手紙と召喚
中を読ませろとうるさいひまりに、帰り道つきまとわれつつ、どうにか振り切って
家につくと、俺は自分の部屋の机に座って手紙を読み始めていた。
ちなみに。ひまりの家と俺の家は、隣同士。
そんなわけで、帰り道、家の手前までずっとしつこいこと。そして、お隣さんだから
塾の帰りとか勝手についてくることもしばしばで。
「こんな美少女が夜道一人で歩いてたら物騒でしょ。」みたいなことを言って人を
勝手にボディーカード代わりに使うのだ。こんな田舎じゃ、そんなやついないっての。
まぁ、あいつの話はどうでもいいとして。手紙の話に戻ろう。
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はじめまして。
突然、お手紙書いて、ごめんなさい。
私は、この夏休みだけ、夏期講習に通っていて、優人さんのことを知りました。
だから、もっと知りたいなぁって思い、お手紙差し上げた次第です。
私は、普段ここから少し遠いところに住んでいます。
ささやかですが、私のことを知ってもらいたいと思います。
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そう書いてある下の方に、「ここを触ってみてください」と書かれた印がある。
〇の中に、☆印が描いてあり、ところどころ見慣れない模様や何語かわからない文字が書かれている。
ゲームやアニメに出てきそうなベタな魔法陣って感じ。
ちょっと変な子なのかしら・・それとも何かのいたずら?
そう思って一応触ってみると。
一瞬で当たりの景色が変わった。
あれ、なんだこれ?
「肖像画?誰?」
目の前の壁には、美しい貴婦人の肖像画が飾ってある。金色の美しい髪に青い目。
気品が絵からもあふれている感じだ。
「私の母の肖像画なんです。」
振り返ると、手紙をくれたあの子が立っていた。
「今、お茶入れますね。」
ニッコリと笑った笑顔がカワイイ。ていうか、どういうことなんだ、これ?
「えっと、どこ、ここ?」
「私の部屋です。」
手紙の印に触ったら、これだ・・
「ごめんなさい、驚かせてしまいましたね・・召喚魔法なんです。」
あぁ、ついに暑さと勉強のし過ぎ(ってほどやってないけど)で頭イカれちゃった
のかなぁ、俺。召喚魔法ってさぁ・・
「はい、どうぞ。」
紅茶のカップもお茶の香りもこのテーブルもいかにもお高そうな外国のものって感じ
で、ソファもやたらとフカフカしている。
「もう、何が何だか・・」
思わずつぶやく。
「無理もないですよね・・あっ、お砂糖入れるますか?
「いや、お構いなく。紅茶もストレート、コーヒーはブラックだから。」
というか砂糖の数は、どうでもいいんだけど。
「面白い表現ですよね~『ブラック』って。」
「確かにコーヒーだと色でいうのにね。」
「そうなんですよね!」
目を輝かせて、まっすぐに見つめてくる彼女。あ、エリカちゃんっていうんだっけ。
「私ね、もっと知りたいんです。」
そういって、彼女は、ソファに座る。えっ、ていうか、隣!?
心臓がバクバクする。落ち着け、俺。
「知りたいって、何を?」
「皆さんの世界のことをもっとたくさん。」
何だろうこれ、顔は異常にカワイイ。そして、見た目は、とっても大人びているのに。
この目のキラキラ具合は、小さい子がお気に入りのオモチャを見つけたようなそんな目。
「えっと、世界?」
「えぇ、地球の皆さんのこと、もっともっと知りたいんです。」
「地球の皆さんって。じゃあ、ここはどこ?」
「アルスです。」
「アルス?それは、国の名前?」
「いえ、星の名前です。地球とか火星みたいな。」
「へぇ、じゃあ、君は宇宙人だ。」
「宇宙人っていうのがよいのか・・物理的には、地球と同じ位置なので・・」
「物理的には、地球と同じ位置?」
「はい。もしかしたら、そうだったかもしれない地球って感じでしょうか。」
若干、説明に困っているようで、ちょっと目が泳ぐエリカちゃん。
「あれだ、パラレルワールド?」
思いついたことをとりあえずいってみる。
「そう、それ。パラレルワールドです。」
喉に詰まった小骨が取れたような顔で、相槌を打つエリカちゃん。
「魔法がね、使える世界なんです。魔法が滅ばなかったていうか!」
興奮気味に話す彼女の姿からは、なぜか小さい子が聞いてほしい話を一生懸命
親に語っているかのような響きがあった。そして、距離感が割と近い。一生懸命
話す彼女の腕が俺の体に触れた。ちょっと柔らかい感触が体に伝わる。
「で、召喚魔法って?」
声が裏返りそうになりながら、尋ねる。ダサいなぁ、なんか・・
「あぁ、その話でしたね。ごめんなさい、突然来てもらってしまって。」
「そうじゃなくて、俺なんか召喚してどうするのさ?」
「なんか、じゃないです。」
そういうと、俺の手を取り、じっと俺の目を見る。ちょっと、ちょっと、ちょっと。
えっ、ナニコレ、新手の美人局か?怖いお兄さん出てきて、ワレ、ワシの女に何晒しと
んじゃ、ボケ。落とし前つけろ、コラ。みたいなやつか、そうなのか・・・
「あっ、ごめんなさい、私・・」
思わず、手を取ったのが恥ずかしかったのか、パッと顔が赤くなる。自分でやっておいて真っ赤になっている。
「自分でいうのも残念だけど、俺、地球代表っていうようなもの何にもないっていうか。」
「そんなことないです。絶対。」
そういってエリカちゃんは首を振ると
「優人さんなら、こんな風に突拍子もなく、私たちの世界とか、魔法とか、そういうの。
なんだか信じてくれそうな、そんな感じがね。伝わってきたんです。」
「伝わってきた?」
「私、高校から地球に行ってみたいんです。だから、夏期講習に通ってたんです。
でも、知らない人ばかりで、心細くて。だから優人さんがいてくれたから頑張れたんです。」
「俺、何もしてないような。」
「絵、書いてたでしょ。」
そういって、笑顔を向ける彼女。授業中や、休み時間にノートの端に時々絵を描くけど。
正直、特別上手なわけじゃない。好きだから、書いているだけのつまらない絵だ。
「つまらなくなんかないです。」
俺の心を見透かしたように言うものだから
「心が読めるの?」
と俺は、そう尋ねていた。
「読めたりはしないんですけど。ただ、なんとなく私、分かっちゃうんです。」
彼女は、そういって、微笑んだ。