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ファンタジー定番☆ 最弱モンスター!

 あの動く草を蹴った後、俺はしばらく考えていた。


 もしここが異世界なのならばどうやって動くのが得策なのか。

 いや、もしかするとあの草は俺が疲れているだけで見間違いなのでは?


 ……現実逃避は良くないか。

 仕方がない。


 俺は異世界に来てしまったのだ。

 認めよう。


 よく授業中にもし異世界に転移したらどうしようとか妄想していたのにいざ来てみればこれか。


「はぁ……」


 いや、待てよ。

 もしかしたら俺が気づいていないだけであってもしかしたら特別な力が。


「ステータスオープン!!」


 ……。


 ……。


 な、なるほどね。

 ステータスとかは存在しない世界なのか。


 なら次だ。


「いでよ! 俺の魔剣!!!」


 ……。


 ……。


 ふ、ふーん。

 なるほど。


「あーあ! もう嫌だ! 早く現実に戻してくれ! これは夢なんだろ!? 現実的に考えて異世界とかあるわけねーじゃん! 俺はそこまで頭悪くはないぞ!!」


 俺はひとしきり叫び終わるとまた歩き出そうとする。


 そして正面から誰かが来るような音がしてきた。


「どーせまた草だろ。来るなら来いよ」


 気が付いたら勝手に森にいるという理不尽な状況でいら立っている俺は、また蹴ってやろうと身構える。


「ギ……?」


 何という事でしょうか。

 そこに現れたのは先ほどの草ではなくて人間を小さくして全身を緑に塗りたくったような生物がいるではありませんか。

 しかもおまけに棍棒もち。


 突然の予想のしていなかった出来事に、思考は停止する。


「ゴ、ゴブリン……?」


 ファンタジー系のお馴染みモンスターが俺の目の前にいた。


 動かない俺をいいことにそいつは襲い掛かってきた。


「ギィ!」


 俺との距離を詰めるように思いっきり跳躍してきて脳天目掛けて棍棒を振り下ろしてきた。


「うぐぅ」


 ゴンッと鈍い音がして俺の腕が痛む。


 とっさに腕を上にあげて頭を守るとこに成功した。

 ズキズキと痛む俺の左腕だが幸い折れてはいなさそうだ。


 俺を棍棒で殴った忌々しきゴブリンはそのまま地面に着地をし、再度棍棒を振るおうとしてくる。


「うおぉぉ!?」


 寸前のところで後ろに転がって棍棒は空を切る。

 

 そしてそのまま俺は逃げる。


 無理だ。

 ろくにケンカをしたこともなければ運動もしたこともない。

 そんな俺にあんな棍棒をぶんぶん振ってくる人外と戦えと。

 

 せめて格闘技でもやってれば話は別だったのだろうな。


 意外と冷静に状況を分析しつつ俺はガサガサと森の中を走る。


「ギギィ!」


 俺の背後からゴブリンの声がする。

 

 ま、まさか俺を追ってきているのか!?


 走りながら後ろの方を見る。

 するとすぐそこに棍棒を空に振り上げたゴブリンが居た。


「うわああああ!?」


 ガスッ!


 ゴブリンの棍棒が俺の背中をかすめた。


 そのままゴロゴロと勢いを殺せないまま転がって木にぶつかった。


「うぅ……」


 何とかしてその場から起き上がるとゆっくりとゴブリンが下品な笑みを浮かべながらこっちに近づいてくる。


「……なんだよ。弱い獲物を前にしていたぶって楽しんでるってか? くそっ」


 ファンタジーじゃお馴染みの弱い存在として扱われているゴブリン。

 でもそれは武装して一定の訓練を受けているから弱いのであって、ただの一般人である俺が倒せるわけがない。

 

 ならどうするのか?


 さっきも言ったが特に運動をしてこなかった俺だ。

 こっから全力で逃げたってゴブリンにすぐに追いつかれてしまうだろう。

 現にさっき簡単に追いつかれたし。

 それに体力も限界に近いから長くは走れない。


 だからと言ってこのまま殺される訳にもいかない。


 戦うしかないのか。


 俺はゴブリンを真っすぐ見つめる。

 奴はさっきと変わらずニタニタと笑いながらこちらを見ながら近寄ってきている。


 まだ距離は十分とは言えないがある。


 なので俺は近くに転がっている木の枝を大袈裟に左手で掴む。


 その木の枝はとても軽く、恐らく腐っているのだろう。

 これでゴブリンを殴っても大したダメージにならなそうだが、まあいい。


「うおおおおお!」


 俺は雄たけびを上げながらゴブリンに棒を持って突撃する。

 

 それを見たゴブリンは俺の動きを予測していたのだろう、棍棒を掲げてガードをしてきた。


「読み通り!」


 さっき棒を拾った時と一緒に掴んでいた土をゴブリンの目を狙って投げつけた。


「ギイィ!」


 上手くいった。

 だいぶ古典的な方法だが効果はあったようだ。


 ゴブリンが少しひるんだ所に頭目掛けてドロップキックを放つ。

 そのまま吹っ飛んでいき、俺はゴブリンの持っていた棍棒を奪い取った。


 そして棍棒を両手で思いっきり振り上げ――


「ギ、ギィ」


 怯える、助けを乞うような目を向けるゴブリン目掛けて振り下ろした。


 ゴッ!


「ギャ!」


 両手に鈍い振動が伝わってくる。


 俺はもう一度棍棒を振るった。


 ガスッ!


「ギャイ!」


 もう一度。


 ゴキッ


 もう一度。


 グチャ


 それから俺は一心不乱にゴブリンを殴り続けた。


 もうゴブリンは死んでいるってわかっているのに。

 これ以上棍棒を振らなくていいとわかっているのに。


 それから俺の両腕に限界が来たと同時に棍棒はすっぽ抜けた。

 

「はぁはぁはぁ……」


 ドサッと、俺はゴブリンだったであろう肉塊の前に座り込む。


「お、おえええええぇ」


 びちゃびちゃと、胃酸をぶちまけた。


「お、俺は生き延びたんだ……」


 俺は自分の手を見てみる。

 それはずっと棍棒を振り続けたために皮がずる剥けていた。


「ははは……いってぇなぁ」


 皮が剥けて真っ赤になった手のひらを見つめる。

 それはとても汚く、気持ちの悪いものに見えた。


「俺が殺したんだ」


 目の前にある肉塊を見る。

 それは俺で棍棒でひたすら殴って作ったもの。

 何とも言えない罪悪感にストレスが溜まっていく。


「いや、殺していなかったら俺がやられていたんだ」


 そうやって自分に言い聞かせる。

 これは正当防衛だったんだと。

 それでも心に出来た真っ黒な腫瘍はちっともとれやしない。


「喉が渇いたな」


 さっき嘔吐したせいで口の中がすっぱい臭いでいっぱいだ。

 それにずっと動きっぱなしだったし、そろそろ水分が欲しい。


 水を飲んだら少しはすっきりするだろうか。


 俺は水や食料を求めてまた歩き出した。

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