プロローグ 催眠術士の最強ヒュプノ
催眠術士は弱い。
使えるスキルは《ヒュプノ》――相手を催眠状態にするもののみ。
しかも、実力差があると通用しない……それどころか、仮に効いても九割失敗する。
だがしかし。
「グレン、今だ――行け!」
「お前が魔王に止めを刺せ!」
と、言ってくるのはギルバートと、リュウジョウだ。
彼等は魔王の攻撃を弾き、魔王に隙を作ってくれたのだ。
となれば。
「あぁ、あとは任せろ!」
言って、グレンは前へと飛び出す。
魔王が召喚していた眷属の攻撃を躱し、弾いてひたすらに進み続ける。
すると――。
「催眠術士ごときに、何ができる!? 我を舐めるな!」
と、言ってくるのは態勢を立て直した魔王。
魔王は魔法を使う隙が無いと、判断したに違いない。この戦いにおいて初めて、背中の大剣を抜き放ってくる……そして。
「らぁああああああああああっ!」
と、魔王は大剣を振り下ろしてくる。
直撃すれば必死――催眠術士では、決して防御は不可能。
(相手が俺じゃなければな)
催眠術士は弱い。
けれど、それはグレン以外の催眠術士の話だ。
グレンは努力した。
ジョブを獲得してから、スキル《ヒュプノ》の訓練以外には、極力時間を割かなかった。
つまらない人生だったかもしれない……けれど。
グレンは手に入れたのだ。
魔王を倒し、世界に平和をもたらせる力を。
それは――。
「《物理催眠》!」
言って、グレンは振り下ろされる魔王の大剣へと触れる。
瞬間、それは砕け散る。
「な、なにぃ!?」
と、驚いた様子の魔王。
魔王は強い――故に残念だが、今は説明している余裕はない。
よってグレンはすぐさま、魔王の大剣を破壊したのとは反対の手。
それを魔王の脇腹へと伸ばし。
「《精神催眠》!」
渾身のスキルを発動させる。
同時、歴代最強と言われた魔王は……。
完全に沈黙するのだった。
時はあれからすぐ。
場所は魔王との決戦の場――魔王城、玉座の間。
「殺さなかったのね」
と、言ってくるのは仲間の最後の一人、リグレットだ。
彼女はグレンの背後へと近づいて来ると、そのまま言葉を続けてくる。
「それにしても、あんたの《ヒュプノ》は恐ろしいわね。敵に回ったらと思うと、ゾッとするわ」
グレンの《ヒュプノ》は危険な力。
そう思うのも仕方がないに違いない。
なんせ。
(俺の《ヒュプノ》に壊せない物も、そして服従させられない者もないからな)
グレンの《ヒュプノ》には三種類ある。
一つは魔王の大剣を破壊した――《物理催眠》だ。
これは触れた対象を形作る物質に、催眠をかける《ヒュプノ》の使い方。
例えば、丸い石に「お前は四角い」と催眠をかける。
結果、丸い石は「自分を四角い」と思い込んで、形を丸へと変化させる。
要するに、魔王の大剣が砕け散ったのは。
グレンが大剣に「お前は砕けている」と催眠をかけたからだ。
そして、もう一つの《ヒュプノ》。
それは魔王を沈黙させた――《精神催眠》だ。
これは簡潔に言うと、普通の《ヒュプノ》の超強化版だ。
触れた対象を瞬時かつ確実に、永久に解けない催眠の中へと落とす。
なお、魔王にはこれを使った。
結果、現在魔王は自分事を『木』だと思い込んでいる。
これはグレンが催眠を解くまで、決して解けることはない。
ちなみに、さらに三つ目。
最後の《ヒュプノ》は――。
「ねえ、グレン。魔王を殺さなかったのは、やっぱり後継の関係?」
と、グレンの思考を断ち切る様に聞こえてくるのは、リグレットの声だ。
グレンはそんな彼女へと言う。
「その通りだ。知っての通り、魔王は死ぬと後継が現れる。それは高位の魔物の中から、ランダムに選ばれる」
「だから魔王を催眠にかけ、人間によって管理――なるべく長生きさせることで、平和な世の中を長引かせる?」
「そういうことだ」
「そう、すごいわ。あたし達、きっと伝説になれる……でも」
と、次の瞬間。
グレンの胸から剣が生える。
「……ごふっ!?」
胸が、背中がやけるように痛い。
いったいなにが――。
「ごめんなさい、グレン」
と、聞こえてくるリグレットの声。
同時、引き抜かれる剣――恐ろしい量の出血。
グレンはゆっくりと、背後を振り返る。
「おいおいグレン、まだ生きてんのかよ?」
「おまえさ――強すぎなんだよ。あと正義感強すぎ」
すると見えてきたのは、そんな事を言ってくるギルバートとリュウジョウ。
そして。
「あたし達はこの世界を支配したいの。あんたはそれ、絶対に邪魔するでしょ?」
と、血まみれの剣を持っているリグレット。
彼女はそれを振りかぶりながら、グレンへと言ってくる。
「邪魔なの……だから、死んで?」
「っ……《ヒュプ――
と、グレンが言い終わるよりも早く。
グレンの肩から脇にかけて、剣が深々と一閃。
「…………」
グレンの意識はゆっくりと。
確実に闇の中へと落ちていくのだった。
どうも、アカバです。
最近、山○は眠らないにハマっているアカバです。
今回のテーマは復讐と、クソヒロイン催眠して奴隷化。
主人公ラブラブ勢に変わる……ってのをテーマにしています。
最終的にヒロインの本心がどうなるかはまぁ、お楽しみという事で。
あと、『常勝魔王のやりなおし~俺はまだ一割も本気を出していないんだが~』が書籍化決定しましたので、そちらもよろしければ読んでくれると嬉しいです。
さて……これは毎作、言ってることなのですが
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冗談抜きで、執筆するモチベーションに関わって来るレベルです。
すでにしてくれた方、本当にありがとうございます。