しょ、食料のためだからね!
「さて。こっからどうするべきか」
今下にはゴブリンが徘徊している。
そして俺が殺したゴブリンを他のゴブリンが丁寧にどこかへ運んでいった。
埋葬の文化でもあるのだろうか?
そう考えると心が痛む。
「とりあえず全員が去るまで待つか」
俺は少し前に採取したオレンジの実を口に入れながら気長に待つことにした。
地球での知識をこっちでも生かせないかと色々考えながらまったりとする。
一歩でも間違えたら足首をくじくだろうからそこは気を付けながら。
「ダメだ。この世界で利用できそうな知識がない」
俺はオタクだ。
日頃から二次元に染まっている俺はそんな大層な知識を持っていたりする訳がない。
「サバイバルの知識でもあればな」
多少テレビや動画で見た知識はある。
それは泥水のろ過の仕方とか獲物のさばき方とか。
ろ過はハンカチとかが必要だった記憶があるし、獲物をさばくかってナイフがある前提の話だ。
「ハンカチの代わりに服とかでもいいんだろうけど、制服水はじくしな……」
そしてそもそも水が見当たらない。
もうしばらくはあの毒のオレンジの実を食べておくしかなさそうだ。
「もう降りてもいいかな」
ゴブリン達がいなくなった所で木から降りた。
「ゴブリンって集団行動するもんなんだな。今まで1体づつ居たのが奇跡だったのか」
あるいは探索は1体だけだとか。
まあ、どちらにせよ警戒はしておくものだな。
「さて」
今いるのは草がそこまで生えていない荒れ地みたいなとこだ。
で、さっきまでいた場所がオレンジの実の森。
歩くにつれどんどん危険な場所に来ている気がするがどうしようか。
このまま元の場所に戻った方がいいのだろうか。
「ん~」
少し考える。
そして気が付いた。
「元の場所がわかんない」
そう。
ゴブリンを倒して木の上に逃げた時点で方向感覚なんて当の昔に狂っている。
出来れば元の場所に戻ってみたいんだがそれは無理そうだ。
なので適当に歩くことにする。
「できればあのオレンジの実をもっと取っておきたかった」
今持っている物は骨だけ。
後は食料なんて持っていない。
待てよ。
冷静に考えて、異世界に来てやっていることって骨持って森を歩いてゴブリン倒してるだけって。
なんか悲しくなってきた。
「なんか面白い物でもあったらいいのに」
今適当に歩いているんだけど景色の変化が全然ない。
木がいっぱい生えてて、後は特には何もない。
と思ったら遠くの方にゴブリンがいた。
「またあいつか」
そう思って来た道を引き返そうか悩んでいると、もう1体のゴブリンがいることに気づく。
「ん? 何やってるんだ?」
そして後に俺が見つけたゴブリンは何かを引きずって歩いている。
何か動物でも捕まえたのだろうか。
いいなぁ。
俺もオレンジの実しか食べてないから肉を食べたい。
それよりも動物ってどこにいたのだろう。
俺まだ一回も見たことが無い。
「お腹すいたなぁ」
……。
あれ。
もしかしなくてもゴブリンが引きずっている獲物を奪えばいいんじゃね?
俺って天才か?
「そうなったら善は急げ」
何が善なのか良く分からないがとりあえず肉が食べたいのでゴブリンを襲うことにした。
俺はゴブリンにバレないように静かに、そして駆け足で移動する。
そして近づくにつれて獲物の正体がわかってきた。
「もしかしてあれは人間……?」
長い髪でボロボロの服を着た人がゴブリンに引きずられて行っている。
それはピクリとも動かない。
「死んでいるのか?」
外傷とかはないのかと思って観察しても小さなかすり傷だけで大きい、例えば棍棒で殴られたとか切られたとか、そういう傷はなかった。
「一応生きている可能性はあると」
もし死んでいるのなら俺はこのまま踵を返す。
生きているのなら、人里の場所を聞けるかもしれない。
それにこのままでは恐らく餓死する。
いま助けに行って人里の場所を聞いて食料を貰った方がいいのかも。
デメリットとして下手をすればゴブリンに殴り殺されるけど。
「……助けてみるか」
あくまで食料のため。
俺はある程度、距離を詰めたら手持っている骨で1体目のゴブリンの喉に突き刺した。
「ギャアッ!」
そしてそのまま骨を抜いてもう1体を刺そうと腕を伸ばした。
奇襲が成功したと思ったらそれは見事空振った。
躱されたのだ。
「流石にそこまで甘くはないか……っと!」
骨をゴブリンに思いっきり投げた。
カーンっと思いっきりいい音がした。
そしてさっき倒したゴブリンから棍棒を奪う。
奪った棍棒でゴブリンを殴る。
今度はヒットした。
ゴブリンが気を失うまで殴り続けた。
殴り続けると言っても2~3発だけだけど。
「殺しても何も感じなくなってきたな……」
この感じは覚えている。
小さいころ釣りに行った時の思い出だ。
釣りたての魚をさばくとき、ぴちぴちと跳ねる生き物をナイフで切った。
その時は罪悪感が凄かった。
でも2匹目はなんのためらいもなく行けた。
「懐かしいな……」
思い返す嫌な記憶。
まあ、それは置いといて。
「おい。大丈夫か?」
俺はゴブリンに引きずられていた人間に声をかけた。