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☆病み期☆

 前回運よくというよりも相手の目に土を投げつけて撲殺できたけども、今回は上手くいくか分からない。


「いや、むやみに戦う必要ないよな」


 そう言えばそうだ。

 ゴブリン見た瞬間、勝てるかどうか考えたけどわざわざ敵対する必要がない。


 その時、ゴブリンを撲殺した映像を鮮明に思い出してしまった。


「……!」


 手に残った黒くて重い何かに感情が支配される。

 そうだ。

 俺は生きている物を殺してしまったんだ。

 

 罪悪感で自分の思考がまとまらない。

 目の前が真っ暗になる。

 忘れようとしていたのに。


 ドッ!


 恐らく俺が地面に膝をついてしまった音だ。

 何故恐らくなのかというと、俺自身がまだ確認できていないからだ。


 両手が地面に付く。

 その時ようやく視界が徐々にクリアになっていく。


「ギ?」


 不自然な音を立ててしまったからかゴブリンがこっちに来るのが伝わってくる。


 まずい。


 どうするべきだ?

 逃げるべきだ。

 そうしよう。


 俺はそう結論付けて駆け出そうとする。


 いや、待てよ。

 前回全力ダッシュして追いつかれた。

 なら無防備に背中をさらすだけで意味がない。

 戦うしかないのか?


 幸いゴブリンの姿は見えていない。

 そして俺は今大きな木の裏に隠れている。


 どうにか上手いことゴブリンに奇襲をかけれないものか。


 理想としてはゴブリンが姿を見せたと同時に、俺が手に持っているこの謎の骨を突き刺すことだ。


 ただ、俺はもう一度あの時のように殺せるのか。

 地球でぬくぬくと育った俺には意識して殺すことが出来そうにない。

 前回は殺さないと俺が死ぬから仕方なくやっただけで。


 もしかしたらこのゴブリンとコミュニケーションを取れるかもしれない。


 いや、甘ったれた馬鹿な考えはよそう。

 恐らく、いやきっと。

 

 やらないと死ぬ。


 当り前だ。

 当り前なのに初めて感じたこと。


 本当に地球のあの環境は甘かったんだな。


 そんなことを考えているうちに足音はすぐそこまで聞こえてきた。


 ザク、ザク、ザク


 足音は物凄く近い。

 もう少し。

 もう少しで俺はゴブリンを殺す。

 甘い考えは捨てろ。


 ザク、ザク


「今だ!」


 俺は隠れていた木から姿を現してゴブリンの前に飛び出た。

 そしてゴブリンの姿を確認すると同時に手にしている骨でゴブリンを突き刺した。


 ガスッ!


 思いっきりゴブリンの体を貫通させるつもりで刺したが、どうやら骨にあたったようだ。

 貫通できなかった。

 それでも腹には思いっきり刺さっている。

 

「ギィ!」


 ゴブリンは腹に骨が刺さったまま棍棒を振ってきた。


「な!?」


 俺はそれに驚いて思わずのけぞった。

 そのおかげで攻撃を運よくかわした。


 油断した。

 最悪だ。ゴブリンに突き刺しただけで俺は勝利を確信していた。

 考えがまだ甘かった。


 そうだ。

 これは殺したら勝ちなんだ。

 相手が死ぬまでは油断してはいけないのだ。


 でもゴブリンは風前の灯だろう。

 腹からは赤黒い液体が大量に出ている。

 それに手にした棍棒を杖にして辛うじて立っている。


 そして腹に刺さった骨を抜いて捨てた。

 ゴブリンの体に真っ黒な穴が開いており、そこからだらだらと血が出ている。


 そして吐血しながら、


「ギイイイイイイイィ!」

 

 森中に轟くような声を出してそのまま力尽きた。


「な、何だ今のは」


 俺はゴブリンを刺した骨を再度回収して力尽きたゴブリンに近寄る。

 ゴブリンは完璧に死んでいる。


 俺が仕留めたゴブリンだ。

 2度目の殺害だが、初めの時よりは心に来なかった。

 それよりも、始めと比べて少し克服できたような気がする。


「ありがとう」

 

 俺は彼らのおかげで成長することが出来た。

 恐らく殺すことに関して今後抵抗は少なくなっていくのだろう。

 

 この世界で生き延びるために必要な事だ。


 必要な事ってわかっているのに。

 なんでこんなに心が痛いのだろうか。

 

 徐々にこの世界に対応しようとしている自分が恐ろしい。

 そのうち何も考えずに殺してしまうのだろうか。


 なんだか本当の自分じゃなくなっていく感覚。

 

 大切なものがベリベリと剥がれて行ってしまうような。


「生きるために必要な事だ」


 自分に言い聞かせるために呟く。

 あれ。

 何で生きようとしているのか。


 正直俺はこの世界が嫌だ。

 怖い。

 元の危険のない甘い世界の方がいい。

 そうだ。

 嫌のなら、逃げればいい。


 具体的には、死ねばいい。


 俺はそう思って動物の骨を持った。

 そして思いっきり自分の体に刺そうか考えていた時、大量の音が聞こえてきた。


 それは色々な方向から、だんだんと大きくなっていく音。


「あのゴブリンの咆哮か!」


 恐らく死にかけのゴブリンが出したあの大きな声は仲間を呼ぶ合図だったのだろう。


 音は色々な方向から聞こえてきている。

 逃げようにしてもどこに逃げたらいいか分からない。


「仕方ない、上に逃げるか」


 俺はさっきまで自分の姿を隠していた大きな木に急いでよじ登る。


 そして木の上から下を確認する。

 そこには10数匹のゴブリンが徘徊していた。


 良かった。

 間に合ったみたいだ。


 あれ?

 俺は死のうとしてたんだろう。

 ならあのまま逃げずにいたらゴブリンに殺してもらえたのでは。

 それなら自分で自分を殺すよりも楽だったのでは。


 自分の思考に思わず笑ってしまう。

 

 そんなの答えは出ているのに。


「死にたくないから生きる。それでいっか」


 本当は死ぬ気さらさらないのに自殺を考えてしまう自分がとても幼稚に思えた。

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