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13.簡単過ぎないか?

 昼食を終えた後も王女に延々と召喚魔法を使わせ続ける。

 手を抜いたらどうなるかは昨日の時点で分かっている筈だ。

 俺達が王族の誰に対しても容赦がない事も。身重の側妃でさえ全く考慮されていない事もだ。


 既に王族連中は昨日の昼から飯抜きだ。水の一滴すら口にしていない。王宮から差し入れられた食事も信用出来ないのだ。

 全員が苦しそうだが俺達は完全に無視している。

 王や王女はともかく他の王族は朝のファルコンの言葉で気付いたのだろう。

 召還と言う行為がどんな非道な物であるかを。相手の都合を無視した拉致監禁に過ぎない事を。

 そして自分達が犯罪者の身内でしかない事も。俺達が王族達をそうとしか見ていない事も。


 昼から行わせた三回目の召喚でようやく召喚魔法の全体像が分かった。

 しかし本当に無駄な箇所が多い召喚陣を構築しているな。

 ああ、そうか。まだ代数や関数の考えが無いんだな。鶴亀算だけで計算をやっているようなものか。

 しかも解いた値を格納するって考えも無いらしい。同じ計算を何度も行っているじゃないか。

 それになぜ太陽や月の位置なんて計算しているんだ? この召喚陣には関係ないし不要だろう。たぶん神秘学やオカルトなんかの影響が強いのだろうな。

 なるほど、これなら失敗が多い理由が分かるよ。

 と言うか、これをインタプリタ型のように一語ずつ変換しながら魔方陣を構築していくだと? 百回行って一回成功すれば御の字だろう。


 ああ、アイツ等が魔法はあってもそのレベルが低いって言っていた意味がようやく分かったよ。中世っぽい異世界だと数学的思考が殆ど無いんだな。

 この召喚陣なら中学生程度でも十分の一のサイズで組めるんじゃないか?

 そりゃ感覚だけに頼っていたら魔法を使える奴も一万人に一人になるかもな。


 さて、もう少し検証しておく必要があるかな。

 王は……まだ生きているな。いや死んでいないと言った方が妥当か。召喚が失敗した時の無駄なエネルギーを喰らい続けているんじゃ仕方ないか。

 王女さん、悪いが限界まで召喚魔法を使い続けてくれ。王がくたばるまでな。


 そんな事を考えていたらファルコンから通信が飛んでくる。


(ジーエム、ウォータス。探査に引っ掛かった。どうやら扉前から来るのが三十人くらい。両壁面の明かり取りの窓から各二人ずつの計二十人のようだ)

(三方面からか。ファルコンは両壁面の方を頼む。俺は扉を担当する。ジーエムは討ち漏らしが出た時の対応を頼む)

(了解だ、ウォータス。先にも言ったが二人共なるべく殺さないようにしてくれ。これはお前等に人殺しをさせたくなくて言っているんじゃない。負傷者を増やす事はそれに対応する人員が増えるからだ。治癒魔法使いは看護に手を取られるだろうしな)

(ああ、なるほど。ファルコンも麻痺や睡眠で対応してくれ)

(わかった。ウォータスも骨を砕く程度に抑えておけよ)


 俺の「殺すな」と言う指示は半分本音で半分嘘だ。

 対多数の場合は相手を殲滅するよりも攻撃能力を減らす方が良いのだ。

 そう、実際に殺す必要なんて無いのだ。一人を負傷させたらそれを引き摺って退く者も出るだろう。つまり二人を戦場から遠ざける事になるのだ。


 そしてやはりこの二人には人を殺すような真似をして欲しくない。少なくとも明らかに死んだと分かる状況にしたくない。

 ウォータスによる遠距離攻撃だと相手が倒れてもそれが本当に死んでいるかは分からない。

 ファルコンの麻痺で襲ってきた兵士が窓から外に落ちても、そいつが死んだかどうかなんて窺い知る事も出来ないだろう。


 さて、王宮側はどう出てくるかな?

 俺達の手の内はこの国の連中にはあまり明かしていない。

 ファルコンは魔法使いだと思われている。まあ、これは仕方がない。

 ウォータスは遠距離や範囲の攻撃を見せていない。恐らく近接専門の魔法使いの護衛だと思われているだろう。

 俺も治癒魔法使いだと思われている筈だ。そのために王を癒したのだからな。

 もっとも単一の相手なら攻撃も可能だと思われているかもしれない。さすがにそれが治癒改造の魔法だなんて見当も付かないだろうがな。


 そして奴等の鑑定では俺達の能力が全く判断出来ない。本当に俺達がその程度なのか、他にも何かの技能を隠しているのではないかと恐れているだろう。

 だから今回の突入部隊は王宮がすぐに動かせる最精鋭の者達の筈だ。

 そいつ等をどうにかすれば次の襲撃まで十分時間が稼げるだろう。それまでに俺が送還魔法を組めれば問題ない。


(来るぞ!)


 ファルコンが通信技能で告げる。

 王宮の連中もさすがに扉を打ち壊す気がないようだ。そもそも俺達は鍵を掛けてすらいないのだ。

 だが扉側から突入しようとした連中は入り口付近でたたらを踏んでいる。


 なあ、俺達が何の対処もしていないと思っていたのか?

 昼からは俺は召喚魔法の解析をしていたし、ウォータスは王家の傍で脅しを掛けて俺の合図で王族を害しようとしている。

 ならばファルコンは何をしていたと思う? 何もせずにいたと思うのか?


 突入しようとしていた連中は扉の前で五列に並べられた麻痺した兵士達を前に立ち止まっていた。

 さすがに三メートル近くの幅に転がっている仲間を踏み越えては行けなかったのだろう。扉の幅一杯に数十人の麻痺した兵士が倒れてるんだ。

 何人かはその兵士を踏み付けていたが呻き声に足を止めていた。


 そこにウォータスのハンマーが振るわれる。

 遠距離で範囲の技能が乗った攻撃だ。立っている突入部隊の連中は全員が弾き飛ばされている。

 相当の衝撃だったらしい。手脚が変な方向に折れ曲がっている。吐血している奴もいるようだ。そいつ等は肋骨か内臓が逝っているのかもしれないな。

 やるな、ウォータス。立っている兵士の膝から上にしか影響がないようにしている。麻痺して転がった兵士達には何の影響もない。


 窓から侵入しようとしていた連中はどうやら魔法兵だったらしい。

 こいつらはなにか戸惑っている様子だ。

 ああ、人質が分散されて麻痺状態だとは思っていなかったのだろう。

 それとたぶん見慣れない服装の奴が見付からないからだろう。それを見付けたら魔法を撃ち込むつもりだったんじゃないか。


 朝の時点ではファルコンもウォータスもスーツだったし、俺はトレーナーにジーンズと言った姿だったしな。そんなこの辺りでは珍しい格好をしていると聞いていたんだろう。

 突入部隊が来ると分かっててそんな格好のままでいると思ってたのか?

 背格好の似た王族や兵士から服を奪うなんて考えてもいなかったのか?


 ファルコンが窓に足を掛けたまま戸惑っている魔法兵に麻痺を掛けている。

 半数近くが窓の外に落ちているようだ。この大広間は確か三階だった筈だ。身体が麻痺した状態で受身も取れずに十メートル近くも落ちたらどうなるのかな?

 残りの半分近くは大広間の方に落ちてきている。


 おっと、どうやら二、三人はそこそこの異常耐性を持っているらしい。

 なんとか窓に留まれているようだ。だが俺がそいつ等を指差すとバタバタと落ちていく。

 確かに身体異常に対する耐性は持てるだろう。けれど治癒魔法に対する耐性なんてない筈だ。

 そりゃそうだ。治癒魔法に対する耐性なんて意味が無い。怪我をしても癒せないなんて自殺行為だしな。

 そして俺の魔法は治癒だ。リミッターを外して過剰な治癒を行うけどな。


 ファルコンから通信が飛んでくる。


(なあ、簡単過ぎないか? ジーエムの予測だと突入してくる連中って精鋭じゃなかったか?)

(そうだよな、ファルコン。なんか楽勝過ぎて騙されているような気がするな)

(ウォータス、たぶん王族が人質だったからだろう。それに倒れている兵士達も王族に直に接する事が出来る立場の者だ。貴族関係者じゃないかな)

(ああ、封建制の国だったな。いかんな、現代地球の感覚で考えちまう)

(ジーエム、ウォータス。言っている事が良く分からないんだが……)

(ファルコン、人質作戦への対処と言うのは「既に人質は死んでいる」と考えるのが基本になるんだ。人質が生きていたらラッキーくらいの気持ちでな)

(な!?)

(ジーエムの言う通りだよ。現代地球では日本以外になるけどな)

(日本人と言うのは惚けているから仕方がないさ。非人道的と騒ぐ馬鹿なマスコミとそれに踊らされる愚かな国民が多いしな。俺なんかは人質が有効だと認めさせる方が余程非人道的だと思うのだけどな)

(まあジーエムの言う日本人の考え云々は置いておいて、これも知識の差って言う事だ。連中は人質を助ける事を念頭に置いていたに違いないさ)

(……お前等怖いよ)


 たぶん王宮の連中は俺達が平民だとでも思っていたのだろう。碌な知識も持たない相手だろうと。

 封建制の世界では貴族階級の者しか高度な知識を持てない筈だ。アイツ等も言ってたしな。わざわざ平民を通わせる学校なんて無いって。

 人質を纏めて置いておくとか、倒れた兵士はそのまま放っておくとか、服を変えずにいるとか、その程度の知恵しかないと信じていたに違いない。

 ああ、そうか。この突入作戦を考えたのも高位貴族の奴なんだろう。平民が王族や貴族を害したりする事はないと信じていたのかもな。

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