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フィアンセと公式ライバル

「ホントごめんね、バカなのよコイツ。全然空気読めないから。許してやって。」


そう言うひまりにうながされ、頭を下げる俺。


「頭上げてください。死んだって話はしてなかったんですから。

 それに、優人さんが悪気がないのは伝わってましたし。」


かえって申し訳ないという風にあたふたしているエリカちゃん。


「でも、面白いお父さんよね~。魔法使える世界にいるのに私たちの世界の

 何が面白いのかね。私はむしろ魔法を使いたいくらいなのに。」


不思議そうに尋ねるひまり。ていうか、魔法使いたいとかホントに突拍子が

ない。そういや、よく魔法少女ごっこに付き合わされたっけ。


「たぶん、魔法が当たり前だから、魔法がなかったらどんな風だろう

 って思うんですかね。だから、魔法がない世界の話を父や母から聞いたとき

 本当にワクワクしたんです。」

「そんなものかしらねぇ。」


ひまりは、ピンとこないという感じだけれど。魔法が当たり前だとさして

珍しいことでもないのかもしれない。


「魔法そんなに使いたい?」


メアリー様が面白がる感じでひまりに聞く。


「もちろん、使いたいです。子供の頃から魔法に憧れてたんで。」

「使えるわよ、向き不向きはあるけれど。あなたは、とっても魔法に向いていそう

 だから心配なさそうだけれど。」

「ホントですか!」


おいおい、何を本気に・・といっても、メアリー様も元々こっちの人じゃないから

使えないこともないのか?

 「ホントに!私魔法使えるんですかぁ。夢だったんです、魔法美少女。」


 もう完全にノリノリ。教わる気満々。ていうか、美少女ってお前な・・


 「ねぇ、今の話、ホント?からかわれてるだけじゃないの?」


 そうエリカちゃんに聞いてみる。


 「いえ、使えます。というよりも・・それも決め手でお呼びしたのもあります。」


 ん?それも決め手ってどういうこと?だって、魔法の世界の人じゃないよ、俺もひまりも。


「父が亡くなって、それは王も亡くなったということで。」


 しどろもどろな感じで、話すエリカちゃん。


 「それってお父さんがこの国の王様ってこと?」

 「そうなんです。この国というか、島の、ですが。」


 そうか、魔法の国の王女様だったのね。

 なんか納得。品が良いもんね、とっても。


 「それで今は母が女王として、この島を治めているのですが。

  いずれは、私に継がせたいと。」


 そりゃ、そうでしょうね。

 でも、その話と俺やひまりに何の関わりが。

 

 「それでね。そうなると結婚の話が出てくるんです。」


 王女様ならそういう話は当然あるだろうね。

 あ、もしかして


 「で、しつこく迫ってくる他国の王子やら貴族やらに

  迫られて困ってるとか?」

「いえ、そうではなくて・・この島では、他の世界から

  結婚相手を見つけるのがならわしで。」


 ふーん。ってあれ、え?


 「私のフィアンセになって欲しいんです。」

 「フィアンセ。あぁ、フィアンセね。って、えぇ。

ちょっと、ちょっと、えっ、はい??はぇぇ。」


 俺までしどろもどろになってくる。

 この半日の展開が急激すぎるんだから仕方ないが。

 「憧れなんです」からの「召喚」からの「フィアンセ」って、えっ、何だこれ

絶対何かの間違い、そうだよね。


 「ごめんね、取り乱して・・でも、落ち着こう、落ち着こうか。」


 いや、落ち着くのは俺なんだろうな。


 「あのね、エリカちゃん、あのね・・」

 「エリカ、でいいです・・」


 あ、ホントに。じゃなくて。呼び捨てでいいですじゃなくて、今大事なのそこじゃなくて。


 「自分で言いたくもないんだけどね、俺、王女様に釣り合うような男じゃないからね。」

 

 そんなことを言ってると、頭をコツンと叩くひまり。


 「あんたねぇ、女の子に恥かかせるつもり!?ビシッとしなさいよ、ビシッと。」

 「出来るか、俺だぞ、俺。」

 「知ってるわよ、あんたよ。」

 「そうだよ、俺だよ。」

 「だからぁ。そんなあんたにもったいないでしょうっていうの。

こんなありがたい話ないでしょう。なに迷ってるのよ。

私が男だったら、二つ返事で嫁にもらうわよ。」

 「いや、王家なんだから、婿に入るんだろう?」

 「あっ、そうか。」

 「そうだよ。そう。婿入り。」

 「関係ないでしょ、入っちゃいなさいよ、婿に。」

 「お前、面白がってるだろ、絶対。」

 「うん、面白い。」


 そんな不毛なやり取りをしていると、とても楽しそうに笑うエリカ。と、呼び捨て

でいいんだよな、心の中だから取り合えずいいよな。


 「いいなぁ。羨ましいなぁ。」

 「そうでもないわよ、こんな不毛なやり取り。」

 「私、こんな風に誰かと好き放題に掛け合いやったことなんてないもの。」


 おかしな子ねぇとばかりに笑うひまりと、そんなひまりを見て、楽しそうなエリカ。


 「ひまりさん、私ね。」

 「ひまりでいいわよ、私もエリカって呼んでいいかな。」

 「もちろん。」

 「何、エリカ。」


 ホント、どんどんガードを壊して懐に入り込むやつ。ボクシングのインファイター並みに

懐に飛び込むのが早い。そして、この調子で気づけばひまりのペース。と思ったら。


 「私のライバルになってほしいの。」

 「ライバル?友達の間違いじゃないの?」

 「いえ、もちろん友達になってほしいし、友達になりたいし。」

 「ライバルっていったいなんの?」

 「その・・恋、の。」

 「・・・コイ?食べるやつじゃなくて、ラブの方?」


 おいおい、洗いにしないから。そんな泥臭い話じゃないのよ。


 「はい、ラブの方です。」


 さすがの急展開にひまりも一瞬絶句する。突拍子もないやつを超える、突拍子のなさ

をぶつけられるとさすがに一瞬止まるのな。


 「えっと、優人にフィアンセになってほしいっていって、それで私に恋のライバルに

 なってほしいって、これは、えっと・・ごめん、よくわかんない。」


 珍しくまともなことをいうなぁ。


 「すいません、わかりませんよね。あの、これもね、決まりなんです・・」

 「守る必要ある?そんなの?ねぇ、メアリー様。好きなら、もらっちゃえば

  いいじゃないですかねぇ。わざわざ面倒なことする必要あります?」

 「それがね、あるのよ。」


 苦笑いするメアリー様。それが、さっき調子に乗って呼び捨てにしていたひまりが

少々慌ててえらく丁寧に彼女を様づけでよんだからなのか、守る必要があるのかっていった

からなのかはわからなかったけれども。


 「そうねぇ、昼ドラか、韓流ドラマみたいなものかしらねぇ。」


 えっ、昼ドラ?韓流ドラマ?ってか、何、そのたとえ。

ていうか観たことあるの?メアリー様。


 「王女が気に入った男の人に求婚して、婚約して、そのままゴールインなんて

  ドラマ、あなたは見たいかしら?」

 「いや、今、ドラマの話はどうでも・・それに、昼ドラや韓流ドラマでライバル役

  だったら、私、エリカちゃん虐め抜く嫌な女になっちゃいますけど。まぁ、

  ああいう悪役よりは私の方がずっとカワイイかもしれませんけど。」


 いやいや、大概そういう役やる女優さんは、下手すりゃ、ヒロインよりカワイイぞ。

お前、しれっと図々しいことを・・


 「そうじゃないのよ~。イジメみたいなことをやるようなお嬢さんじゃないのは

  お話してれば、よく分かるわ。あなたとっても素敵だもの。」


 まっすぐに褒められて、分かりやすく照れるひまり。そりゃ、西洋時代劇から抜き出てきたような高貴な美女にそんなこと言われたら、嬉しいものだろう。仮にも一国の女王さまらしいし。こんなフランクな女王どうもピンとこないが・・


 「ほら、あなたも大好きじゃない、優人のこと。」

 「いや、別に私は。ただの幼馴染っていうか。」

 ちょっと顔が赤くなるひまり。驚いてるんだろうか。そうだよな、好きな男にこんな悪態ばかりついて、とても女とは思えない言動の数々はないだろうからな。


 「それは、ないような気がしますが・・」


 俺が口を挟むと、ニヤリと悪い笑いをするメアリー様。


 「青いわねぇ、あなた。そう思わない、アンヌ?」

 「私に振られても。お答えしかねます。」


 時々、アンヌには、無茶ぶりするよな、ホントに。


 「あの・・」


 母に場を仕切られて、すっかり蚊帳の外だったエリカが口を挟む。


 「だからね、私と・・お友達でライバルに、なってほしいんです。」

 「仕方ないわね・・いいわ、その代わり魔法教えてよ。」

 「はい、もちろん。それでね、私と同じ魔法学院に来てほしいの。」


 これまた、急な。ていうか、無理じゃね?


 「エリカ・・ちゃん。あのさ、さすがにそれは無理な気が。俺たち

  受験生だし、一応、元の世界で受験勉強あるし、親も心配するし。」


 ドラマのセリフなら、失格。でも、常識的に考えればたぶんこれが正しい選択だろう。


 「それは、何とかなると思います。」

 「えっ、何とかなるの?」


 エリカの言葉に喰らいつくひまり。


 「その・・流れている時間が違いますから。」


 エリカが言うには、こっちの世界の時間は俺たちの時間に比べてとってもゆっくりと進んでいるらしい。体感というよりは、「相対的に」ということらしいが。

 「うんと、イマイチよくわからないけど、こっちでたっぷり過ごしても元の世界では

  ほんの数分とかの出来事ってことでいいの?」


 精一杯整理をして考えたことを伝えてみる。


 「そんなところ、ですね。」


 ニコリと微笑むエリカ。


 「まぁ、あれでしょ、二倍楽しめるってことよ、人生を。

  普通の中3ライフと夢の魔法生活と。」


 あっさり受け入れたな、コイツ。


 「2倍、2倍~。」


 相撲取りの声真似をしておどけるひまり。


 「何それ~。」


 キョトンとしつつも、面白がるエリカ。


 「知らない?高見盛よ、高見盛。」


 知らねぇよ。ていうか、魔法の国の人に何教えようとしてるんだよ。

 とんでもなく昔の相撲取りだぞ、それ。


 「やってみる?エリカ」


 やらせるな!


 「にばい、にばい?」


 イマイチ低くならずに中途半端に裏返った声で声真似するエリカ。

その姿が妙におかしくて、皆笑う。


 こうして、俺たちの二重生活がはじまることとなった。

 「フィアンセ」と「公式ライバル」として。

 


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