18.エピローグ
俺の名前は桐生魁斗。
古武術や陰陽術の心得はあるけれど普通のどこにでもいるような高校生だ。
召喚魔法によってこの世界に喚び出されたらしい。
だが召喚主の王と王女に胡散臭いものを感じてその日の晩に逃げ出した。
王都の隣の街で冒険者の登録をして幾らかの路銀を稼いだ。
その途中で奴隷だった女の子も助けた。治癒魔法の才能を持つ少女だ。
陰陽術にも回復系の法術はあるが専門の治癒魔法使いには敵わないだろう。良い相棒になってくれる筈だ。
そして召喚された国を立ち去った。
あんな王家が治めている国だ。碌な国ではないだろう。兵士に見つかりでもしたら大変だ。
まあ俺の持つ技術なら追い返すのも楽勝だろう。それでもお尋ね者や指名手配にでもされたら動き辛いしな。
隣の国に入ってすぐにモンスターに襲われている馬車を救った。
その馬車に乗っていたのは貴族の少女だった。俺より少し年下のようだ。
その少女は攻撃魔法を使える貴族の娘だった。
その娘を護衛しながらこの国の首都を目指す。娘を首都に送り届けるとその娘の父親に凄く感謝された。娘婿にとまで言ってくれた。
だけどこの国はあの召喚された国に隣接している。当然それなりの付き合いはある筈だ。あまり長居はしたくない。
断って去ろうとしたがその少女は俺に付いてくると言った。父親も俺なら信頼出来ると認めてくれた。
そして俺と奴隷だった治癒魔法使いの少女、そして攻撃魔法使いの貴族の少女の三人でこの国を出た。
次の国では武闘大会が開かれていた。
俺は出場する気は無かったのだが武闘大会が開かれる街で知り合った少女のために参加する事になった。
その少女は剣士だった。今は亡き父親の汚名をそそぐために頑張っていた。
俺は武闘大会の裏に潜む陰謀を潰しながら勝ち上っていった。その過程で剣士の少女の父親がその陰謀の犠牲者だった事も判明した。
陰謀を潰すと少女の父親の名誉も回復された。
そして俺は大会に優勝した。俺の持つ古武術の技と女神に与えられた肉体のおかげだろう。
そしてその少女も仲間になった。
さすがに優勝してしまうと名が売れてしまう。あの召喚された国にまで伝わると厄介だ。この国からも去る事にした。
気が付くと俺と三人の少女の四人のパーティーとなっていた。
その次に訪れた国で弓使いの少女と出会った。
その少女はダンジョンに潜っている探索者だった。
そして面白い話を聞いた。あるダンジョンに伝説と呼ばれる良く分からない武器が眠っていると。
片側にしか刃がなく少し反った形状の細身で三尺を越える剣であると。
間違いない。大太刀と呼ばれる種類の「刀」だろう。
冒険者になった時に俺は剣を手に入れていた。だけどその剣は斬ると言うよりも叩き潰す方が主体となる両刃の西洋の剣だ。それでは俺の古武術の技を十全に生かしきる事が出来ない。
俺達はその伝説の武器、刀を求めて幾つものダンジョンを踏破した。そして刀を手に入れたのだ。
ずっと手伝ってくれた弓使いの少女もいつの間にか仲間となっていた。
次に行った国では戦争が起こっていた。魔王が治める国との間にだ。
あの召喚された国での話を鵜呑みにはしていない。それでも魔王と呼ばれる存在がいるのだ。
俺はある村で一人の少女を助けた。その少女こそが魔王だった。
そして知った。彼女は魔王なんて呼ばれてはいたが実際は代々魔力が高いだけの普通の人間である事を。
その存在を恐れた他の国々が攻め寄せていたのだ。それも彼女の父親が亡くなった隙を付いてだ。
彼女に確認したが逆召喚なんて魔法は知らないらしい。どうやら元の世界に戻るのは無理のようだ。
やはり最初の国の召喚を行った王と王女は嘘を吐いていたのだ。
俺達は幾つもの戦場を駆け巡り戦闘を終わらせていった。
治癒魔法使いの奴隷だった少女、攻撃魔法の使える貴族の少女、剣士の少女、弓使いでスカウト技能のある少女、そして恐ろしいほど大量の魔力を有する魔王と呼ばれていた少女。
バランスの取れた五人の少女達と、この世界では珍しい「刀」が使える古武術と治癒すら可能な陰陽術をも兼ね備えた俺。
何の問題もなく勝ち続けていった。
そしてこの国と魔王の国との間に平和条約を結ばせたのだ。
この国の王族はまともだった。最初に召喚されて現れた国の王との条約で参戦していただけだったのだ。
全ての根源はあの国の王だったのだ。
俺達はその後も魔王の国と隣接する国々を駆け巡った。
ある国では権益を求める貴族連中との抗争があった。
魔王と呼ばれた少女の治める国を領土を奪いたいのだ。そしてそれを自分達の領地にしたがっていたのだ。
そんな貴族達を俺達は倒していった。隠居させたりして実権を子供達に譲らせていったのだ。子供も愚かだった場合はその貴族家を廃絶させたりもした。
そして王権を強固にして平和条約を結ばせたのだ。
別の国では主戦派の軍人達との戦いがあった。
彼等は領土が欲しい訳ではない。いや、もちろん勝つ事で領地が手に入るなら嬉しいのだろうけど。
なによりも戦場が、闘う場所が欲しいのだ。それによって得られる地位や名誉が重要なのだ。
馬鹿馬鹿しい。実際に戦うのは兵士だ。徴兵された農民達なのだ。
俺達は指揮官連中を目標に叩きのめしていった。最終的には後方で指揮している貴族達も潰していった。
主戦派がいなくなったところで平和条約を締結させた。
そんな事を繰り返しながら各国が平和条約を結んでいった。
もう俺が召喚されてから一年が過ぎていた。
最後に残ったのは俺を召喚した国だけだ。あの王だけは許してはならない。
あの国に向かおう。俺を召喚して駒にしようとした連中がいる国に。
そして思い出す。一年前に俺の巻き添えとなった三人の事を。
まだ生きているのだろうか。いや、期待は出来ないだろう。
あの三人は俺と違って女神様に会っていなかった筈だ。俺の鑑定では何の特殊な技能も見られなかったのだから。
あの三人は只の普通の人間だったのだ。役立たずとして既に王家の者達に殺されているのかもしれない。
俺が彼等三人の無念を晴らしてやる。あの王だけは俺の手で片を付ける。
(了)