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14、何が書いてある?

 突入部隊を撃退した後は再度王女に召喚魔法を使わせる。

 ウォータスとファルコンは大広間の方に落ちた魔法兵の顎を一人ずつ潰して廻っている。呪文や詠唱が出来ないようにだ。

 王族達の麻痺は王女と王を除いて解いていない。自然に解けるまで放っておくつもりだ。きっと王族や兵士の連中も諦めているだろう。

 たぶん直近の再突入はない筈だ。最精鋭の筈の連中が何の収穫もなしに倒されたんだから。

 ああ、収穫はあるか。遠距離で範囲の攻撃が出来る者がいる事は分かったのだからな。

 ただ王宮側は作戦は考え直す必要があるな。ならばやはりすぐに第二陣が来る事はないだろう。

 もっとも俺達はこの先も警戒は解く気がないけどな。


 王女は召喚を行い続けている。家族は麻痺状態なのだ。下手な真似が危険なのは分かっている筈だ。

 失敗続きの召喚を三回ほど行ったところで王女は気絶していた。

 無理もない。こんな不完全な魔方陣を昨日今日と合わせて二十回以上描いているのだから。

 豪奢な金色の髪だったのにほとんどが白くなっている。まあ自業自得だろう。俺達を召喚さえしなければこんな目に遭うこともなかったのだ。


 俺達はスマートフォンや腕時計を持っている。着の身着のままこの世界に召喚されたのだから当然だ。

 さすがにスマートフォンはどことも繋がりはしなかった。異世界物だと普通はネットとか検索とか出来るんじゃないのかと文句を言いたくもなるが仕方ない。

 時計としての意味しかなさそうだ。


 どうやらこの世界の一日は二十四時間ではないようだ。

 まだ日が高いのに午後七時過ぎって事はないだろう。感覚的には午後四時かそこらくらいか。

 まあ一日一時間程度のズレならあまり問題はないのかもしれない。どうせ数日でこの世界を去るつもりだしな。

 そういえばこの国の暦なんて聞いていなかったな。もっとも四日程度でさよならするなら知る必要もないのかもしれないが。


(ジーエム、王女が気絶したようだが問題ないのか?)

(ああ、ファルコンか。先の襲撃後は検証のためだけだしな。召喚魔法とやらの全体像は確定したよ。不要な箇所を削減して最適化を終えたら、それを元に送還魔法の作成に入る予定だ)

(明日には完成しそうか?)

(そうだな、明日の昼には出来そうだ。ただ送還魔法の使用を考えると今晩も休ませてもらいたい。万全の体調で行いたいからな)

(分かった。ウォータスと俺で昨夜と同じに見張りをするよ。ウォータスもそれで良いよな)

(了解だ、ファルコン。ある意味ジーエムが俺達にとっては命綱だからな)


 ファルコンの通信が飛んでくる。

 二人の信頼が重いな。だが安心しろ。お前等二人はなんとしても還してやる。

 とりあえずは召喚魔法のブラッシュアップだな。


 先にも思ったが無駄が多すぎる。不要な箇所を削るだけでも十分の一になる。同じ計算をしている箇所を纏めるとさらに半分は削れるだろう。

 その上でインタプリタ型のように一語ずつ魔方陣を構築するのではなく、コンパイラ型に変えて詠唱を不要にすればさらに半分くらいの大きさになる筈だ。

 実質四十分の一くらいのサイズの魔法になりそうだ。一日十回唱えただけで死にそうになっている王女が可哀相になるな。


 召喚魔法の最適化自体はすぐに終わった。問題はこの召喚魔法を元にして送還の魔法を創り出す事だ。

 基本はそんなに変わらない。あの管理人の言うところの三十三階の床に穴を開けるだけなのだ。

 問題は召喚だとその穴から落ちてくるだけなので何もしなくても良いが、送還の場合はそこまで持ち上げる必要があると言う事だ。

 俺達に与えられた技能に相当するエネルギー分をだ。


 もっともあてはある。魔法兵の魔力だ。

 この王家に唯々諾々と従っていた兵達だ。限界まで魔力を吸い上げても問題あるまい。傍で年老いたようになっている王女みたくなっても。

 だが魔法兵が協力なんてしてくれる筈がないしな。半径一キロ圏内にいる俺達以外の人間の魔力を全て吸い出すことになるだろう。

 俺がヒーラーでも良いと思ったのもこのためだ。治癒を掛ける相手のエネルギーを扱う方法が分かるんだからな。

 その箇所を解析改良すれば範囲内の対象のエネルギーを吸い尽くすようにも出来るだろう。

 こんな王家に仕えている貴族達と王都に暮らせる住民達だ。限界まで魔力や生命力を抜き取っても構わない。

 まあ誰も死にはしないだろう。王女も生きてはいるのだからな。まるで何十年も齢を取ったようになっていても。


 日が落ちてきて暗くなる頃に王族連中の麻痺が解けてくる。もちろん兵士達は再度ファルコンが麻痺を掛け直している。

 さらに大広間に落ちてきた魔法兵は軒並み顎を潰している。抵抗出来そうな者はいないだろう。

 王族連中はまた集まらせる。

 崩れ落ちた王妃と片腕が焼かれた先王、片腕が膨れ上がり碌に動かせなくなった第一王子、そして片腕を切り落とされた妹姫。その四人の顔色は相当悪い。早めに治療されないと大変な事になるだろう。俺は治癒するつもりは全くないしな。

 もっとも他の連中もずっと飲まず食わずのため良い顔色ではないのだが。


 そしてウォータスからの通信が入る。


(日も暮れてきたな。連中の晩飯はどうする? まあ用意して貰ってもたぶん食べないだろうけどな)

(ウォータス、さすがに丸一日水分さえ取らずにいるのは可哀相だと思うが)

(やさしいな、ジーエムは。あの召喚を見過ごしていた連中だ。気遣ってやる必要なんかないと思うけどな)

(ファルコン、一匹だけ魔法兵以外の奴の麻痺を解いてくれ。一応食事の用意だけはさせておこう。それを食べるかどうかは王族達に選ばせるさ)

(ジーエム、了解だ)


 ファルコンが倒れている兵士の一人の麻痺を解除する。

 その兵士はのろのろと立ち上がる。

 相当疲弊しているようだ。丸一日半に掛けて麻痺状態で倒れていたのだ。しかも絶食状態でだ。碌に身体が動かないのも仕方がないだろう。


「晩飯を用意するように伝えろ。鍋か何かに一纏めにしたシチューにした方が良いぞ。お前一人で抱えて戻って来れるようにな。毒を入れても構わんが亡くなるのは王族だって事を忘れるなよ」


 その兵士は辺りを見廻して、さらに王族達を見詰めてから大広間を去っていく。なぜか彼も股間が気になっているようだ。

 そしてしばらくして寸胴を抱えて兵士が戻ってくる。さすがに別の兵士には変わっていないようだ。

 もうファルコンも王族への伝言をさせないためだと分かっているのだろう。寸胴を下ろさせると即座に兵士を麻痺させる。

 俺とウォータスは朝と同様に寸胴の中身を盾を裏返した鍋に移していく。


 おいおい、また金属製のカプセルが入っているじゃないか。中に伝言の書かれた紙片入りの物が。

 昼飯の用意をさせなかった時点でばれていると思わなかったのだろうか?

 いや平文だな。俺達に見られる事を意識しているのだろう。

 ウォータスが小声で話し掛けてくる。さすがに伝言内容を王族達に聞かせる気はないらしい。


「ジーエム、何が書いてある?」

「この料理には毒なんて入ってないとさ。そして俺達に王族は解放しろだとさ」

「はあ!? これを仕込んだ奴は馬鹿か? 無条件解放する訳ないじゃないか」

「ウォータス、まだ王宮の奴等はこの国の権威が通用すると思っているのさ」

「あれだけ兵の損害を出してもか? 貴族って頭が膿んでるんじゃないのか?」

「この王家だ。まともな奴は高官に就けないのかもしれんな」


 黙って聞いていたファルコンがその伝言が書かれた紙を魔法で燃やす。怒りに満ちた目でその紙が燃え尽きる様子を見ている。

 仕方あるまい。ファルコンの妻子は食事も喉を通らないだろう。既に行方不明になって三日目なのだ。

 ウォータスの妻だってさすがに心配しているだろう。無断欠勤が二日も続いているんだから。

 ……俺の場合はあの馬鹿共が嫁に話をしてくれていたら問題ないのかもしれないが。あの嫁だとどんな突飛もない話でも信じてくれそうだし。


 ファルコンが盾を裏返した鍋に入った食事を王族達の前に運んでいく。


「王宮からの差し入れだ。まあ死んでもいい奴が最初に食べれば良いだろう」


 おいおい、その言い方だと毒入りだと思われるぞ。いや誤解させているのか。

 ファルコンは王族連中には差し入れされた食事が無毒である事を知らせる気すらないようだ。召喚を行った王家の家族が飢餓に苦しもうと構わないと思っているのだろう。ウォータスも同じ気持ちだろうけどな。

 俺達は相変わらずアイテムボックスに収納している水や食事を取る。

 アイテムボックスは時間停止機能もあるようだ。水は冷えているし食事も温かいままだ。幾つかの種類の食事を用意していたおかげで毎回食べるものは違う。だから飽きる事もない。


 食事を終えたら俺は休憩に入る。

 見張りの順序は昨夜同様ウォータスが先でファルコンが後のようだ。

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