ありふれた暗闇に希望を
ほんの少し、いつもより長めです。
変わらず痛々しい文章です。
「ところでお兄さんの名前も聞いていいかな?」
「ステイルだ。」
「そう、妥当ね゛…。」
カザネは何か呟いた気がするけど、無視して構わないだろう。
気が付くと辺りは花畑と化していた。後ろを振り返っても一面花の群れ、不思議に思っているのが顔に出ていたらしくカザネが話しかけてくる。
「どうかしましたかぁ?」
きょとんとした表情で天使のような顔だ。
「いつの間にかこんな薄気味悪い場所きたんだなって。」
すると「ああなるほど」と、表情を緩める。
「実はねここは最初っから花畑の世界だったの」
「?」
「ほらお化け屋敷って最初は真っ暗で何も見えないじゃないですか、でも時間が経つに連れて段々と目が慣れていって少しずつ風景が認識できるようになりますよね。あれと同じです。」
オバケヤシキってなんだろう。しかし何だか知ってるような…。
「でも見えなくていいものまで見えてくるんですよね、良い意味でも悪い意味でも。」
「なあ、そんなことよりさぁここに咲いてる花ってワスレナ…。」
「あ、言い忘れてましたが、あそこに白い童話チックな家がありますよね。あそこ、私の家です。」
「へ、ああそうなのか。」
話を遮られてしまった。あからさま過ぎて思わず飽きれてしまう。
ワスレナグサ、確か花言葉は私を忘れないでとかそんな意味だっただろうか。
「…。ワスレナグサの花言葉ってなんか良いですよね。」
カザネは家のドアノブに手をかけながらそう呟く。
「切ないとは思うけれど、悲劇って物語のスパイスとして優秀だと思うんです。」
危ない。可憐な少女から獣の香りがする。口調は変に飾らず、真面目に、そして平坦に語っている。
「その魔剣を下してください。私ってこういうところあるんでよね、変にカッコ付けて相手を不安がらせて…。前のお姉さんもそうだった。」
前。俺以外にこの気色悪い世界に迷いこんだ者がいるのか。
「そいつは、どうなった。」
「いなくなっちゃった。」
ケロッと、悲しい表情をして答える。
「私と話してたらね、いつの間にか消えちゃったの。」
「家に入ってくれないかな?」
一言一言弱弱しく呟く。裏がありそうが、でもきっと悪い子じゃないだろう。あの獣の香りも間違い、それか呪いか何かだろか、どちらにせよ今はカザネの指示に従うしかないだろう。堪忍して甘い香りが
漂いそうな家の中に入ることにする。
「そこに座って、少し待っててください。今紅茶淹れてきますから。」
そう言い残し彼女はさっと去った。
テーブルの上には白薔薇が生けてある花瓶だけと質素なもので、食器棚や本棚程度しか配置されていない。
こういう部屋に住んでる人間はロクな奴がいないと第6感がつげるが黙らせる。
自分のわがままで仲間に迷惑をかけてパーティーを追放された経験がある以上、自分の考えに固執するのは賢明とは言えない。
「お待たせしました。」
カザネは可愛らしい猫がデザインされたコップ2つをテーブルに乗せて俺の手前に座る。
「ステ兄さんの話聞いていいですか?」
「まぁ今までこっちが聞きっぱなしだったからな、何を聞きたい?」
彼女は前のめり気味に、上目遣いで問いかける。
「ステ兄さんの今までの人生で起きたビックイベントについてです。」
にやにや顔の彼女、彼女はルビー色の瞳を揺らす。そんなこと聞いてどうするのだろう。
「純粋に人の話聞くのが好きなんんです。」
嗚呼、なんだろうこの感覚。カザネに話の所有権が握られるこの感覚が心地良くて堪らない。ブラックホールに吸い込まれるてるような重力を感じる。俺は望んでいるのか、自分のことを洗いざらい全てぶちまけることを。
「話していいのですか?」
「ええもちろん。」
ここは泥沼、というか死ぬ直前とはこのような快楽なのだろうか。
自己防衛本能から脳が快楽を感じさせているようなこの状態、俺は今、俺として消えてしまうのだろうか。
「いいえ、違いいますよステ兄さん。あなたは導かれるべき未来に向かうんです。」
今の俺と別のものに変わったら一体どうなってしまうのか。本当にそれは俺なのか、どうなのだ。
手に力が入らない。魔剣は視界に入れることすらできない。王妃にこれじゃあ申し訳がつかない。
「安心してください。あなたは本当の世界に帰還できるんですよ。さぁあなたの人生を全て私に教えて下さい。」
「ああ、オレというニンゲンはクダランイキモノだったんです。」
この時オレ自身がこの世界の暗闇であり、また醜い花の一輪であったことを思い出した。嗚呼、そう、これでいいのだ。どちらにせよ、オレに未来なんてないのだから。綴ってもらおう。ステイルの名を捨ててもらいたい。
ここに一つ、深い光が誕生した気がした。
次回は1週間以内に投稿できればと思います。
夜空って良いですよね。星々の残光と陳腐な暗闇、いわば過去という概念そのものですよね。
栄光は語り継がれ、暗闇である我々はそれを眺め悶えるだけ。雲がかかり星がみえなくても確かに闇は観測できる。光があれば闇があるとは言いますが、それとは逆で闇があったからこそ光が生まれるのではないでしょうか。努力と失敗の積み重ね、不完全であることがアイデンティティーな人間はそうやって今も進化し続けているのです。
余談ですが、偽善って人間の本質ですよね。




