12.面白い事を言うな
朝食を食べ終えたら昨日の続きの解析作業だ。
王と王女は他の王族達によって看護されていたらしい。
そこにファルコンが近付いていって王と王女を王族達から引き離そうとする。
側妃であろう女性が王女を庇いながら必死にファルコンに呼び掛けていた。
「お願いです。彼女は疲れてます。休ませて上げてください」
「……何を言っている? 休ませたいなら俺達が還ってから休ませれば済む話じゃないのか」
「君には親の気持ちが分からんのか!」
先王、王の父親らしい男が怒鳴り声を上げた。
次の瞬間には先王の右腕が燃え上がった。ファルコンの攻撃魔法だろう。
「ギャアアアアア!!」
「面白い事を言うな。親の気持ちね。ならば即刻俺達を還してくれるか? 俺にも妻子がいるのでな」
「アアアアア! ……そ、それは……」
「親の気持ちが分かるんだろう? ならば無理矢理に妻子と引き離された俺の気持ちも分かるよな。お前さんも二度と子供に会えないようにしてやろうか?」
「……」
「ふん、お前等は自分達が拉致監禁を行っている犯罪者とその身内だとの認識が無いようだな」
ファルコンはそう告げると王女の腕を取って引き摺り出した。さらに王に至っては蹴り出している。
ファルコンは相当怒りに震えているようだ。
当然だ。親の気持ち? それは犯罪者側の身内が言って良い事ではないだろう。ファルコンの瞳に剣呑な光が見えているぞ。
既にファルコンは妻子と離されて三日目になるんだ。そして最短でも明日にならないと還れないんだ。
「さて、今日も限界まで召喚を行って貰おうか。もちろん対象はこいつでだ」
俺は連れ出された王女に向かい告げる。蹴り出された王を指差しながら。
この王女も先王の焼かれた右腕を見ていた。ファルコンの怒りに満ちた言葉も聞こえていたようだ。
たぶん下手な真似をすると更に家族に害が及ぶと分かっているのだろう。王女は疲れきったように返答する。
「……分かりました。やります……」
そして王女は召喚を行い続ける。
もう手を抜いたり、対象を変更することもしていない。俺に「見えて」いる事が分かっているからだろう。
ようやく召喚魔法のおおよその全体像が見えてきたな。
しかし毎回失敗する箇所が違うのはなぜだ? 召喚魔法の技能持ちって少ないのだろうか。
まさか口伝なのか? もしかしたら師とかいなくて感覚で行っているのか?
もしそうなら成功率の低さも納得だ。こんな無駄な魔方陣を魔力で描いているなら失敗しても当然だろう。
俺は元の世界ではプログラマ上がりのSEと言われる仕事をしている。だから召喚の魔方陣をプログラムとして解析している。
どうやら魔法と言うのはインタプリタ型のようだ。
詠唱? 呪文? どちらでも良いが一語毎に実行されているらしい。だから途中で変な命令が来た時点で破綻する。
あの王とやらが弱ってきているのは対象指定までされているのに、その後の命令がおかしいためだろう。間違いの後の負担を全部喰らっているようだ。
コンパイラ型だと全部を唱え終わってから実行されるので、魔法は発動すらされず対象にも何の負担も掛からないのだろうに。
俺が送還魔法を組む時はコンパイラ型に変えた方が良さそうだな。
と言うかこの世界に残って魔法の改良を行ったら、俺は賢者とでも呼ばれる存在になれるんじゃないか?
もっともそんな気は全くないけどな。
王女に五回ほど召喚をさせたところでウォータスが昼休憩を勧めてきた。
そうだな。少し休んだ方が良いだろう。
王女も少しは休憩させた方が良いかもしれないな。だいぶ苦しそうだし。
後は数回ほど王女に召喚魔法を唱えさせたら全部解析出来そうだ。その後も検証のために限界まで唱えさせるけどな。
残念ながら王族連中の昼飯はなしだ。
あの連絡文を見たんだ。兵士の内の一人の麻痺を解除して食事を運ばせる気なんて起きない。
昼食の手配がされない事に気付いたら王宮の奴等はどうするのだろうな。
アイテムボックスから出した食事を取りながら、ファルコンとウォータスに話し掛ける。
「ファルコン、ウォータス。昼過ぎからは突入部隊が来るかもしれない。ファルコンは適宜探査魔法を実行してくれないか。どこから来るか分からないから全方向の探査で。それと人質、いや障害物を増やしたいから攻撃は可能ならば麻痺で済ませて欲しい」
「ああ、ジーエム。分かった」
「ウォータスは遠距離での範囲攻撃を心掛けてくれないか。それと剣や弓よりハンマーでの面制圧の方が役に立つかもしれない」
「なるほど、ジーエム。確かにそうかもな」
ウォータスはそう言ってアイテムボックスからハンマーを取り出した。そして俺に確認してくる。次の会話は秘密にしたいのだろう。通信技能を使っている。
(ジーエム、それで解析の方はどうなんだ? 何か掴めたのか?)
(ウォータス、おおよその見当が付いたってところか。後数回ほどで全体像が分かるだろう。まあ検証のために限界まで召喚をしてもらうがな)
(そうか。それで送還魔法は作れそうか?)
(たぶん問題ない。と言うかこの世界の魔法ってのは無駄が多いようだ。そうだな、インタプリタ型言語って分かるか?)
(あー、聞いたことがあるな。と言うかそんな言葉がすぐ出てくるって事はジーエムはIT業界にでも勤めてるのか?)
(まあな。俗に言うIT土方って感じだろうな)
そこでファルコンも通信での会話に加わってくる。この通信技能と言うのはグループ間会話のようだし当然聞こえていたのだろう。
(ジーエム、三徹くらい慣れてるって言ったのはそのせいか)
(まあな、ファルコン。そうだ、あんた等の仕事を聞いても良いか?)
(あー、営業だな。と言ってもお得意さん回りが主体だけどさ。もちろん新規開拓もしないといけないが)
(大変そうだな、ファルコン)
(いや、ジーエム。あの口の上手さと興味の引き方だ。あんたこそそっちの仕事の方が向いてるんじゃないのか?)
(ファルコン、それは褒め言葉と受け取って良いのか?)
そういえば仕事関連の話ってあまりしていなかったな。もっともそんな場合じゃない事が原因なのだろうけど。
どちらかと言うとプライベートな事、妻子がいるかどうかなんかの方が重要だったからな。特に身重の嫁さんのいるファルコンなんて心配で堪らないだろう。
俺も彼のためになるべく早く送還魔法を作らなければならないと考えたしな。
俺だけだったらもっとゆっくり過ごしていたかもしれない。
この二人には言っていないが駅の構内にはあの馬鹿共がいたんだよ。
アイツ等なら召喚の魔方陣を探知しただろう。俺がいなくなった原因が推測出来ているのかもしれない。そして俺の嫁にも上手く話してくれるに違いない。
そう、俺だけが巻き添えを喰らっていたならこの世界の探索をしていた可能性が高い。
言っては何だがここは異世界だ。あの高校生同様この王宮から逃げ出して自由に冒険をしていたのかもしれない。
ただアイツ等と違って一人なのは不安だけどな。
やはりこの二人と一緒だったのは良い事だったのだろう。
同じ境遇の者がいるのといないのとではやはり違うのだ。アイツ等も言っていたな。分かり合える者がいるとそれだけで励みになるって。
昼食を終えたらもう一頑張りだ。今日中に解析は終わるだろう。
進捗次第では今晩にでも新規に送還魔法の作成も始められるかもしれない。
たぶん来るであろう突撃部隊は二人に任せるしかない。
ファルコンは麻痺で対応するだろうし、ウォータスの使う武具をハンマーに誘導出来たのも良かった。壊す攻撃は可能だが即座に命を奪う事は出来ないだろう。
王宮なら治癒魔法使いもいる筈だ。重傷を負っていても最低限の治癒はして貰えるに違いない。それでも亡くなったのなら、それは治癒魔法使いの怠慢だろう。




