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第九話 催眠術士は復讐を開始する

 ランの一件から、数日が過ぎた。

 現在、グレンはフーカの街――その外れにある洞窟へとやってきていた。

 その理由は一つだ。


「ここが城からの脱出に使われる隠し通路か」


 グレンの目の前にあるのは、その入り口を塞ぐ頑丈そうな扉。

 彼が騎士から聞きだした情報――それがただしければ、ここから城内に侵入できる。

 

 本来、この扉を開くには、特別な鍵が必要だ。

 そして当然、それは領主であるフーカのみが持っている。

 しかし。


「俺には関係ない」


 言って、グレンは扉へと手を触れる。

 そしてそのまま――。


「《物理催眠》」


 直後、壁に人一人通れる大穴が空く。

 グレンが『お前には穴が空いている』と、壁に催眠をかけたのだ。

 となれば、あとは簡単。


「待ってろよフウ。俺の事を探しているんだろ?」


 もうすぐ、グレンの方から向かってやる。

 そして、この世の地獄を見せてやる。


 グレンは一人、そんな事を考える。

 その後、彼はゆっくりと歩を進めるのだった。



 そうして、時は数十分後。

 通路の中は迷路の様で、様々な罠が仕掛けられていた。

 きっと、フウが安全に逃げられるための仕掛けに違いない。


(時間もかかったし、面倒だったがようやく突破できたな)


 現在、グレンの目の前にあるのは窓ガラス。

 そして、その向こうに居るのは――。


「…………」


 と、無表情でグレンと向かい合う様に、髪を整えているフウの姿。

 要するにどういう事かと言うと。


(なるほど。さっきの通路はフウの部屋に、直接続いているわけか)


 考えてみれば当然だ。

 なんせあれは、フウが安全に城から逃げるためのものなのだから。


(この窓ガラスは……大方、フウの方からは普通の鏡に見えるってとこか? それなら、緊急時になったら、この鏡をぶち破って脱出通路に行ける)


 作り自体はとてもいいものだ。

 まず、通路の存在がばれにくい。

 さらに、通常時も鏡として使えるのだから。


 けれど、今は完全に裏目だ。

 なんせ――。


(俺の方から部屋の状況が丸見えだぞ)


 これならば、これからグレンが行う事。

 それにもとても都合がいい。


 と、グレンがそんな事を考えた。

 まさにその時。


「ふ、フウ様! 大変です!」


 と、部屋の外から聞こえてくるのは騎士の声。

 フウはそんな彼へと言う。


「何……重要な要件なら入って。鍵はしてないわ……していないのよ」


「は、はい!」


 と、部屋へと入ってくる騎士。

 彼は真っ青な表情で、フウへと言葉を続ける。


「は、反乱です!」


「そう……じゃあ、殺していいわ。いつも通りの事よ? どうしていちいち――」


「ち、違います! 反乱したのは騎士達です!」


「………?」


「城内に居る過半数を超える騎士達が、一斉に反乱を起こしたんです!」


「っ……だったら、早く鎮圧に向かって! 私もしばらくしたら向かうわ」


「は、はい!」


 と、慌てた様子で部屋を出て行く騎士。

 部屋に一人残されたフウはというと。


「騎士達は恐怖で縛っていたわ……縛っていたのよ。なのにどうして、今更」


 どうして今更、反乱を起こしたのか。

 これまでずっと大丈夫だったのに。


 と、鏡の前で――グレンと向かい合うように、そんな事を呟いているフウ。

 なるほど、確かにそれは気になるに違いない。


 だったら教えてあげよう。

 だって、グレンは正義の味方。

 とても親切な男なのだから。


 直後。


 グレンは窓ガラスをぶち破る。

 そして、フウの部屋へと突入。


「!?」


 と、目を見開き驚いた様子のフウ。

 グレンはそんな彼女の首を掴み――。


「寝てろ――《精神催眠》!」


 …………。

 ………………。

 ……………………。


「あなたを探していたわ……探していたのよ」


 と、グレンから距離をとり、そんな事を言ってくるのはフウだ。

 彼女は首についたグレンの腕を捨てたのち、そのままグレンへと続けてくる。


「あなたの名前を知りたいわ」


「グレンだ。俺の名前はグレン」


「そう……あなたを貰うわ」


 直後、どこからか召喚した剣を、グレンへと翳してくるフウ。

 それにしても。


(こいつ……凄まじい反応速度と動体視力だな)


 まさか、先ほど――フウにとっての不意のタイミングであったに違いない《精神催眠》。

 あれを防ぐとは思わなかった。


 しかも、即座にグレンの腕を切断する。

 そんな方法によって。


(やれやれ……やっぱり、こいつとは一対一でやり合うのが無難だな)


 戦闘経験から考え、グレンが負ける可能性はゼロだ。

 しかし、外野がいればそれは崩れる可能性がある。


「《物理催眠》」


「……! 腕が治ったわ」


 と、驚いた様子のフウ。

 グレンはそんな彼女へと言う。


「あぁ。俺にとって、この程度の負傷は負傷に入らない」


「ますます欲しいわ、欲しいのよ……だって、それがあれば」


「…………」


「壊しても壊しても、女の子たちを治せるもの。そうすれば、無限に材料が取れる……私は永遠に美しさを保てるわ」


「お前、いかれてるよ」


「いかれるほどに、あなたが欲しいわ……欲しいのよ」


 と、なにやら剣を持っている手と反対の手を、グレンへと翳してくるフウ。

 そんな彼女はそのまま、グレンへと言ってくる。


「《刀剣精製》」


 直後。

 グレンの全方位から襲ってきたのは、凄まじい量の刀と剣。


「っ!?」


 逃げ道がない。

 このままでは、直撃は必至。

 そうなれば、いくらグレンでも致命傷は免れない。


 けれど。

 それはあくまでも、このままだった場合だ。


「《物理催眠》!」


 同時、グレンの身体めがけ、全方位から突き立つ無数の刀剣。

 だがしかし、それらは決してグレンの身体には刺さらない。

 それどころか、彼の身体に弾かれ、床へと落ちる。


「?……あなたの身体、とても硬いわ……どうなっているの?」


 と、首をかしげてくるフウ。

 グレンはそんな彼女へと言う。


「俺は催眠術士だ。自分に催眠をかけた――『俺の身体は何よりも固い』ってな」


「そう……素晴らしいわ」


 と、持っていた武器をどこかへと消し、グレンの方へと歩いて来るフウ。

 彼女はそのまま、グレンへと言ってくる。


「グレン……私達が戦う必要はないと思うの、ないと思うわ」


「…………」


「だって、私達は将来仲間になるのよ?」


「…………」


「私はあなた主人――いいえ、今なら対等の立場でもいいわ」


「…………」


「そもそも、どうしてグレンは私を襲ってきたの? 理由が知りたいわ、知りたいのよ」


「別に構わないが――一つだけ言っておく」


 少し話しただけで、少し戦っただけでもわかる。

フウは才能豊かだ。


 頭がよく、戦闘センスも抜群だ。

 故に彼女は気がついてしまったに違いない。


 このまま戦っても、グレンには絶対に勝てないと。


 よって、フウは勝てる選択肢を選んだに違いない。

 すなわち、援軍がやって来るのを待つという選択肢を。

 けれど――。


「お前が期待している援軍は、いつまで経ってもこないぞ」


「…………」


 と、ここに来て初めて表情を動かすフウ。

 グレンはそんな彼女へと言う。


「さっき騎士が報告しにきたろ? 騎士達の過半数が反乱したってな。そんな暇は与えないが――窓から下を見ればわかる。騎士達は仲間割れよろしく、どんどん数を減らしていってる」


「どうして――」


「どうしてこのタイミングで、そんな事が起こるのか? それとも、どうして騎士達はこんなにも使えないのか?」


「…………」


「おいおい、そんなに睨むなよ。それに、そんなに騎士達を責めてやるな」


 グレンはフウへと一歩近づく。

 そして、彼はそのまま彼女へと言う。


「俺はさ。お前がランを殺してから、騎士達に《精神催眠》をかけまくったんだ」


「《精神催眠》……?」


「大変だったよ。少女狩りの巡回してる騎士を一人一人さ……休まずにひたすら《精神催眠》した――内容は『今日この時間、一斉に反乱を起こせ』」


「っ!」


「そうだよ、わかったか? お前が今から負けるのは騎士が使えないせいでも、偶然のせいでもない」


 言ってグレンは、怯えた様子で後退し続けるフウへと近付く。

 そして、そんな彼女へと手を翳しながら言うのだった。


「お前の敗因は一つだ――戦う相手が悪すぎた」


さて……これは毎回、言ってることなのですが


面白かったら、この部分より更に下(広告の下あたり)から、マックス星5までの評価や感想できますので、してくれると参考になります。


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すでにしてくれた方、本当にありがとうございます。

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