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8.対象はこいつでだ

 慌てたように兵士は走り去っていった。

 そしてジーエムの言葉に再度溜息を吐く。

 何をしたいのかが分かったからだ。


「俺を非道だと思うか?」


 ジーエムの問い掛けに首を横に振る。

 既に半日の行方不明状態なのだ。さすがに現時点で捜索願を出されているとは思えないが、無断欠勤になっているのは間違いない。

 横ではファルコンも首を横に振っている。

 こいつには身重の嫁さんがいるんだ。

 俺なら無断外泊も許されるだろうが、こいつだと心配を掛けるだけだ。その上で会社から無断欠勤の確認の連絡が来たりしたら。

 今日中に還れたとしても既に大問題なのだ。更に日数が延びたりしたら。……考えたくもないな。

 下手をするとこいつの嫁さんは気疲れで流産するかもしれない。そんな事になったらファルコンはこの世界を滅ぼすに違いない。

 たぶんファルコン、鈴木の奴は一週間も持たないだろう。


 少し経って兵士が幾人かの者達を連れてくる。当然のように護衛の兵士も付いて来ていた。それを即座にファルコンが麻痺させている。

 既にこの広間には六十人近い兵士が転がっている。

 更に兵士が押し掛けて来ないのは、王が人質になっている事が知れ渡っているからに違いない。


「これで全員か?」


 ジーエムの問い掛けにその兵士は肯く。だがジーエムはその兵士に指を向けて再度尋ねていた。


「本当の事を言わないとお前を殺すぞ。本当にこれで全員なのか?」

「……い、いえ。そ、その、側妃が一人身重なので動かせず……」

「そんな事情は俺達には関係ない。構わず連れて来い」


 その兵士は震えながらも動かない。

 そしてジーエムが連れて来ていた女性の一人に指を向ける。年齢的に考えるとたぶん王妃なのだろう。その女性は身体を痙攣させるとすぐに倒れこむ。

 王と王女が口をパクパクさせている。声は出せないようだが悲鳴を上げようとしているのだろう。

 周りにいた家族達は大きな悲鳴を上げている。「おかあさま!!」と叫んでいるのは実の子供達なのだろう。

 ただ倒れてはいるが胸は上下している。死んではいないのだろう。

 不思議な事に気の毒とか可哀相だとかの気持ちが湧かない。子供達が泣き叫んでいても五月蝿いとしか思わない。

 こいつ等は俺達を巻き添えに召喚を行った者達の家族なのだから当然だ。

 どうやら俺も壊れてきているらしい。


「お前が動かないせいで王家の者が息絶えていくぞ。さっさと連れて来い」


 ジーエムが再度その兵士に命令する。

 命令された兵士は王と王女、それから今連れて来た王の家族を見た後に慌てて去っていった。


「何かを勘違いしているようだが、お前等は誘拐と拘束を行っている犯罪者とその仲間に過ぎない。即座に殺されないだけでも感謝して欲しいものだな」


 ジーエムが連れて来られた王家の者達に声を掛けている。

 彼等彼女等は麻痺させられていない。それでも動こうとはしていなかった。


 そして言われてみればその通りなのだ。

 こいつ等は、この国の王家の者達は、俺達を攫った犯罪者なのだ。

 相手の都合も考えずに連れ去る拉致の上に、元の場所に還す気も無い監禁を行っているのだ。召喚と言うのはそういう行為なのだ。

 王の意思だから何者にも優先する? こいつ等は俺達にこの世界の権威が通用するとでも思っていたのだろうか。


 そしてジーエムの言葉には相当の怒りが感じられた。

 そうだ、彼の家庭事情を俺は詳しく知らない。子供はいないらしいが、もしかするとジーエムの嫁さんも身重なのかもしれない。

 一刻も早く還りたいと願っているのはファルコンだけではない。ジーエムも同じなのかもしれない。


 またしばらくして兵士が一人の婦人を伴ってくる。もちろん側付きであろう護衛も一緒だ。

 ファルコンが即座にその護衛達を麻痺させる。

 その婦人は臨月間近と言うほどではないのだろう。それでも大きくなった腹を抱えていた。

 ファルコンはその姿を見て何かを思い出したようだ。その目には深い憎しみのような物が窺える。

 ジーエムが王と王女の麻痺を解除するようにファルコンに頼んでいる。

 自由な状態になった王が声を上げた。


「貴様等どういうつもりだ! 王である我に逆らうつもりか!」


 その言葉に瞬間的にカッとなったのは俺だけではないらしい。

 ファルコンから熱線が飛んで行き王の右腕を貫いていた。そして俺はアイテムボックスから取り出した剣でその王の左脚を膝の先から斬り飛ばしていた。


「ヒギャアアアアアア!」


 倒れながら王とやらの悲鳴が響き渡る。

 拉致監禁を行った奴が何を偉そうに言っているんだ。まさか自分が凶悪な犯罪者と言う自覚すら持っていなかったのか?

 さすがにファルコンも俺もこの時点でこいつの命を奪うのが不味い事は分かっている。脅迫のためにこいつの家族を集めた事も認識している。

 だからまともに動けないようにしたに過ぎない。


 ジーエムが王に向けて指を伸ばす。熱線に貫かれた右腕からの出血が治まっていく。膝から先が無くなった左脚が盛り上がるように塞がれて血も止まっていく。

 この状態で固まってしまったならば治癒での欠損再生は無理に違いない。

 ファルコンは斬り飛ばされた左脚先を熱線で焼き尽くしている。仮に治癒魔法使いが王宮内にいたとしても繋ぎ直す事は不可能だろう。


 腕と脚から感じる痛みは継続したままのようだ。王とやらは相変わらす悲鳴を上げ続けている。

 ジーエムは転がりながら悲鳴を上げている王の側面から蹴りを入れていた。

 おいおい手加減抜きだな。あれじゃ肋骨が何本か逝っているだろう。


「先の言葉は聞こえていただろう。お前等は誘拐と拘束を行っている犯罪者に過ぎない。寝惚けた事をほざくな」

「ウググググ……」


 さすがに王も大声で悲鳴を上げ続けるのが不味いと感じたのだろう。痛みを堪えるように低い声で唸り続けていた。

 しかしこう見るとただのオッサンだな。威厳もオーラも全く感じない。ただ無駄に齢を経ただけのチンピラのようにも思える。

 何で貴族連中がクーデターなり、この国の民衆達が革命なりを起こさなかったのだろうな。


 王女は俺達に怯えた目を向けている。

 何でも言う事を聞くから皆を許してください、などと抜かしている。

 馬鹿か。昨日の会話でお前が嘘吐きである事は分かってるんだよ。今更善良な王女様ぶったところで意味が無いんだよ。

 まあ家族思いなのは本当のようだな。真偽判定でも嘘じゃないようだしな。


 たんに異世界からの召喚者を同じ人間だとは考えなかっただけだろう。何でも言う事を聞くペットだとでも思っていたのだろうな。

 いやペットだと家族同様に思う奴もいるか。ペットロスなんて言葉もあるしな。知能のあるサル程度に思っていたのかもしれないな。

 残念だったな。お前が喚び出したのは猛獣だったんだよ。召喚主を喰い殺すような悪魔か化け物だったんだよ。


「さて、あんたには今から召喚をして貰う。そうだな、対象はこいつでだ」


 ジーエムは再度王を蹴りながら王女に向かって告げた。

 おいおい、王がまた呻いてるぞ。罅が入った肋骨が痛いのだろうな。知った事じゃないがな。


「しょ、召喚は必ず出来る訳ではありませんが……」


 王女が怯えたように答えている。

 へえ、召喚って成功率が低いのか。

 まあ簡単に出来るなら今頃ここには日本人が溢れかえっていてもおかしくないもんな。こいつ等の駒としてだけど。


 というか……それってテレポートじゃないのか。ある物を別の場所に瞬間的に移すんだろ。そのある物が異世界にあると言うだけで。

 もしこの世界の物を召喚出来るなら軍隊の移動なんて楽になるんじゃないか。実際俺達三人とあの高校生を含めた四人を移動させているのだから。

 十回も行えば四十人の兵士を瞬間移動させられるんだろ? 城門を開けるなんて楽勝じゃないか。

 あ、目の前にしか移動させられないのかもな。でもそれなら敵側の指揮官だけ連れ出す事も可能か。物凄く強力な能力じゃないか。

 と言うかそんな考えすら出ないのだろうな。まあ王家の者の真ん前にそんな奴を喚び出す訳にはいかないのかもしれないが。

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