第一話 催眠術士は眠らない
致命傷。
魔王との戦闘のせいで、魔力はもう殆ど残されていない。
故に、《物理催眠》による身体再生は不可能だ。
きっと、リグレット達もそれを狙って、今仕掛けてきたに違いない。
(ダメだ……し、ぬ)
グレンの意識は闇に染められていく。
まるで穏やかな眠りに落ちていくかの様に。
…………。
………………。
……………………。
「……っ」
まだだ。
グレンはまだ諦めるわけにはいかない。
(死んで、たまる……か)
世界を支配?
許せない。
そんな事でグレンを殺した?
許せない。
(こんなところで……眠って、たまる、か)
直後。
グレンは己が全てを絞り出す。
僅かに残っている、ゴミのような魔力。
時間経過で回復する魔力――それをカスのうちから使っていく。
足りない。
身体は全く再生していない。
(で、も……また、死んでな、い……効果はある……んだ)
全くの意味のない行為かもしれない。
それでも、グレンは自らの身体に《物理催眠》をかけ続ける。
足りない魔力で身体を再生させ続ける。
再生する傷と、悪化していく傷。
死と生のせめぎ合い。
襲い来る凄まじい激痛と、遠のいていく意識。
綱引きに負ければ、即死亡。
…………。
………………。
……………………。
そうして、途方もない時間が流れる。
魔王城は風化し。
天井は崩れ――星が何度も回り。
玉座には幾度もの雨が降り注ぐ。
それでもグレンは《物理催眠》を続けた。
その結果。
「くっ……げほ」
ついに、グレンの身体は再生した。
刺される前の状態へと。
(っ……とはいえ、まだ当分は動けそうにない、な)
一旦、魔力をしっかり回復させる。
そして、ちゃんとした《物理催眠》で身体と体力を再生させた方がいいに違いない。
それにしても。
「…………」
と、グレンは天井から覗く空を見上げる。
そして、グレンは一人考える。
(いったい、俺がリグレット達にやられてから――傷が治るのに何年経った?)
十年や二十年ではない。
周囲の風化具合を見るに、二百年は確実に経っている。
いったい、世界は今どうなっているのか。
リグレット達はこの世界に、どのような災厄をぶちまけたのか。
だが……それよりも。
「…………」
グレンはこの二百年。
胸と身体を一閃した傷からくる凄まじい痛み。
それらに耐えてきた。
再生しては傷が開き。
傷が開いては再生し。
傷が膿んでは再生し。
再生しては傷が膿み。
時には蛆が湧くことすらあった。
「……るな」
世界の平和を守る。
グレンにとってそれは大事なことだ。
だが、それよりも。
そんなことよりも――っ。
「ふざけるな」
どうしてグレンが二百年もの間。
頭がおかしくなる様な痛みに、耐えなければならなかったのか。
グレンは頑張った。
リグレット、ギルバート、そしてリュウジョウ。
彼女達の命を何度も救った。
その結果がこれか。
許さない。
「きっと、あいつらはもういない」
けれど、その子孫は生きているに違ない。
もしも、もしもだが。
「あいつらの子孫も本性がクソだったら……」
世界に災いを成すような奴らならば。
後悔させてやる。
ギルバート。
リュウジョウ。
そして、リグレット。
「あいつらの罪を、重ねて背負わせてやる」
この世界に、本当に地獄があるかはわからない。
それでも。
「見ていろ、クソ共。お前達の子孫が、お前達のせいでお前達と同じ場所に――地獄に落ちていく様をな」
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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