第十話 催眠術士は復讐を開始する②
時はあれから数時間後。
現在、グレンは《精神催眠》で意識を失ったフウ。
彼女を城から離れた廃屋の地下へと連れ込んでいた。
この場所は、グレンが事前に用意したものだ。
人があまり通らない立地――さらに、防音対策も完璧だ。
などなど、そんな事を考えていた。
その時。
「ん……っ」
と、聞こえてくるのはフウの声。
見れば、手足を縛られ、地面に転がされているフウ。
彼女の目が開いていた。
しかし、そんなフウは未だ意識がハッキリしないに違いない。
ボーっとした様子で、周囲を見渡している。
けれど、そんな彼女の視線が、グレンの方へと向けられた瞬間。
「…………」
と、物凄い眼光を向けてくるフウ。
グレンはそんな彼女に近づき、近くにしゃがむ。
そして、そのまま彼女へと言う。
「数時間前にも言った気がするけどさ、そんなに睨むなよ」
「だったら……睨まれるような事をしないで」
「いや、それは無理だ。俺はお前に復讐しないといけない」
「復讐……それがグレンが私を襲った理由なの?」
そういえばグレン。
まだフウに、彼女を襲った理由を話していなかった。
これはいい機会に違いない。
グレンは話していく。
魔王を倒した後になにが起きたのか。
フウの先祖たちに何をされたのか――彼等をどう思っているのか。
なにもかも話していく。
そして、その結果。
「バカげてるわ、バカげているのよ」
と、言ってくるフウ。
彼女は上目遣いで、グレンを睨み付けながら言ってくる。
「あのグレンが生きているわけない……それに」
「それになんだよ?」
「仮にそうだとしても……私に復讐するのは、意味がわからないわ。だって――」
「『だって、私はグレンを裏切ったギルバートじゃないもの』とでもいいたいのか?」
「そうよ……だって、本当にその通りだもの」
たしかにその通りだ。
悪いのはこいつの先祖であって、フウではない。
「いやさ、考えてみたんだ。人間にとって、もっとも大切なものは何かって」
「いったい何の話?」
と、怪訝そうな表情をするフウ。
グレンはそんな彼女を無視して、彼女へと言葉を続ける。
「人間が一番大切にするもの、それは自分だ――でも、特定のタイミングでそれは変わる。思うに、それは子供じゃないかと思うんだ」
「……?」
「親は子を愛し、その子はまた親になり、また子を愛す。あのクソ共が、まともな親としての感情持ってるのかは知らないけどさ」
と、グレンはフウの頬へと触れる。
そして、そのままフウへと言葉を続ける。
「自分の子孫が壊れていく様子を、地獄から見せられるのは……とっても嫌なんじゃねぇかな。それだけじゃない――おまけに、自分達が作った国も崩壊していくんだぞ? そんなの、俺なら頭おかしくなるよ……なぁ、フウもそう思うだろ?」
「あなた……狂っているわ」
「狂ってるのはお前らだろ! お前ら一族の血は呪われてるよ――でなきゃ、あんな簡単にランを、人を殺せるわけがない」
「無意味に殺しているわけじゃ――」
「黙れよ」
もうフウと話すのはうんざりだ。
さっさとやってしまおう。
故に、グレンはフウへと言う。
「もしも、俺が正しくなくて、お前の方が正義だと言うなら――ここから逆転してみてくれ。今からすることに、耐えて見せてくれよ」
「なにを、する気なの?」
「催眠でとっておきの記憶をプレゼントする――俺の奴隷だって記憶をな」
「っ!」
と、急に暴れ出すフウ。
けれど、もうすべてが遅い。
「おやすみ、フウ」
言って、グレンは《精神催眠》を発動させるのだった。