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11.冗談も大概にして欲しいなあ

 ファルコンが起こしてくる。

 どうやら夜が明けたらしい。昨晩は襲撃なんかが無かったようだ。

 ウォータスも既に起きているようだ。

 やはり彼等はまだ緊張しているのだろう。眠りも浅かったに違いない。


 緊張も動揺も感じない俺がおかしいのだろう。

 やはりあの馬鹿共の話が影響しているのか。だが実際にアイツ等の力を見せられれば信じざるを得ないだろう。

 もっとも今の俺の立場は奴等とはまた異なっているらしいが。


 召喚の巻き添えか。

 アイツ等の話を聞いてからTRPGで異世界転移のシナリオを幾つか作ってプレイしたよな。

 もっともあの馬鹿野郎共は全てをぶち壊しにしてくれたが。

 「なんで転移者がわざわざ冒険者になるんだ?」「常時依頼の魔物退治? そんな物ある訳ねえだろ」「たった数回の依頼達成でギルドランクアップなんてありえないと思うんだけど」「世界を救うねえ。冗談も大概にして欲しいなあ」

 いろいろな文句を言ってくれたよな。そりゃアイツ等にとってはありえないのかもしれないけど。


 でも同じような状況になると分かるよ。

 確かに世界を救おうなんて気は起きないな。還るための努力で精一杯だ。しかもアイツ等と違って護るべき対象もいる。

 鈴木さんと佐藤さんの二人だ。二人とも家庭を持っている。鈴木さんには子供もいるそうだ。

 俺だって子供こそいないが嫁はいる。TRPGを楽しむようなちょっと変わり者の女だけどな。


 俺だけが壊れるのなら構わない。あいつなら多少俺が変わっても受け入れてくれそうだからな。俺もあいつも元から変わってるしな。

 だけどこの二人は違う。当たり前の普通の人間だ。

 あの管理人に文句を言えるのなら一つだけ言いたい。なぜこの二人に俺の頼みを聞かせたのかと。人を殺せるような精神力を与えたのかと。簡単に人を傷付けられるようにしたのかと。

 いや分かるさ。そのままの精神だとやっていけないって事は。

 でも実際にそれを行うと絶対に心が壊れるんだ。なにかが歪むんだ。あの馬鹿共を見ていると分かるんだよ。


 この二人がメイジやファイターを選ぶだろうと推測はしていた。

 魔法が使える世界ならそれを望む事も。実際に武器を持つ役になる事も。

 そして誘導もしたさ。デバフ系の魔法や範囲や遠距離の攻撃が有効だと。それらの力が実際には人を殺さずに済む事を隠して。


 治癒魔法の応用はアイツ等から聞いたよ。睡眠や麻痺に使えるって。

 ならその先はどうだ? 実際に人を害せるのではないのか?

 だから解析の技能を貰ったんだ。新たな治癒魔法を作れるように。治癒魔法でも人を「殺せる」ように。

 そう、この二人を人殺しにしないためにだ。人を傷付ける事は出来ても、決して命を奪わせないために。


 そして俺は位置エネルギーの差分を大量に残している。攻撃力なんかには全く使わなかったからな。

 正直抑えるだけでも一苦労だ。いつ漏れ出しても不思議じゃない。

 もし溢れ出たらあの管理人の言ったようにこの世界に影響が出るだろう。この辺り一帯が吹き飛ぶような可能性もある。

 だが必要なのだ。解析で送還魔法を作り出した時にそれを使えるエネルギーを残して置く事が。


 そう、送還魔法なんて物が無い場合に備えて置く事がだ。

 そして王と王女との質疑応答で確認した。

 喚び出せはしても戻す方法が無い事を。あくまで一方通行である事を。

 念のためにしていた事だが無駄ではなかったようだ。……本当は無駄であった方が良かったのだが。


 そしてふとあの高校生を思い出す。

 正直なところ一人で逃げ出すような奴を気に掛ける必要もないのだろうが。

 たぶんラノベや何かに毒されているのだろう。まあ彼が主役なのだろうから仕方がないのかもしれないが。

 彼の鑑定結果だが、どう見ても与えられた技能が少なすぎた。

 この世界の管理人は碌な技能を与えなかったのだろうか。それともこの世界の管理人だと位置エネルギーとやらの変換効率が悪いのだろうか。

 もしかしたら彼は暗殺術や古武術などを習得していたのかもしれない。呪術や心霊術、陰陽術なんかの魔法が使えたのかもしれない。

 主人公らしいと言えばそうなのだろう。確かに「どこにでもいる普通の高校生」と言えそうだ。

 まあ頑張れ、君の臨む世界はそこにある。ハーレムを築くなり俺TUEEEをするなりしてくれ。生涯この世界を存分に味わっていてくれ。


 一息吐いてファルコンに声を掛ける。


「ファルコン、済まないが一人だけ麻痺を解除してくれないか。最後に来た奴……は喋れそうに無いか。そいつ以外で適当に頼む」

「ああ、ジーエム。了解だ」


 そして倒れていた兵士の一人が立ち上がる。昨日の兵士同様その身を恐怖で震わしているようだ。


「朝食を用意してこい。もちろんお前が一人で持って来るんだ。馬鹿な事を考えなければ俺達は何もしない。分かっているな?」


 その兵士は怯えたように首を縦に振る。辺りを見廻しながら。

 そしてゆっくりと大広間を去っていく。なぜか股間を気にしているようにも感じるのだが。


 しばらくして送り出した兵士が大きな鍋を抱えて戻ってくる。いや鍋と言うより寸胴だな。あれなら倒しても全部が零れたりしないだろう。


「その寸胴を下ろして少し離れろ。ファルコンまた奴を麻痺させてくれないか」

「あん? ああ、分かった」


 ファルコンが首を捻りながらも食事を運んで来た兵士を麻痺させている。

 横ではウォータスがうんうんと肯いている。彼には俺の指示の意味が分かっているようだ。

 俺が倒れている兵士の盾を一つ拾い上げると、ウォータスも運ばれて来た寸胴の傍で待っている。

 そして俺が盾を裏返して鍋のようにすると、そこにウォータスが静かに寸胴の中身を注いでいった。異物があればすぐに分かるように。


 ウォータスも気付いているようだ。

 鍋の中に武具やら通信道具やらが入れられているかもしれない事に。

 食事を運んで来た兵士が何らかの伝言をされている可能性と、それを伝えさせないように即座に麻痺させた事に。


 さすがに武具は入ってなかったが、金属製のカプセルが見付かった。

 開けてみると伝言が書かれた紙が入っている。暗号のようだ。

 だけど残念だったな。俺達は言語理解の技能を持っているんだ。誰かに理解出来る言語なら「どんな言語でも」分かるんだよ。


「ファルコン、ウォータス。こいつを見てくれ」

「やっぱ通信文が隠されていたか。昼飯を運ぶタイミングで突入すると。なら残念ながらこいつ等は昼飯抜きだな」

「……ジーエムもウォータスも良くそこまで考えられるな」


 ファルコンの呆れたような声が聞こえてくる。

 何を言っている? 常識だろ? 内部の人質に伝言するなんて。

 俺が不思議そうな顔をしたのに気付いたのだろう。ウォータスがやれやれと言った感じで俺に話し掛ける。


「いやいや、ジーエム。それを常識だと思うのは俺達のようなオタクと言うか、分かってる奴だけだと思うぞ」

「……そうだな、ウォータス。普通なら考えないか」


 やはり俺はおかしいのだろうな。いやウォータスもか。

 こういったタイミングで内部に連絡を寄越すのが当然だと、誰もが知っていると思っていたよ。普通の者はそんな事考えないよな。


 盾をひっくり返した鍋を王族達の傍に運んでいく。


「朝食だ。たぶん毒は入っていないだろうが誰かが毒見をした方が良いだろうな。まあ、怖いなら今朝も飯抜きになるが仕方ないだろう」


 それだけ言って俺達はアイテムボックスから取り出した食事を取る。

 もちろんアイテムボックスに格納している食事をこいつ等に分け与えるつもりなどない。拉致監禁犯の身内がどうなろうと知った事ではないしな。


 そういえばアイツ等が言っていたな。

 身内が犯罪を起こしそうならその前に対処すると。

 例え相手が親兄弟や我が子であっても植物人間状態にするか四肢を潰すかして物理的に動けなくすると。

 それも俺がアイツ等は歪んでると感じた一因だ。

 現代日本では連座制なんて取ってないだろう。なのに全員が真顔でそう言うんだから。そして全員それが出来る能力を持っていて本当にやりそうなんだから。

 ……俺も還ったらアイツ等と同じ考えになりそうだけどな。


 王族達は恐れるようにその鍋を見詰めている。

 昨日の時点で俺達が自分達の食事を用意している事は分かっているだろう。王宮が用意した食事が自分達のための物だとも分かっている筈だ。

 それでも昨日の王母、王太后が亡くなった事を覚えているのだろう。王族の誰一人として手を出そうとはしなかった。

 王族用の食事だとしても安心出来ないと思っているに違いない。そう、王宮内に王族を亡き者にしようと考えている者がいるのかもしれないと。

 俺達が還った後の、疑心暗鬼に陥った王宮を見られないのが残念だな。

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