第四話 国境の街フーカ
時はフウや騎士達と別れて数分後。
場所はフーカメインストリート。
現在、グレンはとある問題を抱えていた。
それは。
「は、腹が減った……」
考えてみれば、グレンはこの数百年。
身体を再生させるのに必死で、何も食べていないのだ。
(再生させている間は、無意識に《物理催眠》と《精神催眠》を併用して、空腹の問題を解決していたんだろうな)
実際、グレンは無意識にうちに寿命を延ばしていた。
厳密に言うなら『延ばす』ではなく、とった歳を『もとに戻していた』わけだが。
なにはともあれ。
「気が抜けたら、一気に腹が……っ」
あれ、おかしい。
何故かグレン、急に地面で横になっている。
いったいどうしてこうなったのか。
「…………」
視界がくるくる回っている。
周囲から人々のざわめきが聞こえてくる。
(空腹、だけじゃ……ない、な……これ)
数百年ぶりに、《物理催眠》での身体強化。
直後、いきなりの戦闘。
(まぁ……身体がついて、くるわけない……か)
と、グレンがそんな事を考えたその時。
彼の意識は今度こそ深い闇の底へ落ちていくのだった。
「っ……ここは?」
グレンは気がつくと、ベッドで眠っていた。
見えてくるのは知らない天井、そして知らない室内。
いったいあれから、どれくらいの時間が経ったのか。
グレンがそんな事を考え、身体を起こした。
まさにその時。
「あ、起きたんですね!」
と、部屋に入ってくると同時、そんな事を言ってくるのは黒髪ロングの少女。
彼女はお盆を手に、グレンの方へと近づいて来る。
そして、そのまま彼へと言葉を続けてくる。
「わたし、この宿屋の主――ランって言います!」
「あ、俺は――」
「あなたは、道で急に倒れちゃったんですよ。覚えていますか?」
そういえばそうだ。
状況を見る限り、ランがここまで運び、看病してくれたに違いない。
故にグレンはそんな彼女へと言う。
「助かった、ちょっと体調が悪くてな。でももう大丈夫だか――」
「あ、まだ立ち上がったらダメです!」
と、盆をベッド横のテーブルへと置き、言ってくるラン。
彼女はグレンを静止したのち、さらに言葉を続けてくる。
「まだ顔色がよくないです! 料理を作ってきたので、よかったら食べてください!」
「料理……」
と、グレンは盆の上のそれへと眼を向ける。
するとそこにあるのは肉。
油滴る。
ジューシーな……。
「っ」
こんなもの、我慢できるわけがあるだろうか。
いやない。
「どうぞ、めしあがれ!」
と、ニコリと微笑んで来るラン。
グレンはそんな彼女へと言うのだった。
「い、いただきます」
そうして十数分後。
グレンはしっかり、料理を堪能させていただいた。
「ごちそうさま、美味しかったよ。それに、本当に助かった」
「いえいえ、美味しそうに食べてくれて、わたしも嬉しかったです!」
と、言ってくるラン。
その笑顔は見ていて癒されるものだが、グレンは問題に気がついてしまう。
それは。
「食べた後から言うのは申し訳ないんだが……俺、金が――」
「それなら大丈夫です!」
と、笑顔を崩さないラン。
彼女はころころした様子で、グレンへと言葉を続けてくる。
「わたしが助けたいと思ったから、あなたを助けただけなので! あの、そういえば……あなたの名前は?」
「あぁ、そういえば……俺の名前はグレンだ」
「グレンさん、ですか」
と、なにやらランの表情がかげる。
グレンにはそれが、どうしてか引っかかる。
念のため、聞いておいた方がいいに違いない。
「俺の名前がどうかしたのか?」
「あ、いえ……なんでもありません!」
と、再び笑顔を咲かせるラン。
明らかに気を使っているのが見え見えだ。
故に、グレンはランへと再度言う。
「気にしなくていい。実は俺、諸事情で現在の世界情勢について疎いんだ。だから、俺の名前に何か問題があるなら、教えてほしい……頼む」
「え、えと……それは」
「大丈夫だ」
「その……グレンって言ったら、二百五十年前に三英雄様達を裏切った、大罪人の名前ですよね?」
なんだか、最後まで聞かなくても、だいたいわかった。
けれど、グレンが黙っていると、ランは彼へと言葉を続けてきてくれる。
「グレンは――あ、グレンさんの事じゃないですよ!?」
「あぁ、それで――グレンの事を聞かせてくれ」
「はい。それでグレンは、三英雄を裏切って魔王の味方をしたんです。なんでも、世界を手に入れるための取引を魔王から持ち掛けられ、それに乗ったとか」
それからのランの話。
それをまとめると、こんな感じだ。
三英雄は裏切ったグレンと魔王を倒し、世界に平和をもたらした。
以来――『グレン』という名前は忌避されているようなのだ。
そして、三英雄ことギルバート、リュウジョウ、リグレット。
その三人は協力して国を作り、その子孫たちが今も国をまとめている。
「……なるほど。という事は、フウはやっぱりギルバートの子孫か」
お伽噺でよくありそうな話だ。
けれど、実際は違うに違いない。
(実際は三英雄が当時あった国を全て滅ぼし支配した。そして、その上から自分達の国を作り上げた……さらに、都合の悪い事実――自分達が裏切った俺に、汚名を着せたと)
クソすぎて笑えてくるレベルだ。
まぁ、今更だが。
(ランの話の中でも、一番笑えたのがこの王国の名前だな)
リグレット王国。
そして、その頂点に君臨するのがエドナ・リグレット。
聞いた限り、中々の暴君のようだ。
機嫌一つで街を一つ滅ぼしたエピソード。
コーヒー零した家臣の一族郎党、公開処刑エピソードなどなど。
真偽は無論確かめるが、現状は復讐しても問題ないに違いない。
それはそうと。
と、グレンはランへと問いかける。
「この街の領主はどんな感じなんだ?」
「フウ様……ですか」
「その様子だと、エドナ・リグレットと大して変わらないそうだけど」
「い、いえ……エドナ様よりはその……」
要するに。
エドナよりはましだが、フウも中々にやばい。
ランはそう言いたいに違いない。
さてさて。
いったいどんな悪さをしていることやら。
まぁ、それを暴くのは後だ。
「ところでラン、何か俺にして欲しい事はないか?」
「してほしい事、ですか?」
と、ひょこりと首をかしげてくるラン。
グレンはそんな彼女へという。
「看病してもらっただけじゃなく、料理もごちそうになった。それに、俺が知りたい情報もだいたい教えてもらったからな……何かお礼をしないと、俺の気が収まらない」
「あ、いえ! そんなのとんでもないです! わたしがしたいからしただけですし、それに……グレンさんと話すの、楽しかったですから!」
「まぁ、それでもだ。雑用でもなんでもいい、なんかないのか?」
「えっと……あるには、ありますけど……」
「じゃあ、決まりだ。それは俺が全部やるよ」
「うぅ……だ、だったら今日はうちの宿に泊まってください! 頼みたい仕事は、どっちにしろ明日の朝からですので!」
やれやれ。
なんだか、ランの口に乗せられ、また恩を重ねる事になりそうだ。
グレンはそんな事を考えたのち、彼女の案を承諾するのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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