見知らぬ美少女と幼馴染
あらかじめ言っておくが、俺、春山優人は、女の子にモテない。
15歳の受験生。夏の間、塾に缶詰めの日々だ。
別に顔が悪いとも思わない。たぶん、平均点かなぁ。
自分でいうのもなんだけど、勉強ができないわけでもない。
一応、人並み程度にはできる。特別できるわけでもないけれど。
ただし、運動神経は悪い。絶望的に。
なんだけど、スポーツは好きだというから、始末が悪い。
3が多い通知表で美術だけが4。体育は、万年1って感じだ。
絵だけは、好きで良く書いていたからか、ちょっと成績が良いのだ。
それに、モテる男っていうのは、面白いトークとかできるんだろうけど。
そういう要素も一切なし。
それなのに。
「憧れなんです。」
夏期講習の最終日のこの日、目の前の美少女は、そういって俺に手紙を手渡そうとしている。
「えっと?ほんとに、俺?」
「はい。」
顔を赤らめて、ややうつむき加減にうなづく。
こんな可愛い子なら、塾で噂になりそうなものだけど。彼女の存在は今日まで知らなかった。
まぁ、大教室で沢山人がいる中で気づかなかったのかもしれないけど。
肩にかかる栗毛に透き通るような白い肌、そして青い目。お人形さんみたいという
例えがこんなに似合うこともあまりないんじゃないだろうか。
白いワンピースも良く似合っている。って、こんなことを考えるのちょっとキモイのだろうか・・
「私、封魔エリカっていいます。」
ホウマ・エリカ。外人でも日本人でも通用しそうな名前だな。見た目は、まさに西洋美少女って感じだけれど。そして、日本語に不自然なところもない。
「エリカさんは、ハーフ?」
思ったことがそのまま口から出る。もっと気の利いたこと言えない自分がもどかしい。
「えぇ。母がこっちの人で。」
お母さんが日本人で、お父さんが外人さんって感じなのかな。
「私と文通してくれませんか?」
そういって、「どうぞ」と手紙を持った手を精一杯伸ばして、頭を思いっきり
下げる。そして、俺が、受け取ると、嬉しそうな笑顔を見せる。
口元に覗く八重歯がキュートだ。そして、恥ずかしそうにそそくさと去っていく。
去り際にふんわりと良い香り。香水とも違った自然な花の香りのような。
思わず、周りをキョロキョロと見まわす俺。誰かがドッキリしかけてるんじゃなかろうか。
こんなものもらったことないから、どうしてよいか全くわからない。
「文通ねぇ・・」
イマドキ、文通かよと。
LINE教えてとかそういうんじゃないのかよと一人心の中で突っ込んでみる。
とはいえ、かなりカワイイ子だったなぁなんて思ったり。
そんなことを考えながら、ボーっと受け取った手紙を見る。
「春山 優人さんへ」
と表に書かれた封筒。ところどころに桜の花があしらってある。
裏は、ハートのシールで止めてある。見た目は、ラブレターにしか見えない。
さて、どうしたものかなぁなんて考えていると。
後ろから走ってきたやつにバンっと強く背中を叩かれる。
こんなことをするやつは、一人しかいない。
「見たぞ、見たぞ。あんたに手紙何て、もの好きもいるのね。」
そういって、からかうのは、夏川ひまりだ。
子供の頃からの幼馴染の腐れ縁。女っけゼロのお転婆娘の耳年増。
こいつの中身を知らないやつは、カワイイって思うらしいけど。
まぁ、ショートカットで活発に良く笑うし、誰とでも仲良く話せるやつだから
男女問わず、こいつを嫌いなやつはあんまり聞かないけど。
「うっさい。余計なお世話だ。」
「で、これ?」
といって、ひょいと封筒を俺から奪い、つまみ上げるひまり。
「こら、勝手に触んなよ。」
「いいじゃん、減るもんじゃないし。」
「減るんだよ。」
「どれどれ?」
おい、無視かよ。って何勝手に中見ようとしてんの、コイツ。
「見んなよ・・」
そういって、手紙を奪い返す。
「何よ、ケチ。」
口をとがらせるひまり。読ませるかっての。
「朗読して。」
「嫌だよ、なんでお前に朗読すんだよ。」
「面白いじゃん。」
「面白くねぇよ。人生初のラブレターくらい心静かに読ませろっての。」
「ん?なんかいい匂いする?」
そういって、封筒に鼻を近づけるひまり。
「お前は、犬か。」
「いいから。嗅いでみ?」
「あっ、ホントだ。」
ひまりに押し当てられた封筒からは、確かに花の匂いがした。
「一緒なんだよなぁ。」
ボソッとつぶやく俺。
「何と?」
「さっきの子からも同じ匂いがした。」
「嗅ぐなよ。ヘンタイ。」
「嗅いでないよ、勝手に匂ってきたの。ほのかに。」
その花の香りは、何かすっと気持ちが落ち着くような香りだった。