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ヴァイスルート

 大きな木の下で男女が向かいあって立っている。

 今は彼らの表情は見えない。

 そして、男の口が開いた。


「私は……」


 二人の間に風が吹き荒れ、花弁が一気に舞い上がる。


 この光景は()()シーンだった。

 男の方はヴァイスで女の方はヒロインだ。

 場所は学園にある大きな木の下。


 どうして忘れていたのだろうか?

 これはヴァイスの真相に迫ったシーンだ。


「何? ヴァイスさん? 何て言ったの?」


 ヒロインがヴァイスに尋ねる。


 次の光景はヴァイスの顔のアップだ。

 このシーンはスチルが2枚あった。


「――妹を()()()にした」


 ヴァイスはどこを見ているかわからない虚ろな目から一筋の涙を流し、こちらを()()()()そう言った。



「……ル……ェル……フェル!」


「っ!!」


「大丈夫?」


 ロイ様が首を傾げながらこちらを覗きこんでいた。


「あっ…………」


 ロイ様の手袋がついた手が目元に近づい来て、そっと拭ってくれた。


「えつ……?」


「……泣いてる」


 気づかなかった。

 手を目元辺りに持っていくと濡れている。


 私、泣いてたんだ。

 どうして……? ヴァイスが泣いてたから……?


「ちょっと、貴方どうして泣いているのよ!」


「ディアナ」


「でも、お兄様……」


 ギョッとした目でこちらを見たディアナをヴァイスが諌めている。


 ディアナを……ディアナをこの場所から遠ざけないといけない。

 でないと、ゲームと同じように彼女は死んでしまう。


 でも……どうやって?


「フェルーナ嬢どうしたの?」


「っ! ジーク様!」


 いつの間にか令嬢達のところから戻ってきたジークが隣にいた。


「泣いてるようだけど……」


「……」


 こちらに手を伸ばそうとしたジークをロイ様がはたく。


「ロイ様……」


「……」


 ジークが「えーー」とか言っているがこの際、無視しよう。


「ロイ様!」


「?」


 目から流れている涙を拭い、手を食い込むぐらいギュッと握りしめ、目をゆっくりと合わせていく。

 といってもロイ様は仮面をつけているのでどこが目かわからないのだがなんとなく目が合っていると思う。


「信じてもらえないかもしれないのですが……」


 声が震え、小さくなっていく。


「信じるよ」


 ロイ様は即答だった。


「……どうしたの?」


「いえ……」


 まさか、即答されるとは思っていなかった。


 ロイ様なら私の言ったことを必ず信じてくれるという確信がこの時私の中で生まれた。


 首をかしげる彼を見て、さっきまで早かった鼓動がゆっくりと落ち着いていく。


「ありがとうございます」


 笑顔で彼にお礼を言う。


「……べつに」


 顔を背けるロイ様どが、耳は真っ赤に染まっていた。


「で、貴方が信じてもらいたいことってなんなのよ?」


 どうやらディアナは空気読めないみたいだ。

 そして、私とロイ様の会話を聞いていたようで、仁王立ちになりながら聞いてきた。


「ディアナ」


 ヴァイスが頭を抱えている。


「ごめんね」


「いえ……」


「でも、俺も気になるかも。 さっき、泣いてたしね」


 そして、いつの間にか私の周りにはロイ様、ヴァイス、ジーク、ディアナが集まっていた。


「……ふぅ」


 一度息を吐き、深呼吸する。


 そして、ロイ様を見るとコクッとうなづいてくれた。


 大丈夫。 ロイ様は絶対に信じてくれる。


 私は覚悟を決めて口を開いた。

 今から何が起きるかを話すために。


 そして、その様子をじっと見ている存在がいるとはこの時の私は気づいていなかった。



「もうすぐ、このお茶会がめちゃくちゃに壊れます」


「どういうことよ?」


 皆、首を傾げている。

 そりゃそうだ。 ここは王宮……しかも、第一王子が出席している。

 護衛も周りに沢山いる中の、お茶会で何か危険なことが起こるはずがないのだから。

 普通ならね。


 だけど、ここは普通じゃない。

 現実ではあるが、乙女ゲームでもある。


「暴動が起こるのです」


「暴動?」


 ヴァイスの言葉にうなづく。


「はい。 このお茶会の中に賊が潜り混んでいるのです」


「賊っ!!」


 ディアナが声を上げが、急いでヴァイスがその口を塞いだ。


 周りを見渡すが、どうやら『賊』という言葉は聞かれていなかったみたいだ。

 令嬢達にはずっと睨まれてはいるが、会話までは聞かれていないようで安心した。

 近づいてこないのは多分ディアナがいるからなんだと思うけど。


「それで、フェルーナ嬢。 誰が賊なんだ?」


 ジークのその問いに首を横に振る。


 ゲームでは語られるだけだったので、どんな姿をしているかわからない。

 知っているのは男ということだけ。


「男としかわかりません」


「この中で男ってなると、護衛の騎士になってくるね。 ジーク、この中で知らない人間はいる?」


 ヴァイスの問いにジークは騎士の一人一人顔を見るが首を振る。


「いや、知っている人間だけだね」


「……そんなこと分かるの?」


 どこかトゲがあるような声のロイ様はジークにそう聞くが、彼は笑って「俺、顔を覚えるの得意なんだよ」

 と言った。


「それに、俺の父上の部下だからよく会うんだよ」


 なるほど。 ジークは騎士団長の息子だ。 しかし、子供なのにそんなに会うのかな?


「ねえ、貴方その賊がいるって話は本当なの?」


 ジーク達の会話を聞いたディアナが私を疑い始めた。


「本当です」


「でも、それらしき人がいないみたいだけど」


 確かにディアナの言う通りだ。

 不審な人物は見当たらない。


 だが……。


 手を食い込むぐらいギュッとまた握るが、その手がゆっくりと開かれ握られた。


 暖かい……。 私は握ってくれた相手を見る。


「ロイ様……」


「……僕は信じるよ」


 ディアナはその様子を見て、驚いていたがすぐに元に戻り


「でも、実際いないじゃない!」


 と叫んだ。


「ディアナ。 話が進まない」


「でも……」


「ディアナ」


 ヴァイスがもう一度名前を呼ぶと静かになった。

 さすが、ヴァイスだ。


 ジークもディアナのように少し疑っているが、話の続きが知りたいようで先を促してきた。


「それで、暴動が起こるとどうなるの?」


「それは……」


 私はディアナを見た。

 すると、ディアナは「私は何もしてないわ!」と慌てだした。


「ディアナ様は何もしていません」


「当たり前よ!」


「でも……暴動には関わり…………」


「関わってどうなるのよ?」


「…………それは……」


「はっきり言いなさいよ!」


 ディアナが私に先を促してくる。


 私は覚悟を決めて彼女に言おうとした瞬間、私の言葉は遮られた。


「何の話をしているの?」


 この国の第一王子であるレオンによって。 

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