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4.そんな目で見ないでくれないか

「私は……そうですね、ジーエムとでも呼んでください」

「ジーエム……ああ、GMですか。貴方はTRPGに詳しいと言う事ですね。私はリプレイと呼ばれる本を齧った程度でしか知らないのですが」


 てぃーあーるぴーじー? なんだ、それは?

 RPGなら分かる。ゲームなんかでよく聞く単語だ。勇者になって魔王を倒すために世界中を旅するのだろう。

 頭にティーが付くと何か違うのだろうか。


「ああ、鈴木はTRPGなんて知らないか。そうだな、コンピュータ抜きのRPGと言うか、人間がコンピュータの代わりをすると言うか。まあそんなアナログなゲームの一つだ。GMってのはコンピュータ代わりの者を指すと思えば良い」

「簡単に言ってしまえば『ごっこ』遊びになるんですけどね。佐藤さんはゲームやMMOなどでよく使う名前はありませんか。それらなら呼ばれた時に反応し易いと思いますが」

「うーん、ならウォータスで良いですか? まあSATOUを引っ繰り返しただけなのですけどね」

「あはは、お互いに適当な名前を付けてますね」


 くっそう、置いてきぼり感が半端ないぞ。

 しかし覚えやすくて反応しやすい名前か。いや確かに名前を変えられるゲームでよく使う名はあるのだが。その名を挙げるのは少し恥ずかしいような。


「鈴木はそんな名前はないのか?」

「いや……その……ないこともないが……」

「なんだ、その歯切れの悪い物言いは。お前だって本名晒すのに問題あるってのは分かるだろ」

「ああ……それは分からなくもないが……」

「そんなに恥ずかしい名前なのか? まさか『ああああ』とかじゃないよな」

「……ンだ」

「え? 聞こえないぞ。はっきり言えよ」

「ファルコンだよ!」

「!? ぶはははは! ファ、ファルコン……それはさすがに……わはは!」

「悪かったな! 格好付けた名前で!」

「くふふ。いや、笑っちゃ悪いな。ああ、お前の名前って隼人だもんな」


 そうだよ、悪かったな。初めて名前を付けられるゲームをしてから、ずっとこのファルコンって名前を使ってるんだよ。

 格好良いと思ったんだよ! 今でも思ってるんだよ!


「ではお互いをウォータス、ファルコン、ジーエムと呼ぶ事にしましょう」

「ジーエムさんは冷静ですね。やっぱりTRPGを遊び慣れているからですか」

「まあ色々な名前を付ける人がいますから。自分の性癖を暴露するような名前を平気で付ける馬鹿もいましたし。それから、さん付けは止めておきましょう。偽名に敬称付けたって意味が無いですよ」

「確かに。ではジーエム、各々が受け取る能力だが……あ、すみません。雑な言い方になってしまいましたね」

「それも偽名の目的の一つですよ。名を呼び捨てにしているのに丁寧語って使い辛いでしょう。慣れるまでは会話の先頭に偽名を付けた方が良いと思いますよ」

「なるほど。やっぱりTRPGってコミュニケーションのゲームなんですね」


 井上氏、いやジーエムは俺の良く使う格好付けた名前など気にしないようだ。

 それに確かにコンピュータの代わりを務めるなら会話能力が高くなるのかもしれない。人見知りならそんなゲームをやってられないだろうし。

 けれどそうか。偽名を使うのにはそんな効果もあるのか。

 しかし性癖を暴露するって一体どんな名前なんだ?


「それでウォータス、ファルコン。与えられる力だが可能ならば分けたほうが良いと思う。共通で持つべきものもあるのだが」

「ジーエム、それはゲームで言うとタンクやメイジとかの区別って事か?」

「そうだな。ファルコンもコンピュータゲームでRPGに触れた事はあるだろう。話は理解出来ているよな」

「あ、ああ、ジーエムさ……いやジーエム。なんとなく分かるよ」


 おいおい、井上氏も佐藤も、いやジーエムもウォータスもすっかりタメ口になってやがる。順応性高すぎるだろう、お前等。俺は思わず「さん」を付けそうになったっていうのに。

 でも確かに与えられる力は分かれていたほうが良いよな。

 与えられる力ってのが神のように何でも出来る力ならともかく、さっき管理人が言ったように限定的な力を幾つかって事ならバラけている方が良い筈だ。


「申し訳ありません。行く先の世界は魔法が使える世界のようですが、その魔法はどの程度のものでしょうか。誰でもどんな魔法でも使える世界でしょうか。それとスキルのようなもの、武術なんかもスキルを取れば誰でも使えるようになるのでしょうか」

「ほっほっほ。お主は本当に分かっておるのじゃな。魔法がある世界と言えば誰もが普通はゲームのような世界と思うじゃろうに」

「私には先輩がいますからね」

「ふむ、お主の友人達が過ごした世界と似た感じと言っても良いだろうのう。魔法を使えるのは千人に一人程度じゃし力のある魔法だと更に十人に一人じゃろう。ジョブやらステータスなんて物もなければスキルとやらもないしのう。だが鑑定を使えば特殊な力や魔法を持つ者は分かるじゃろうな」

「貴重な情報ありがとうございます」


 ジーエムが管理人に問い掛けている。

 なるほどゲームのような世界じゃないのか。ジョブやクラス、ステータスやスキルがある世界じゃないって事だな。

 俺もそんな世界かと勘違いしていたよ。そりゃそうだ。考えてみりゃそんな世界がある訳無いよな。

 しかしジーエムの友人が過ごした世界? ジーエムは別の世界の存在を認識していたのか? だから普通に管理人と会話が通じているのか?

 俺なんて未だにこれは夢じゃないかと考えているのに。


「ファルコン、ウォータス。となると対人を主体に考えた方が良さそうだな」

「その前に聞いていいか、ジーエム。あんたの友人達ってのは異世界転移の経験があるってことか?」

「ああ、ウォータス。秘密にしておきたい事だがこの状況だ。言っておいた方が良いかもしれないな。その通りだ。友人達が異世界転移を経験した事があるんだ。俺自身は経験していないのだが奴等から色々聞いているんだよ。だからどんな技能が役に立つかも見当が付くのさ」


 おいおい。ジーエムよ。あんた頭がおかしいんじゃないのか。なんでそんな話を信じているんだよ。

 俺の友達が異世界云々の話を始めたら病院行きを勧めるか縁を切っているぞ。

 そりゃこんな経験をした今なら信じるかもしれないけどよ。


「ファルコン、確かに俺はおかしいかもしれんが狂人って訳でもないぞ。そんな目で見ないでくれないか」


 おっと、いけないな。確かにジーエムは普通じゃないかもしれないが狂人って訳でもないよな。

 こんな状況にいるんだ。俺こそ狂っているのかもしれないしな。

 ジーエムに謝るべきだな。


「ああ、ジーエム済まない。そういうつもりじゃないんだ。それでどんな力が必要なんだ?」

「全員が持つべきなのは真偽判定の技能だな。相手の言葉が本当か嘘かを知るのは必須だと考えている。二人以上でそれが可能なら読み違いも起こらないだろう。それと通信の技能かな。離れていても意思疎通が出来るのは重要だろう」

「ふむふむ。やはり先達がおると違うのう。魔物や獣を倒すような力を欲すると思っておったのじゃがな」

「いつのどんな世でも最も恐ろしいのが人間である事に違いはないでしょう」

「ほほほ、良いぞ。それらの技能も付与しておこうかの」

「ありがとうございます」


 やっぱりジーエムは違うな。俺も管理人の言うとおり相手を倒す戦闘力が必須だと思っていたよ。

 最も恐ろしいのは他の人間か。確かに良く聞く話だ。オレオレ詐欺だけでも年間数百億円の被害が出ていると聞いた事があるしな。

 それに通信か。確かに現代ではスマートフォンなんかで楽に遠方の者とも会話が可能だろう。けどもし中世ファンタジーのような世界なら無理に違いないしな。


「後は各々の役割に沿って力を与えて貰えば良いと思う。そうだな、物理戦闘が可能な者、魔法が使える者、治癒能力を持った者辺りが妥当かな」

「ジーエム、それはRPGで言えばファイター、メイジ、ヒーラーって事か?」

「ああ、ウォータス。だが戦闘系だと遠当てや範囲攻撃が役に立つ筈だ。魔法系は麻痺や睡眠などのデバフ系が基本だな。治癒系は……まあ予備だな。あった方が良い程度だろう」

「ジーエム、それも友人とやらの経験談か?」

「ウォータス、基本は対人だと言っただろう。もちろん幾つかは攻撃魔法がある方が良いだろうけどな」


 なるほど経験者は語るか。いや実際にジーエムの経験では無いのだろうが。

 魔法なんていうとファイヤーボールのような物を思い浮かべるが実際は使う機会が少ないのか。

 直接の戦闘でも斬り結んだりしないのか。遠距離攻撃や範囲攻撃が重要って事はそうなのだろうな。


「そうだな。ファルコンとウォータスで話し合って決めてくれ。俺は二人に足りない力を与えて貰う事にするから」


 なんていうか大人だな、ジーエムは。俺が俺が、なんて気が無いようだ。

 まあ俺達も三十越えだ。普通に働いていれば協力が大切な事なんて分かりきっている。ガキのように自分が最強だ、なんて誇りたい気持ちも無いからな。

 それに俺達は召喚に巻き込まれただけの脇役でしかない筈だ。主人公はあの高校生なのだろうし。

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