紅茶は洗わない方がいい
お手洗いから戻ると……まぁ、さっきと変わってないよね。
ん? いや、ロイ様の紅茶が減ってる!!
「見逃した……」
「なにが」
声に出てしまっていたのか……。
「えっええと」
正直に言ってしまってもいいのかな?
ロイ様の顔を伺うが……分からん!
「ロイ様が……洗うと言っていたのが気になっておりまして……」
「そう」
えっ、それだけ。 もっと何かあるよね。
あっロイ様、もう動かないし、話さない。
「ロイ様、あの」
「…………」
「ロイ様」
「…………」
「ロイ様」
「……なに?」
また、若干声が不機嫌……。 それはそれでかわいい萌える…………って違う!
「洗うところみたいのですが?」
ついでに飲んでいる姿も……と言うのは黙っとこう。
「…………なんで」
「なんでって気になるからですわ!!」
あっしまった。 ロイ様に指、指しちゃった。
「…………そう」
あれっ?
ロイ様はそれだけ言うと立ち上がり、手袋がついた右手で紅茶の入ったカップを持ち上げてカップを傾けた。
「ロイ様!!」
令嬢らしからぬ大きな声が出る。
溢れるっと思った瞬間、ロイ様は手袋がついた左手で小さな水の球をだした。
そして、カップから溢れでる紅茶はその水の球に吸い込まれていく。
「まじか!!」
驚きすぎて令嬢の口調を忘れてしまった。
目の前の彼は魔法を使っているのだ。
水の球が紅茶の色をしている。
「…………」
ロイ様は慣れた手つきで水の中で混ざっている紅茶をどうやっているかわからないが、紅茶だけカップに戻していく。
「すごい」
あれっ? ロイ様よ。 今、少し驚いた?
顔は見えないけど、身体が少しビクってなったよね?
「……別に」
プイッと私から顔を背ける。
私は気にせずそのまま話しかける。
「それっ! 魔法ですわよね?」
「……そうだよ」
「すごいですわね!! わたくし、まだ魔法をあそこまで扱えませんわ」
そうなのだ。 私も一応少しだけ使えるがほとんど使えないのと一緒だ。
今、母に習いながら一生懸命練習中なのだ。
だから、私と同い年のロイ様があそこまで使えるのにとても興奮している。
「すごいわ! ロイ様!」
「……別に」
「本当にすごいことですのよ!」
「…………おおげさ」
あら?
ロイ様、そう言ってますが顔は隠れて見えませんが耳が少し赤いのが見えてますよ。
「ふふ」
「……なに」
「いいえ、ロイ様はすごいなぁと思っただけですわ」
「…………」
何か言うかなって思ったがロイ様はなにも言わず椅子に座りなおした。
私もさっきと同じ場所に座り直す。
ロイ様、紅茶飲まないのかな?
その仮面外すの? それとも、口元が開くの?
ドキドキしながらロイ様を見るが彼は一向に紅茶を飲まない。
「ロイ様。 せっかく洗ったのに飲まないのですか?」
不思議に思ってというより、早く飲んで欲しいので聞いて見ると、意外な言葉が返ってきた。
「…………紅茶嫌いなんだ」
「はい?」
「…………味が薄くて」
うん? 薄くて……ってそりぁ、薄くなるよね。
洗えば……。
「じゃあ、洗わないで飲んでみたらいかがですか? とても、おいしいですわよ」
私は自分のカップを持ち上げて口に運ぼうとする。
しかし…………。
「汚い!!」
口に運ぶ前にバシッとそれはもう思いっきりカップを持っていた手を叩かれて持っていたカップを手から離してしまった。
そして、紅茶の入ったカップは落ちた。 そう、私のドレスの上に。
ロイ様、大きな声を出せたのね。
この時の私はカップを落としたことよりも、彼の声に驚いた。
今まで小さな声だったのに、あんな大きな声を出すものだから。