第七話 催眠術士は悪を理解する
「嘘、だろ……」
場所はランの宿屋。
現在、グレンはそこの前に居た通行人。
彼等から一連の話を聞いていた。
「ランが……死んだ?」
「あっという間の出来事だったよ」
と、言ってくるのは老人だ。
彼はどこか諦めた様子で、グレンへと言葉を続けてくる。
「ランちゃんは可愛かった。きっと、昔から目を付けられていたんじゃろ」
「いったい、何のためにそんなこと」
「噂では、フウ様は美しい少女の血から、美容のための薬を作っているそうじゃ」
「……は?」
つまりなんだ。
ランは美容のために殺されたのか。
だが、辻褄があうこともある。
(たしか、朝市で話を聞いた肉屋の店主――彼はフウが美しい少女を誘拐していると言った)
どんな薬かはわからない。
けれど、フウは美容薬を作るために、美少女を攫っているわけだ。
そして、攫われた少女が帰ってこない理由。
それは材料にされて、死んで居るからに違いない。
なんという邪悪。
フウ・ギルバートは悪魔だ。
そして、今回の件を防げなかったグレンも同罪だ。
(俺は知っていただろ――ギルバートの邪悪さを。だったら、その子孫であるフウも、同じ邪悪さを持っているに決まっている)
グレンの中に残っている正義が、彼の思考を鈍らせてしまった。
ひょっとしたら、フウは善の分部があるかもしれないと。
(バカか……俺は)
「大丈夫かい? 顔が真っ青だよ、あんた」
と、言ってくるのは老人。
グレンはそんな彼へと言う。
「あぁ、ちょっと吐きそう……なんだ」
グレン自信の甘さに――その甘さが、ランを殺してしまった事に。
もう容赦はしない。
ランの命を無駄にはしない。
きっとこれから先、グレンが何をしても、ランは許してくれないに違いない。
けれど。
(俺はもう二度と間違わない)
三英雄の血脈は、全員が邪悪だ。
倒すべき悪魔――最初からその認識でかかる。
(もし今回もそうしていれば……馬車の中で、俺がフウに《ヒュプノ》を使っていれば)
ランは死ななかった。
と、グレンがそんな事を考えていると。
「おい、あいつだ!」
「あぁ! 手配書の似顔絵にそっくりだ!」
「いいか、絶対に殺すな! 生かして捕まえろ!」
と、聞こえてくる男達の声。
見れば、騎士達が剣を抜き、グレンの方へと駆け寄ってきている。
当然、グレンには狙われる心当たりはない。
故に――。
「じいさん、一応聞いておくけど、騎士達に狙われる心当たりは?」
「な、ない! わ、儂はなんにもしとらん!」
と、慌てた様子で走り去っていく老人。
こうして、ここに居るのはグレンだけになった。
にもかかわらず、騎士達はグレンまっしぐらだ。
(やれやれ、面倒だな)
「おい、貴様!」
と、言ってくるは、グレンの傍までやってきた騎士達――そのうちの一人。
彼はグレンの首元へと剣を突きつけてくると、そのまま言葉を続けてくる。
「フウ様が貴様を欲しいとおっしゃられている! 我等と一緒に来てもらおうか!」
「おいおい、俺はいつの間にフウから告白される身になった?」
「き、貴様! フウ様をバカにしているな!?」
「痛いな……首に切っ先が刺さってるぞ――見ろ、少し血が滲んでる。俺の事は、殺さないんじゃないのか?」
「黙れ! それ以上、動けば容赦はしない!」
というか、グレンはそもそも動いていない。
けれど、それも終わりだ。
グレンは強い。
けれど、さすがに騎士達にわざと捕まり、フウ達の元へと行くのは危険だ。
数の暴力と同時、フウの相手もとなれば、負ける可能性がある。
故に――。
グレンは騎士の件へと、手を当てる。
そして。
「《物理催眠》」
「な、なんだ!? 俺の剣が――っ!?」
と、粉みじんになった剣に驚いた様子の騎士。
グレンはその隙に、彼の胴に蹴りを入れて、離れた位置へと吹っ飛ばす。
同時、他の騎士達がグレンへと剣を向けてくるが。
「遅すぎる……止まって見えるぞ、その程度」
この程度ならば、《物理催眠》による身体強化を使う必要すらない。
まず、グレンは襲ってくる初撃を、あえてギリギリで躱す。
「《物理催眠》」
言って、グレンは先ほど攻撃を放ってきた騎士。
彼の胴を人撫ですると同時、彼の剣を強引に奪い取る。
そこから続いて、その剣をやや離れた位置に騎士へと投げつける。
「か、かひゅっ」
と、聞こえてくるのは、首に剣が突き刺さった騎士の声。
グレンは足に力を込め、その騎士との距離を一気に詰める。
続けて、彼は騎士の首に刺さった剣を引き抜く。
「あ、か――っ」
と、出血のせいに違いない――その場に倒れる騎士。
まだグレンの攻撃は終わらない。
次にグレンは最後一人の騎士に向け、剣を向ける。
そして。
「《物理催眠》」
その直後。
騎士の胸めがけ、切っ先が凄まじい速度で伸びる。
当然それは――。
「ぐ、あ……が」
と、胸に剣が刺さった騎士。
グレンが剣を手放すと、支えを失った騎士も崩れ落ちる。
これで終わり、もう敵は残って――。
「き、貴様! 我等に逆らったな!」
と、聞こえてくるのは騎士の声。
見れば、グレンが二番目に戦った騎士――胴を一撫でした騎士だ。
彼はなおもグレンへと言ってくる。
「ふ、フウ様が――あぁあ……」
「おい。フウ様がどうした? 続きを言ってみろよ」
「…………」
騎士は立っているばかりで、何も反応しない。
それも当然、なんせ。
(こいつは《物理催眠》を、胴にもろにくらった)
グレンがこの騎士にした催眠。
その内容は――。
(頭の中身がどんどん消えていく)
きっと今頃、この騎士の頭の中は、すっからかんになっているに違いない。
さてさて、あまりここに長いするわけにはいかない。
なんせ、敵はこの街の領主フウ。
グレンがここに居るとわかれば、いくらでも増援を送るに違いないのだから。
「それにすることもあるしな」
と、グレンは最初に蹴り飛ばした騎士。
今は気絶している彼へと、視線を向けるのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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