第二話 フウ・ギルバート
あれから数日後。
グレンはかつての首都目指し、あてもなく歩いていた。
「にしても、よかったな」
当然だが、グレンの服は塵になっていた。
けれど現在、グレンは裸で歩かなくて済んでいる。
その理由は簡単だ。
《物理催眠》で当時着ていた服を再生できたのだ。
と、そんな事を考えていたその時。
「ん……あれは」
遠く離れた場所。
グレンの視界に映ってきたのは、それなりに大きな街。
彼の記憶では、ここに街はなかった。
「俺が行動不能になっていた間に、新しく建てられたのか?」
なんにせよ、寄らない選択肢は――。
「~~~~~~~~~っ!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
と、グレンの思考を断ち切るように聞こえてくる音。
いったい何事か。
「確認はしておいた方がいいよな」
と、グレンは自らに《物理催眠》をかける。
内容は視力の強化、そして聴力の強化だ。
すると――。
「フウ様! ま、魔物が……魔物群のれが!」
「こ、こいつら強い!!」
「ど、どうか馬車の中から出て、お力を――ぐあっ!?」
と、そんな騎士達の言葉の通りの光景が起きていた。
それを見てグレンは思う。
(馬車の豪華さから見て、魔物見たさの貴族あたりが、騎士を引き連れて魔物の支配領域に探検にでも出たか?)
けれど、どう考えてもアホだ。
なんせ、ここは腐っても元魔王の支配領域。
その辺の魔物が支配している領域とは、魔物の強さの次元が違う。
グレンやリグレット達――いわゆる猛者でなければ、踏み入れるだけで自殺に等しい。
きっと貴族は、街から近いため安全……とでも思ったに違いない。
「やれやれ、助けてやるか――俺はリグレット達と違って、クズじゃないからな」
と、グレンは再び《物理催眠》を自らにかける。
今度は身体能力の向上だ。
そして。
グレンは地面を全力で蹴りつける。
同時、彼の身体が凄まじい速度で馬車の方へと進む。
けれど、その間にも。
「だ、ダメです! こいつら、街の傍の魔物と次元が違う!」
「こ、殺される……っ! ふ、フウ様お願いです!」
「た、助けて……助けて下さい、フウ様!」
と、なにやら馬車に縋りつき始める騎士達。
きっと、それが悪かったに違いない。
これまで騎士達を襲っていた魔物達に加え。
静観していた魔物達――奴らも騎士達に踊りかかったのだ。
(っ……バカが! 戦いの最中に相手に背中を向けるからだ!)
このままでは間に合わない。
やや負担はかかるが、この際仕方ない。
「《物理催眠》!」
と、グレンはさらに身体能力を強化する。
瞬間、彼が蹴りつけた地面が爆散する。
同時――。
これまで以上の速度で進むグレンの身体。
これならば!
「間合いだ」
まず一体。
グレンは勢いそのままに、魔物へと飛び蹴りを放つ。
すると、その魔物は消し飛んだ。
続いて、近くに居る魔物の首を掴み。
そのまま一気にそれを握りつぶす。
「き、貴殿は!?」
と、騎士の一人が話しかけてくる。
グレンはそんな騎士へと言う。
「わかってると思うが、お前達の手に負えるような状況じゃない!」
「そ、それは――」
「他の騎士を連れて、馬車の反対側に下がれ!」
「ですがっ」
「いいから早くしろ! 死にたいのか!?」
「……っ!」
と、ようやく行動してくれる騎士達。
こうなってくると、大半の騎士達が馬車に縋りついていたのが、むしろ幸いだ。
なんせ、非難行動が早くとれるのだから。
そんな事を考えている間にも、騎士達の避難は終わる。
あとは――。
「さて……魔物が十、二十」
驚いた事に二十三体居た。
騎士達、相当運がいいに違ない。
普通、あれほどの実力差があり。
あれほどの人数差があれば、とっくに死んで居てもおかしくな――。
「っと、急に襲いかかってくるなよ」
と、グレンは先行した魔物を蹴り飛ばし、それを一撃で仕留める。
それでも魔物は、あと二十二体のこっている。
「一体一体相手してたら、さすがに面倒だな」
となれば。
こういう場合、するべきことは一つだ。
グレンはゆっくりと、その場にしゃがみ込む。
そして、右手で地面へと触れる。
同時――。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
と、一斉に襲いかかってくる魔物達。
残念だが、その行動は無駄だ。
「死ね……《物理催眠》!」
直後。
魔物達の真下から現れたのは、無数の槍だ。
その正体は簡単。
グレンが地面に催眠をかけたのだ。
『お前達には槍が生えている、魔物を殺すための大量の槍が』と。
なんにせよ、これで終わり。
周囲の魔物達は、一体も生存していない。
と、グレンがゆっくり立ち上がると。
「お、おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「素晴らしい! なんという強さだ!」
「助かりました……おかげで、我等の命全員!!」
と、グレンの元へとかけてくる騎士達。
彼等は代わる代わるグレンの肩を叩き、中には手を重ねてくる者まで居る。
グレンは復讐者だ。
それでもやはり――。
(こうして感謝されると、平和の大切さも身に染みるな)
などなど。
そんな事を考えていると。
「どいて……通れないわ」
と、聞こえてくるのは少女の声。
グレンは声が聞こえてきた方へと視線を向ける。
すると見えて来たのは。
「ふ、フウ様!」
「フウ様……」
と、道を開けていく騎士達。
そして、その中から現れたのは白銀の少女だった
透き通る様なミディアムロングの銀髪と、碧眼の瞳。
ほどよく発育した身体を包むのは、白銀を基調とした軽鎧――その下に、白を基調としたショートワンピースの様なものを身に纏っている。
そんな少女は、グレン目の前へと歩いて来る。
そして、彼女はそのままグレンへと言ってくるのだった。
「私の名前はフウ……フウ・ギルバート。この街の領主なのよ?」
感情を感じさせない。
どこまでも白く、平たんな声で。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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