じゃないだろうか。


「不安になるだろうが焦るな、お前が1番自分を大切にしろ」

「……ずっといてくれよ」

「できればそうしてやりたいところだが……」


 謝罪をして少し離れた。

 1番ふらふらしているのはあたしだということだな。

 こういう人間のことは簡単に信用できないようになっている。

 なにを考えているのか分からないし、指示されれば従ってしまうから。


「祐希、あたしの目を見ろ」

「……見たけど」

「お前なら大丈夫だ」


 なにを根拠にって言いたくなったけど、単純なあたしは本当にそう思えてきてしまった。


「っと、悪い、そろそろ戻らないと」

「いや……ありがたかったよ」

「ふっ、そうか、なら良かったぞっ」


 あたしにもこれがほしい。

 相手を落ち着かせられるような笑顔。

 なにをしてもされても無表情なのは直したい。


「祐希、そこにいたのね」

「ああ」


 友達と会ったら笑顔になるのが自然だ。

 笑え、そうすればこいつだってもっと気に入ってくれるはずっ。


「……や、やっぱり怒っているのねあなた」

「は……は?」

「ごめんなさい、近づくの当分やめるわ」


 なにも言えないでいたら「あなたを見るとまた暴走してしまうから」と呟いて美麗は戻っていってしまったではないか。あたしはただ笑顔を浮かべる努力をしてみただけなのに。

 その後も学ばずに奈々子に見せたら怯えられて、行きづらい美麗のところに逃げられてしまって。

 あたしは自らの手によって壊してしまったことを後から知って、ひとりで拗ねてた。


「はっ、そんなに怖いならある意味才能だな」


 ひとりで笑って帰っていたら通りすがりの生徒も怖がらせてしまったけれど。


「ただいま」

「おかえりっ」


 ああ、あたしがどんな笑顔を浮かべようと笑顔で迎えてくれる母が好きだ。

 小さいのをいいことに持ち上げて抱きしめた、「わっ」と驚いている母を無視して抱きしめ続ける。


「なにかあったの?」

「いや、友達に小さいのが好きな女がいてさ、なんとなく気持ちが分かったんだ」

「だからって手を出したらだめだよ?」

「しない、母さんだからできたことだ」


 今日はとりあえず風呂だな、なんでも温まればすっきりする。

 久しぶりに母も誘って一緒に入ってみた、つるつるぺったんこで面白かった。


「怖くないか?」

「うん、大丈夫だよ」


 一応湯船の中にも座れるところがあるから平気か。

 いくつになっても母の存在は重要だ、他所様で仲が悪いのはなんでかと問いたくなるぐらい。


「祐希ちゃん、暗い顔をしているね」

「寒かったから血色が悪いんだろ、冷え性だからな」

「美麗ちゃんや奈々子ちゃんとなにかあったの?」


 流石鋭いな、母にはバレバレってことかよ。

 でも美麗の方はどうやって説明するよ、しかも笑顔で怯えさせたってださいじゃん。

 母ならこんなミスは犯さない、その明るい笑顔でなんでも解決してしまうと思う。


「なにもない、大丈夫だ」

「そっか……」


 言えねえよなこんなの。

 多分バレるだろうけど麻由里先輩にだって言えないことだ。


「出るかな、って、さっみぃ!」


 早くしないと風邪を引く。

 休んだらあのふたり、特に美麗が気にしてしまう。

 すぐに暖かい格好をしたり、コタツに入ったり、早く寝たり。

 対策はしっかりとやった――けれど、繋がらなかった。


「おぇ……」


 翌日は休む羽目になって1日中母に側にいてもらった。

 どうして風邪の時ってこんなに不安で寂しくて悲しくなるんだろうな。

 寒いのにこういう日に限って外に出たくなる。

 普段ならできる限り屋内にこもっていたいって思うのにな。


「あ、ちょ、祐希ちゃん!?」


 外へ出て前へ。

 熱はずっと寝ていたから多分もうない。

 でも、学校へ行く意味もなかった。

 だって友達ふたりから距離を置かれているわけだしさ。

 なのに少なくともひとりじゃないって思いたかったんだ。

 外でも二渡祐希を認識してもらえるんだって分かってからじゃないと帰れない。


「なにをやっているんだお前は」

「寂しくて……」

「いいから戻れ、お前の家に行くつもりだったんだからな」


 優しいな、麻由里先輩は。

 家に戻ったら強制的にベッドへと転ばされた。


「明日は来れそうか?」

「それは大丈夫、もう治っているから」

「で、過信して外に出てきたと」


 タイミングが悪かったのだ。

 なにもいまじゃなくてもいいだろうに。

 せめて謝ってから寝込みたかった、そうすれば上手くリセットできるから。

 けれど今日みたいなのは最悪である、ふたりだって自分のせいじゃないかって気になってしまうだろう。


「ちなみに、今日は1度も美麗と奈々子が話しかけてくることはなかったぞ、教室には行ったんだがスルーされてしまった。お前、あいつらになにかしたのか?」

「したと言えばしたし、していないと言えばしてないよ」

「なんだよそれ、はっきりしろ」


 恐らく先輩に言わなかったのはこうして情報が漏れてしまうから。

 頭がいい美麗ならそう行動するはず、そして相方がそう決断すれば奈々子も真似るはずだった。

 そうだよ、あいつらが仲いいんだ、先輩だって同じだ、元はと言えば奈々子が始まり。

 その奈々子を怯えさせてしまったいま崩壊もすぐのことだろう。


「あたしの髪で遊ぶな」

「……いいだろ?」

「ひとつ吐く毎に10秒だ」


 面倒くさいから最初から全て吐いた。

 こうしてあたしは自由にする権利を得られたわけだ。

 みょんみょん遊んで寂しさを癒やす、約束だから先輩も文句は言わなかった。


「笑ってみろ」

「こ、こんな感じだよ」

「ぷふっ、あーはっはっは! 馬鹿すぎだろそれは!」


 普通こうだよなあ、笑って済ませてくれればいいのにさ。

 あんなに申し訳無さそうな顔や怯えた顔をしなくてもいいだろうに。


「笑わせてもらった礼だ」

「……なんで抱きしめるんだよ?」

「お前が泣いているからだ、お前は結構泣き虫だな」

「……そんな何回も見せたことないだろ」


 マイナスな意味で泣いたのは初めてだった。

 これまでは感動する番組とか漫画とかでしか泣けなかったのに。


「大切なんだろ?」

「……向こうにとってはそうじゃないけどな」


 あと、こういうことしてくれていても先輩だって違う。

 奈々子がいなければ始まらない、そしていまは奈々子がいない。

 なぜ来てくれるのかということになれば、本人だって分からなくなると思う。


「じゃあ言おう、あたしはお前のことが大切だぞ」

「……優しいな」

「本当だぞ、だからこうして来ているだろ」

「じゃあ来ていないふたりは……ってなるじゃんか」

「ふっ、女々しいやつだ」


 先輩は「そこが可愛らしいけどな」と言って笑ったのだった。

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