初対面の結末
あの初対面から1週間が経ちました。
「ロイ様、あの後どうしたのかしら」
私はあの時のロイ様の様子を思い出す。
実はあの後
「私の天使大丈夫かい!!」
と騒ぎを聞きつけた両親がやってきたのだ。
いや、本当にどこから駆けつけた?
カップを落としてからあまり経ってないですよ、お父様?
「平気ですわ。 手がすべってカップを落としてしまったのですが、このメイドさんがすぐに対応してくれましたから」
近くに控えていたメイドをさしたがお父様は一瞬そちらに視線を寄越すだけですぐさま私の方に視線を戻した。
「本当かい?」
「本当です」
ここで念押しを強めにしておく。
じゃないと、お父様きっとロイ様につめよるわ。
大人気なく。
でも、本当にここのメイドは対応が早かったのだ。
カップが落ちた瞬間すぐさま駆け寄り、拭いてシミ抜きをしてくれた。
しかも、紅茶がこぼれたところをすぐに冷んやりと濡れたタオルで冷やしてくれていた。 まぁ、紅茶はもう冷めていたのだが。
しかし、慣れた手つきだったわ。
それよりも気になるのはロイ様だ。
様子がおかしかったからね。
メイドさんが私のところでシミ抜きをしている時、 少し離れた位置で手を出したり、引っ込めたりしてたしね。
私はこっそりとロイ様を盗み見る。
ちょっとお父様、邪魔よ。
ん?
あれは……ロイ様のお父様かしら? と何か話している? いや、ロイ様の顔が見えないから話しているかわからないけど……。
だけど、ロイ様は手袋をつけた手でズボンをギュッと握っているのが見えた。
ロイ様……もしかして怒られている?
「私の天使、今日は帰ろう」
頭上からお父様に話かけられた。
ロイ様からお父様の方に意識を戻す。
「えっでも……」
「ドレスも汚れてしまったからね」
「そうね、今日は帰りましょう。 フェルちゃん」
お母様までお父様の意見に賛同する。
「だけど……」
もう一度ロイ様の方を盗み見るが……。
ロイ様は……あれっ? いない。 どこに行ったの?
周りを見渡すが、どこにもロイ様の姿はなかった。
一瞬気をとられているうちにロイ様はいなくなっていたのだ。
そして、この後私たちは家に帰ったのだが、帰る間際にロイ様のお父様に声をかけられた。
「フェルーナ嬢、すまない私の愚息があなたのドレスを汚してしまった。 嫌かもしれないがまた、愚息と話してもらえると嬉しい」
6歳の小娘に頭を下げたのだ。
下げちゃダメだよ。 あなたウェブル侯爵でしょ!
しかし、ロイ様のお父様イケメン! 漂う色香サイコーです! 素晴らしいダンディーなおじさま!!
って違う!
「はい、もちろんですわ。 それと、カップを落としたのはわたくしですので、ロイ様を怒らないでくださいね」
よし、これでロイ様は怒られないよね!
「ああ、わかったよ。 フェルーナ嬢ありがとう」
そう言った侯爵は目尻を下げて優しく微笑んだ。
笑顔もらいました! 将来、ロイ様も笑ったらあんな風になるのかな。 まだ、顔をみてないけど。
ということがあったのだ。
「ロイ様、怒られてないといいけど。 それにしても、ロイ様は綺麗好きなのかしら……紅茶を洗う人なんて見たことがないわ」
そう、この世界に転生してから紅茶をあんな風にしている人初めて見たのだ。 いや、前世でもきっと見たことがないと思う。
「でも、もしかしたらあれが上流階級の飲み方! ってそんなことがあるはずないわ」
そう、そんなことあるはずないのに何言ってるの私。
「しかも、結局ロイ様に仮面のことを聞かなかったわ」
仮面が一番気になったはずなのに何故仮面をしているのか結局聞けなかったのだ。
「あれも綺麗好きの一環? それとも顔に傷があるのかしら……傷……きず? ……傷!!」
攻略対象者に顔に傷がついている人がいたわ!
もしかしたらロイ様は攻略対象者なのかしら?
いや、ないわ。
名前が違うし、髪の色も違うわ。
ロイ様はロイ・ウェブル。 傷の彼の名前はジークだったわ。 髪も赤かったし。
そもそもの話、攻略対象者にロイ・ウェブルはいない。
まあ、私モブだからね。 モブの婚約者はモブだよね……。
でも、あの仮面目立つよね…………。
乙女ゲームの攻略対象ぽいよね…………。
「…………ん?」
彼、モブだよね。
「めっちゃ目立つ!! あの仮面!!」
このまま仮面つけたまま成長して、学園に通いだしたら攻略対象者より目立つよね!
えっ、モブだよ私たち。 目立っちゃダメだよね。
「まあ、まだ何年もあるし大丈夫だよね! うん、大人になったらロイさまも外すよね。 さすがにね! うん」
無理やり明るい声を出して自分に言い聞かせる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、だい……
その時、コンコンと部屋がノックされ、お兄様が入ってきた。
「フェル、ちょっといいかい?」
「あっはい。 おにいさま」
とりあえず、一回仮面のことを忘れてすぐさまお兄様に駆け寄った。
「どうしたんですか?」
「ちょっとね」
何だろう?
「ウェブル家からお茶会の誘いだよ」
「えっ?」
あの日から1週間経った今、お茶会に誘われたようです。