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17.少し残念な気もするけどな

 ファルコンとウォータスが兵士を三人ほど引き摺ってきた。王族連中をテストに使うのに躊躇したのか?

 どうやら違うらしい。残った王族連中だと俺達と体格に差が有り過ぎると思ったそうだ。

 確かに王族連中で五体満足なのは未成年としか思えない子女や側妃達しか残っていないしな。


 送還魔法を実行してみる。

 しかし引き摺って来られた兵士達の転がっている床には魔方陣が浮かび上がらず移動もしていない。

 コンパイラ型への変更も成功しているな。魔法陣すら浮かばないのだから。魔法は発動すらしなかったようだ。

 そしてやはり生きた人間が三人だと使うエネルギーが足りないか。

 今までは大広間に倒れている兵士からエネルギーを吸い出していた。弱った兵士一人分の一パーセントにも満たないエネルギーで補えていたのだけどな。

 それに吸い出す対象も魔法兵でなく普通の兵士だったのに。


 一人の一般兵士から吸い出すエネルギーを二パーセント程に変更した。すると対象とした三人の兵士の辺りの床が輝き、瞬間移動するように別の場所に現れる。

 三人共生きているし何の問題もなさそうだ。


 思わず俺SUGEEEEと自画自賛したくなるな。俺の組んだ魔方陣って効率良過ぎるだろう。

 あの王女の召喚魔法と比べると数十倍か数百倍の効率があるんじゃないか。

 これなら半径一キロの王都民のエネルギーを吸い尽くせば俺達が還るためのエネルギーを十分補えるだろう。半径五キロまでのマージンを取っていたのだがな。


 数回移動距離を変えながら送還魔法を使い続ける。この大広間内ならどこに移しても問題はない。

 何度も転移させられた兵士達も何の影響も受けていないようだ。

 送還魔法は完成したと言っても良いだろう。いや、この魔法は厳密には送還魔法ではない。元の世界とこの世界を往来出来るのだから。

 でもこちらの世界に来る時は位置エネルギーの差をどうにかしないといけないよな。やはり還るためにしか使えなさそうだ。

 送還が可能な時空間転送魔法と言ったところか。テレポート魔法とでも名付けようか。

 ……俺にも名前を付けるセンスはあまり無いらしい。あの馬鹿の付けた技名を笑えないな。


 俺は送還魔法が完成した事を二人に報告する。


(ファルコン、ウォータス。帰還するための魔法は完成だ)

(おう。出来たのか。テストの様子は見ていたが問題なさそうだな)

(おめでとう。なんか送還魔法と言うより瞬間移動魔法って言った方が似合いそうな魔法だよな)

(そうだな、ウォータス。まあ残念ながら使い捨てになりそうだがな。元の世界に還ったら使えないだろう)

(ああ、そうか。俺達の技能って位置エネルギーの差分で管理人に与えられた物だしな。元の世界に還ったら位置エネルギーに変換されるのだろうな)

(それで構わないさ、ファルコン。こんな力を持ってそれを隠しながら生きていくなんて大変だろう。ジーエムもそう思うよな)

(……ああ、そうだな)


 いや、あの馬鹿共は現代日本にいても特殊な力が残っているのだがな。もっともその力を使う気は無いらしいが。

 まあ俺達はアイツ等とは違うから与えられた技能が残りはしないだろう。


 この二人には送還魔法の詳細は話していない。

 その魔法が半径一キロ以内の人間の生命エネルギーを吸い尽くす事になる事を。その結果もしかしたら亡くなる者が出るかもしれない事も。

 彼等は知る必要が無い。手を汚すのは俺だけで十分だ。


 二人を近くに呼び寄せる。これからが本番だ。

 ファルコンが王族達を眺めながら声を掛けてくる。


「なあ、こいつ等に何も言わなくて良いのか?」

「ファルコン、何を言うんだよ。二度と召喚なんてしないようにでも諭すのか」

「ウォータスの言う通りだ。何も言う必要はないさ。今回の召喚はこの国の、少なくとも王家には記録として残るだろう。一人には逃げられ、そして残りの者達に復讐されて何人もの王族が亡くなったってな」


 王族連中にわざわざ釘を刺してやる必要なんかない。言わずとも召喚という行為が碌な結果を招かない事は分かった筈だ。

 それに俺達が去った後は王宮の者達も大変だろう。

 王太后の毒殺や、あの愚かな突入なんかで貴重な魔法兵が幾人も使えなくなったしな。対応した指揮官の何人かの首が物理的に飛んでもおかしくない。

 それに数日は王都は麻痺状態になるだろう。政治的にも軍事的にも。

 何しろ王宮から半径一キロの範囲の人間が死に掛けの状態になるだろうしな。


 ファルコンが俺の「一人には逃げられ」の言葉で、あの高校生の事を思い出したようだ。


「そういや逃げ出した彼はどうしてるのかな?」

「さあな。ギルドなんかで登録して冒険者にでもなっているのかもな。ケモミミの奴隷なんかと一緒にさ」

「ウォータス、いくらなんでもそこまでベタな展開はないだろう。まあ俺達が王宮なんかの注意を惹き付けていたんだ。王都を脱する時間くらいはあった筈だ。逃げ出す程度の知恵は持っていたようだしな。この国の外に向けて進んでるんじゃないか?」

「ふーん、彼はそんな事をしているのか。元の世界に還りたいなんて思わなかったのかな?」

「高校生くらいだろ。本当に大事な物に気付いてなかったんじゃないかな」

「そうだな、ウォータス。俺達には家族がいる。護るべき者達がな。それに親兄弟に心配を掛けるのも気が引ける。だが彼はまだ高校生だ。これから新たな世界に羽ばたこうと考えても不思議はあるまい」


 あの高校生の事は気にしても仕方がない。

 彼を見捨てて還ると言うより、彼には自由に生きて欲しいと思っている。

 彼は一人で逃げ出す勇気や一人でもやっていける能力があったのだろう。独りだけで生きていけると信じていたのだろう。

 頑張って生きていって欲しいものだ。決して皮肉のつもりでなくな。


 俺達は元の姿に着替えている。ファルコンとウォータスはスーツ姿に。俺はラフな普段着に。

 持ち物なんかも検めている。この世界に変な物を残さないように。

 まだ日は高い。時計を見ると午後八時くらいだった。やはり一日で一時間ほどずれていっているようだ。元の世界では夜なのだろう。

 そして固まって集まった俺達の足下が光を放った。



 気が付いたら俺達三人は風が吹きすさぶ場所に立っていた。

 さすがに人に見られる訳にはいかない。俺は誰もいないような場所を送還される位置に設定していた。

 指定どおりならここは俺の事務所の入ったビルの屋上の筈だ。

 夜になっているようだが辺りは十分に明るい。様々なネオンや電気の灯りが目に入る。どうやら元の世界に還れたらしい。


 懐からスマートフォンを取り出して電源を入れる。俺はあの世界に行ってすぐにスマートフォンの電源をオフにしていた。電池を持たせるためにだ。

 二人にもそうするように頼んだ。どうせネットにはアクセス出来ないしカメラなんかの機能も使わない。あの世界で記念写真を取る意味もない。


 スマートフォンを見る。どうやらアンテナも立っているようだ。

 傍にはファルコンとウォータス、いや元の世界に還ってきたんだ、鈴木さんと佐藤さんと言った方が良いだろう。二人の姿が目に入る。


「!? ここはどこだ?」

「風が強いな。地面は……コンクリートのようだが」

「鈴木さん、佐藤さん、無事に還ってこれたようです。たぶんここは私の事務所の入っているビルの屋上です」


 俺は状況が分かっていない様子の二人に声を掛ける。


「……井上さん、いやジーエム。丁寧語はやめよう。今更だしな」

「そうだな、ファルコン。少なくとも俺達の間ではタメ口で構わない」

「ふふふ、そうか。たぶん屋上の扉も鍵が掛かっている。開けられそうな奴を呼び出すとするか」


 そう言って馬鹿共の一人に電話する。

 アイツなら見知らぬビルでも忍び込むのは簡単だろう。確かスカウトっぽいスキルを持ってた筈だしな。

 俺が電話している間に二人もスマートフォンを起動しているようだ。家族の無事を確認しているのだろう。

 すぐにあの馬鹿は来てくれるそうだ。どうもあの馬鹿共が全員揃いそうな気もするのだが。

 そしてファルコンとウォータスにその事を伝える。


「一応確認しておくが管理人に与えられた技能なんかは残ってないよな?」


 俺がそう尋ねると二人も顔を見合わせる。アイテムボックスが使えないのは俺が確認済みだし鑑定はこの世界の物には効かない筈だ。

 俺はスマートフォンで外国語の歌を流してみたが分からなかった。どうやら言語理解も消えているらしい。


 ウォータスは拳を振るっている。遠距離攻撃や範囲攻撃も出来ないようだ。

 ファルコンもアスファルトの地面を睨んだ。しかし何も起きていない。

 そして俺はキーホルダーに付けている小型のドライバーを取り出す。仕事の都合上プラスドライバーもマイナスドライバーも手元にあったほうが便利だからな。

 そしてマイナスドライバーで手の甲を傷付ける。血が滲んでいるが見つめても直る様子がない。治癒能力も消えているようだ。


「どうやら何の技能も残っていないようだ」

「少し残念な気もするけどな」

「ファルコン。過ぎたるは猶及ばざるが如しと言うだろう。余計な力など持っているだけで不幸になりかねないぞ」

「そうだな、ジーエム。まあメールやSNSで見る限り妻や子供も元気らしい。良かったよ、何も起きてなくて。しかし家族や会社にどう説明すれば良いのかな。俺達は三日間も行方不明だったんだろ」

「正直に話すと病院行きになりそうだしな」

「ファルコン、ウォータス。どうにかなるさ。こうして別の世界からも帰還出来たんだ。どんな事にも不可能はないさ。そうだ。今更かもしれないが連絡先の交換でもしておこう。機会があればあの世界での話でもしようか」


 そう言ってお互いの連絡先を交換する。


 そしてふと思いついて屋上に転がっていたコンクリートの破片を見つめる。

 一瞬その破片がある箇所の床が光りその破片が消えた。そして足下にはそれまで存在していなかった筈の破片が転がっていた。

 ああ、そうか。俺は送還のために位置エネルギーとやらを残していたな。だが送還魔法は周りの人間の生命エネルギーを使うようにしたもんな。

 管理人に与えられた技能は消えている。だけど向こうの世界で新たに創り出した魔法は残ったままのようだ。

 ……俺もアイツ等と同じ「化け物」になってしまったらしい。


 更に思い出す。管理人のサービスの事を。俺達に黙って勝手に身体の強化をしてくれていた事を。

 まさかそれも残ったままではないのだろうか。

 じっと目を凝らす。夜の闇の中ではるか先に転がっているコンクリートの破片の形すらはっきり見えた。

 ……これは二人にも伝えておかないといけない。大っぴらにしていると変な組織に目を付けられる可能性がある。


 しばらくすると扉が開く音がする。そしてアイツ等が揃って顔を出す。

 アイツ等の顔を見て改めて思う。俺達三人は元の世界に還ってきたんだと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 召喚された国に残れば元の世界に帰れるってわけじゃないと思うけど、それこそご都合主義でしょ。
2023/07/24 23:00 退会済み
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