名を捨て星々に手を
回答編です。お楽しみください。
「それからどうなったんですか?」
私、多分きっと気楽坂飾音、年齢不詳の私は陳腐な自称勇者様へと聞き返します。
「それから、あれ…。」
廃人顔の彼は顔を渋らせ、青の濁らせた瞳を静かに揺らしてそれから、
「ワカラナイ」
なんて答える。
「いやすまない、確かに記憶はあるのだ。しかしなんだか曖昧なのだ。過去を振り返るだけで眩暈がするのだ。」
可哀想。ステ兄さんの時間はそんなところで止まってしまっているのですか。馬鹿々々しい。なんで人間はそんなにも怠惰を極めているのだろうか。
人間という生命は、歴史に掛かる時の重みによって今となっては曖昧なのだが、進化を重きとしていたのです。
進化し、歩み、とどまらず、確かな一歩を刻んでいた、ただそれだけだったのだ。
しかし彼らは知能、考える力を持ってしまった。私的にターニングポイントである。
地球にある海、森、岩、土、雨、雷そして空を意識した。私は空想という概念はその時に生まれたのだと思う。その概念というのが実に厄介なのです。周りにたくさんの不明物が存在しているものですから当然それらについて考え始めます。ただの事象に過ぎず、平坦で無機質でなんにも理由なんてないのにただ好奇心という情熱を媒介として活動し、進化を休息してまで思考を続けたのです。因果なんて視認できないのに。
繁殖はやがて趣味の範囲でしかなくなり、未知を追うがあまり意味が曖昧になりました。
人は他人を知りました。
他人を思いそれにより他者と己の境界を概念として知りました。
そして人類といのは愚かにもある難題に衝突します。
「俺はいったいナニモノなんだ…?」
「あなたが知らないのに誰が知るのですか、なんて虚偽はもうやめましょうかね。」
そう私も含め彼は人間でもなければ自然でもない。そこには世界樹の種ではあるのですが開花し得なかった一つの真実が存在するのです。
「あなたは、夢の、もっと言えば空想の残骸です。」
人間が生み出した世界、そこにある絶対的なシナリオの上で踊らせてもらえなかった、哀れな空想の果て。
「俺が、何、ただの、綿も無い人形だと言うのか!?」
「ええ、意味の無い空っぽから生み出されただけの、ナニカ。」
意味のないただの暗闇。残光ですらなく、何故そこにあるのでしょうか。
「そんな…、ふざけるな!俺は確かにあの世界で生まれ、残虐な体験を確かに、タシカニ…、」
「確かに?実感のない何かを信じられるほどにあなたは馬鹿なんですか?もう少し冷静になってください。あなたは、曖昧な世界の混合物でしかないのですから。」
「…!!」
陳腐な捨て兄さんは悶え、嘔吐し、上の空がさらにどこかへ飛んで行ってしまったかのような表情を浮かべます。思い出したのでしょう。己というイメージにだけ意識が向けられ、世界に内包された情報として渦巻いていた頃の痛みを。ドラ○もんのチョコでそんなのありましたよね。あんな感じなのでしょう。
忘却とは痛みを放棄し怠惰を重ね、でもその楽した分は必ず帰ってくる起床後の喪失感のようなものなのです。
「俺は、オレワァ…!!」
「落ち着いてください捨て兄さん。別にあなたを苦しめたくて真実を伝えたのではありません。前に進みたければ過去を認めなければならないんです。夜空に浮かぶ幾多の残光を眺めながら眠るように。」
「マエ、前、前とはナンダ。ウシロとはナニヲ意味する。」
狂っている。こんな人見るのは何回目でしょうか。はぁ、とため息一つ吐き出し、私は彼に教えます。
「前は未来、後ろは有りもしない過去。私はあなたに物語を植え付けます。」
「ナ、、にぃ?」
「ほんと滑稽なイントネーションですね。それはどうでもいいですが、あなたは生きたいですか?」
捨て兄さんの汗の流れが落ち着く。
「こんな命、いらない。はぁでも俺は簡単には死ねないんだったよな?」
溺れながら藁をつかんだような気分なんでしょか。彼。
「そうです。あなたは今、死ぬことができず苦悩していますよね?ならあなたに物語を綴ってあげます。人間でなくとも執筆はできるのですから。」
そう二ヤりと、彼に向って微笑みます。
「ドンナ、物語なんですか!!」
そうやって彼は緊迫した顔でがっつきます。
「私としては面白いと思いますが、でも人によって趣味とか異なりますからね、創作ってそういうものですから。」
へへっと笑います。
ここは夜空、何にも意味は無かったけれど空想が闇を深くする。
それでも確かに光はあって、人々の積み重ねであることは変わらない。
嗚呼、闇よ微笑め、未来へ歩め。さすればそなたは栄光と成る。
礎は情熱、結果は混沌。
それでも残光にそなたは成り得るはずだ。
気楽坂飾音とは一体何者なのでしょうか、彼女は意味がある存在なのか、それともただの何かのイメージでしかないのか…。
はい、次回で捨て兄さん編終了予定です。捨てステ。
ここまで続けてこれたのもただ一つ私の溢れ出る厨二心のおかげでした。有難うございました!!
飾音たんは一体どう闇を奏でるのか、こうご期待(読者0人)。




