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王子様

「あっ、そう言えば名前を名乗ってなかったね。 俺はジーク・ゴーダンだよ。 よろしくね。 お嬢さん」


 そう言いながらまた、私の右手を流れるように取ると、手を軽く持ち上げられジークの唇のあたりまで持ち上げたと思ったら軽く手の甲にキスされた。


 えっ! あなた本当に私と同じ歳ですか! 年齢詐称してない! 本当にジークなの! 全然キャラが違いすぎる‼︎


 ジークに圧倒されすぎてパニックになっていたら突然私の横からジークの手が叩かれ私は後ろに引っ張られた。


「え?」


 引っ張られたと思ったらジークにキスされた方の手が水の玉に入っていた。

 なんか、この展開デジャブを感じる。


 まあ、でもこの水の玉は慣れたものだ。

 私がこけたり、彼が汚いと思った時に使う魔法なのだ。 この一年何回もかけられた魔法だ。


「ロイ様」


「…………」


 名前を呼んだが、顔を晒された。


 あれ? ちょっと不機嫌?


「ロイ様?」


 もう一度呼ぶが反応がない。


「ロイ様?」


「………………」


「ロイ様?」


 私が再度呼ぶと、ロイ様はいつもよりもっと小さな声でぽそっと言った。


「………………………フェルは……僕の……婚約者なのに……触られすぎ」


 しかし、それは私の耳には入らずに空気になりかけていたもう一人一緒にいた彼の耳に入った。


「ロイ様? すいません、今なんて……」


「君、声可愛いね!」


 そして、私の声を遮るようにジークはロイ様に詰め寄った。


「仮面つけてるし、髪短いし、ズボンを履いているから男の子かと思って無視したけど君、女の子なの?! 声すごくかわいいね!」


 そう言って、私の時のようにロイ様の手を取ろうとしたがあのロイ様なのでその手を力一杯に叩いた。


「僕に触るな!」


「やっぱり、声かわいいね」


 ロイ様に手を叩かれたはずなのに、笑顔でそういうジーク。


 顔が見えなくても、雰囲気だけでわかる。

 ロイ様はすごくドン引きしている!


 それよりも、ジークよ。 お前はどんな育て方をされたらそうなるの? 私はジークよりもこう育てた騎士団長の方にドン引きだ。


 あんなに爽やかイケメンだったのに……ちょっと残念だよ!


 私の目の前でジリジリと後ずさるロイ様に対してニッコリと笑いながら近づいていくジーク達の鬼ごっこが始まりそうなので二人に割って入ることにした。


「ゴホンっ」


 私が軽く咳払いすると、二人は鬼ごっこをやめてこちらを見た。


「ジーク・ゴーダン様」


「どうしたの?」


 ニッコリと音がなりそうな笑顔でそう聞いてくるジーク。

 私は一瞬ロイ様に目を向け、またジークに目線を戻し言った。


「ロイ様はわたくしの婚約者ですわ!」


 言った。 言ったが、どこぞの悪役令嬢のような言い方をしてしまった。


「?」


 あれ? 伝わらなかった?

 顔を傾げてるし。

 仕方がない、恥ずかしいがもう一度言おう。


「ロイ様はわたくしの婚約者ですわ!」


「? お嬢さんと彼女が婚約者?」


「僕は男だ」


 ジークの言葉にすぐさま反応したロイ様の口調はとても強かった。


「男の子?」


 ジークはロイ様を指差しながら私を見た。

 私はコクコクと大きくうなづく。


「そうなのか……男」


 そう呟いたと思ったらロイ様の前から私の前に歩いてきた。


「ゴホン。 お嬢さん、お名前は?」


 ジークは何事もなかったかのようににっこりとそう尋ねてきた。


 いや、それでもなかったことにはできないからね。


「お嬢さん?」


「あっ。 フェルーナ・リンディですわ」


 令嬢として例え相手がどんな人物でもきちんとしなくては!

 私は綺麗なカーテシーをジークの前で披露する。


「フェルーナ・リンディ。 名前もかわいいんだね」


 またしても、私の手を取ろうとしてきたのでそれを避けようとしたら隣から引っ張られた。


「フェル」


「ロイ様!」


 私を引っ張たのはいつの間にか隣に来ていたロイ様だっだ。


「……ねえ、あっちは大丈夫なの?」


 ロイ様はジークに向かって指さして言った。

 その言葉を聞いた彼はロイ様が指さした方に顔を向ける。


「ん? あっち?」


 私もそれにつられてそちらを見たが言葉に詰まってしまった。

 そう、王子様達がいる方だ。


「これが美味しいので、あちらで一緒に召し上がりませんか?」


「いえいえ、あちらの花をみてください。 綺麗なので一緒にみにいきませんか?」


 王子様達に必死に話しかけている令嬢達の凄まじさにドン引きになる。

 周りの令息達も少し引いているじゃないか。


「ああ、レオン達。 大丈夫、大丈夫」


「えっ。 あれですよ。 本当に大丈夫ですか?」


 あれが、大丈夫なのか? ジークの目は節穴なの。


「まあ、もうすぐだからみてなよ」


 ジークが余裕があるようにそう言うから私達は黙ってそちらをみていた。

 すると…………!


「そうなんだ。 美味しいなら、君が食べたらいいよ。 私が食べるよりも君が美味しそうに食べる姿が見たいな」


「はっはい……」


 そう言われた令嬢はお菓子を食べ始めた。

 周りの令嬢もその様子をみて急いで食べ始めた。


「綺麗な花だね。 でも、その花は可愛い君こそ似合うよ。 だから、私はその花の近くにいる君がみたいな」


「はっはい……」


 そして、またそう言われた令嬢は急いで花の方に向かう。

 そしてまた周りの令嬢も同じように急いで自分が似合いそうな花の前に走っていった。


 そして、残りの他の令嬢にも同じようなことを言い始めた。

 すると、王子にたくさん群がっていた令嬢達が散らばっていき彼の周りが静かになった。

 そして、その静かになった場所で優雅に紅茶を飲む王子。


「………………」


 言葉が出なかった。

 あっという間に令嬢を静かにさせたのだ。


「ねっ! 大丈夫でしょ」


 いや、いや、いや、いや。 「ねっ! 大丈夫でしょ」じゃないと思う。

 こわっ! えっすっごい怖いんですけど!

 静かになった場所で優雅に紅茶を飲む姿はとても綺麗で絵になるが、まだ子供ですよね?

 ヴァイスと同じ歳だよね。


 攻略対象者、レオンハルト・ユーライトアルク。

 この国の()()王子様でメインヒーローだ。 彼は自身の兄である優秀な第一王子に劣等感を抱いておりどこか自信がないのだ。

 自信がない為に俺様で暴君に振舞っていたのだ。 しかし、ヒロインと出会い徐々に公平で優しい王子様らしくなっていく。

 また、一緒に様々なことを解決していくうちに自信をも取り戻していく。

 そして、最後はヒロインをお嫁さんにもらい兄の補佐をしていくって言う話だった気がする。

 そして、王子である彼には小さな頃から婚約者が存在していた。

 それが彼らにとって最大の問題だった気がする。

 婚約者の彼女は王子が好きすぎる為にヒロインが彼と仲良くするのをみて嫉妬に狂ってヒロインをいじめていく。

 俗に言う悪役令嬢だ。

 しかし、その問題を解決する為には最後の選択肢で間違えてはいけなかった気がする。

 もし、間違えたら即バッドエンドいきだった。

 王子様の攻略が一番難しかった。 私も一度失敗してバッドエンドをみたがあれはいけない。 見てはいけないものだった。

 製作者さんはどこか闇を持っていたんじゃないかと思わせたものだったからだ。


 それにしてもあの様子を見る限りじゃ自信がないように見えない。

 いや、もしかして隠しているだけなんじゃないかとも思ったがあの様子をみてたらそれは薄い。

 むしろ、お兄様と同じ匂いがする気がする。

 いや、お兄様と一緒にはしてはいけない。

 王子様のほうがタチが悪そうだ。


 それにしても、このゲーム性格が違いすぎていないだろうか?


 ヴァイスは無表情がデフォルトなのに笑顔だし……ジークは女の子が苦手だったはずなのにめっちゃ女の子好きだし、王子様も俺様暴君じゃないむしろ腹黒感を感じる。


 まあ、ヴァイスには何か理由があった筈だが…………そう思いヴァイスの方を見たら王子様のようにやっぱりと言っていいほど令嬢達に囲まれていた。


「王子様が大丈夫でもヴァイス・イーディエント様の方は助けた方が良いのでは?」


「ああ、ヴァイスも大丈夫だよ」


「本当ですか?」


「大丈夫だって。 ほら」


 そう言うと、どこからか目がつりあがったツインテールをした少女が姿を現した。


 あれは! いつぞやの悪魔……間違えた。 ヴァイスの妹のディアナだ。


 彼女は自身の兄の方に走っていく。

 そして、令嬢達の前に仁王立ちになり


「ちょっとお兄様から離れなさい!」


 と声高々に言った。


「ディアナ」


 その様子にヴァイスは苦笑いだ。


「ねっ!」


 隣でジークがにっこりとそう言うが、何が大丈夫だ。ディアナだよ? 逆に波乱を呼びそうだよ。 


 そう思ったが、案外ディアナはやるようで兄に群がる令嬢をすごい勢いで追い払っていった。


「ほら、俺が助けなくても大丈夫!」


「はあ、そうですわね」


 なんか、どっと疲れた気分だ。


「ロイ様……」


 ちらっと彼を見る。


「…………何?」


 攻略対象者は子供ながらにすごい曲者揃いだがそんな中にロイ様が入ったら彼らよりも目立ちそうだなと考えてしまった。


 彼らよりも目立つ存在ってどうなんだろう。

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