空無き世界
空の無い世界。そこは美しくも質素な世界で未知に満ちた幻想的な世界。
そこに幽閉されるがごとく暮らす一人の少女。
この世界というやつの地面はある一種類の花だけで構成されており、地面は認識できない。またこの世界の光源は花から湧き上がる謎の光のみでどこかお洒落。
不思議世界で彼女は空を願います。
では。
むかしむかしの平成ごろの話でございます。一人の少女は開くと中から鳥が飛び出してくる不思議な本を持っておりました。
少女はとても心が弱くまた変に高らかな理想を掲げるような女の子でして、自分のやりたいことが分からなくなったりすると決まって本を開いてとりあえず鳥を眺めていたらしいのです。
毎度現れてくるのは白く華奢な小鳥。
彼女は自分の心の弱さとその白鳥の儚さを自身に重ねて、空に決して羽を伸ばそうとしない白鳥を見て心を落ち着かせそして癒されていました。
そんな彼女ですがある日の事件を境にそんな癖もなくなります。
白鳥が一度本を出たっきり空をずっと飛び回り続けるようになったのが原因です。やがて白鳥は遠い彼方の空へとふわっと消え去り、それっきり本から白鳥が出てくることはなくなりました。
白鳥に会えなくなったから少女は癖がなくなったの?
いいえ、きっと彼女はそんなことをしなくても良いほどに心が強くなっていたのでしょう。
だって少女は空に手を掲げられる程に成長していたのですから。
「おしまい。」
私・気楽坂飾音は大分色褪せた本を閉じます。
空無き世界で空に心を掲げる話を読む私は淋しい。
私がいるこの世界というのは殺風景に文字通り花が生えた程度の世界でして、空という明確な景色がないのです。こじつけで空という概念を見出すとしたら”この世界自体”が空なのでしょう。
もうそれはまっくら夜空。宵闇みたいな感じの。純粋とは言えない混沌とした空無き空の世界。
そんなロマンスに満ちた世界ですから起こる現象も洒落ている。
というのもその辺に生えている花からフワッと、雫がこぼれるようにぽろっと外の世界からの書物が現れるのです。
とっても幻想的なのだけど現れる作品の大体がチープなので残念です。私の記憶にあるその外の世界での文化記録から思うに陳腐な内容が多い。
時代で言うなら平成後期から頻繁に見られた作風が心なしか多い。現代の浄土宗なんて一部でささやかれていたものらしく、当時からしたら高尚な文化だったのでしょうか?
事実は知っていても実態までは把握しきれていないのです。もやっとする。
「…空。」
私の体験したことのない世界。知っているだけの世界。
外の世界の人間はどんな空を見て生きているのでしょう。
私は上を仰ぐ。そこには星々なんて膨大な宇宙の歴史は無く、あるのは底なしの暗闇のみ。
この世界に本物の空があったのなら、私は何を思うのでしょう。
たとえ伸び伸びとした青空でなくともそこにある空は美しいものなのでしょうか。
ただ胸の底に潜めてある情熱はなぜだか空という概念に憧れを抱かさせてくる。
真実の空ならなんでもいいのです。こんな私の住む世界のやつはただの紛い物。夢が根源の贋作。
ですから私は外から流れ着く物語を頼りに物語を綴るのです。
正体不明の好奇心を満たすために。
設定は頭にある。ただ演出力が足りない。




