ジーク・ゴーダン
ロイ様と婚約してから1年経ちました。
この1年、様々なことがあったがそれでも穏やかに過ごしてきたと思う。
あれ以来、魔法の暴走を起こさないし、それに、私が作ったものや淹れた紅茶などは洗わないで食べたり飲んだりもできるようになったのです!
そして、何といってもこの前、私の誕生日会でプレゼントをもらいました!
ロイ様の髪色と同じ色の羽をした蝶のブローチです。
しかも、渡す時の言葉が可愛すぎました。
「……フェルはなにをつけても……可愛いけど……これ、あげる」
あの、ロイ様がですよ! 私のこと可愛いって! まあ、そこのところは声がかなり小さかったですが、クフフフフフフ。 にやける顔が止まりません。
嬉しくて舞い上がってしまったことが記憶には新しい。
だから忘れていたのだここが乙女ゲームの世界で私の婚約者が目立つ存在だということを……。
私は今、ロイ様と王宮に来ています。 なぜかと言うと、王子と歳が近い子供を集めてのお茶会です。
またの名を『王子の婚約者を探すよ!』ですが……。
私はロイ様という立派な婚約者(仮)がいますが、お家の繋がりとかがあるので歳が近い子供を集めたみたいだ。
まあ、将来の王太子様を支える人たちですものね。
この話をお父様から聞いた時は王宮に行ったことがないから行けることに喜んだが、今、それは失敗したと感じている。
王太子と言えば攻略対象者そして、私たちはモブである。
それは変わらない事実の筈が……。
「……ロイ様」
「……?」
「なぜ、わたくし達の周りには誰もいないのかしら?」
そう、なぜか私たちの周りには誰も近寄ってこない。
それどころか、遠巻きからすっごく見られてささやかれている。
まあ、理由は分かるのだが。
「みて、あれ変な物をつけているわ」
「ほんとよねー」
クスクスと笑い声が聞こえる。
私の中でロイ様が仮面をつけていることは当たり前になっていたために忘れてしまっていた。
こんなに目立つ彼を。
だけど、ロイ様の仮面をつけていることに何か言いたいならそんなコソコソせずに面と向かって言えばいいのに。
そんなことを思いながら少し不貞腐れていると……。
「……フェル、僕は気にしてない」
「ロイ様……」
その様子に気づいたのか隣に立っていたロイ様は首を振りながらそう言ったが、やっぱり不服だ。
「おい、なんだよ。 その仮面! 変なのー!」
「気持ちわりー!」
「おいおい、そんなこと言ったら泣いちゃうんじゃないか」
「泣いたって、その変な仮面で見えないだろ」
「確かに」
私たちに近づいて目の前で笑いながらそう言った男の子達3人組。
「……………………」
しかし、それを平然とした様子で無視を決め込むロイ様の様子に3人は嫌な笑みを浮かべた。
「おいおい、こいつなにも言い返さないぜ」
「きっと、俺たちが怖いんだ」
「ははは、情けないな」
こいつら。 さっきからなんなの! 私たちが何も言わないからってすきかってに言って!
「ちょっと! ロイ様は怖くて無視したんじゃなくてね、貴方達に興味がないから無視したのよ!」
私がそう言うと、男な子達は一瞬キョトンとした後に一気に苛立ちを表した。
「なんだ、こいつ!」
「生意気なこと言う奴だな!」
「こいつと一緒にいる奴ってことは、こいつも変なんだ!」
一人がそう言った後に「変だ、変だ」と周りから連鎖したように言い始めた。
ギュッと手が食い込むくらい強く握る。
「フェル」
「ロイ様……」
食い込んだ手をロイ様がゆっくりと開かせ、その手をギュッと繋いでくれた。
「おいおい、無視してんじゃ」
「何してんの?」
男の子達の中の一人がこちらに手を伸ばした瞬間にその手を違う誰かが掴んだ。
真っ赤な髪に切れ長な瞳だが、顔立ちが幼いため可愛らしい雰囲気がある。
だけど、これだけは分かる。 将来、イケメンになるだろう。
その彼が私に掴みかかろうとした手を掴んでいる。
「この手で何してんの? って聞いてるんだけど」
「お前は……」
男の子達の顔が彼を見た瞬間からだんだんと青くなってくる。
もしかしたら、この髪の赤い男の子は彼らよりも爵位が高いのかもしれない。
そう思っていると、周りから令嬢達の黄色い声が上がった。
「きゃー。 ジーク様よ」
「やっぱりかっこいいわね」
「ジーク様、ステキ……」
…………! ジークですって! ジークといえば攻略対象者じゃない!
攻略対象者、ジーク・ゴーダン。
この国の騎士団長の息子で自分も将来は騎士になることを夢見ている。
そして、ヒロインとはピュアな恋を繰り広げるのだ。
この二人の最大の問題はたしか……ジークが女の子が苦手なことと、恋人になっても主人公にも触れないことよね。……でも、小さい頃に主人公に会っていたことを思い出して触れるようになるっていうシナリオだった気がする。
それで、攻略後はヒロインを溺愛する。
ピュアで硬派で素敵! という純愛好きのファンが多数ついた攻略対象者。
そして顔に傷もあった筈だけど、今見る限りなさそうよね。
「俺たちは……っ!」
彼に手を掴まれている男の子の一人がロイ様を見て、青白くなった顔がニヤっと口元に弧を描きながら言った。
「そう、そいつが変な仮面をつけていたから注意していただけです」
「仮面?」
彼がロイ様を確認するが、相手の手は掴んだままだ。
「仮面だな」
そして、その言葉を皮切りに残りの二人も彼の登場で声を出さずに顔を青白くしていたが言い訳のごとく喋り始めた。
「そうです。 王子のお茶会に変な仮面の奴は出ていった方がいいのです」
「それなのに、そこの彼女は一緒にいて注意するどころか私たちの方に文句をつけてきたのです」
「ちが……」
そして、私の声を遮るように私たちを囲んでいる周りの令嬢や令息の中の一人、ロイ様を見て笑っていた令嬢がその声に賛同した。
「彼らがいっているのが正しいですわ」と。
まるで、私たちが悪いかのように。
彼も彼らを信じて私たちを嘲笑うのかしら。
「だから?」
「え……」
「だーかーらー。 それがどうしたんだ? 俺が聞きたいのは彼女に手を上げようとした理由だよ」
そう言った彼は掴んでいた手を思いっきり離した。
急に強く掴んでいた手を離したので掴まれていた男の子はその場で尻もちをついた。
「わっ!」
「別に理由なんて興味がないけど、女の子に手を上げちゃいけないよ」
えっ! ジークって女の子苦手じゃないの? あっもしかして騎士道の風上にも置けないってことかしら。
「俺の父上がよく言っているよ。 女性はこの世界の宝だから一番優しくするものだと」
ん? 少し可笑しくないか?
しかし、私がそう思っても周りの人令嬢達から黄色い声があがる。
「なんて優しいのかしら」
「さすが、将来騎士になる方は違うわ」
えっ! 私がおかしいの?
「で、どうして?」
「〜〜〜〜っ」
男の子達はその問いかけに何も言わない。
それどころか、ジークを見ながら少し涙目だ。
まあ、そうなるよね。
相手は騎士団長の息子だし。 もう、ロイ様を理由にはできないしね。 ロイ様が悪いわけじゃないけど。
「はあ、とりあえず彼女達に謝りなよ」
何も言わない男の子達にしびれを切らしたのかジークはそう言った。
その言葉で男の子達は渋々私たちに謝ったが、顔は睨んだままだった。
そして、すぐさま彼らは私たちから離れていった。
周りの私たちを批判した奴らも離れていく。
残ったのは私達とジークとジークを好きな令嬢達。
彼女達は私達から離れているがこちらをヘビのごとくジッと見ている。
怖い……。
「大丈夫?」
私の手を流れるようにとり、にっこりと効果音が付きそうな笑顔でそういったのはジークだ。
そのおかげで、ロイ様と手を離されてしまった。
まあ、いいんだけどね。 少し寂しいだけで。
「ええ、大丈夫ですわ。 ありがとうございます」
とりあえず、助かったのも事実なのでこちらも笑顔でお礼を述べる。
しかし、手を離してくれない。
そのおかげで、令嬢達からすごく睨まれている。
さっきとは別の意味で。
「あの〜」
「あっごめんね。 かわいい女の子だったからつい」
そう言って、私から手を離さないジーク。
えっ! この人、本当にジーク・ゴーダン? 女の子触れないはずじゃないのか?
しかも、まだ子供なのにその言葉を言えるってどんな育て方をしたらこうなるの騎士団長様よ!
そして、さすが攻略対象者だけあって、本当に美少年!
美少年にそう言われて手を繋がれたら私でも少しドキドキして顔に熱が集まってくる。
「……………………触りすぎ」
しかし、その手をロイ様が私から引き離した。
「ロイ様!」
「?」
ジークがロイ様を見る。
「あんた……」
しかし、ジークがロイ様に何かを言おうとしたが、かき消された。
「きゃー、殿下達が来たわー」
「きゃーレオンハルト様ー」
周りの令嬢達の黄色い声が響き渡ったからだ。
そして、それをもかき消すように涼やかな声がその場に響き渡った。
「待たせてごめんね」
その言葉で一瞬にして空気が変わったのがわかった。
そう、彼らが姿を現したのだ。
攻略対象者であるこの国の王子で、このお茶会の主役。 サラサラな王様譲りの金髪に琥珀色の瞳に鼻筋が通った綺麗な天使と見間違えるくらいの美少年レオンハルト・ユーライトアルクと宰相の息子。 ヴァイス・イーディエントだ。
この二人の登場により、周りの令嬢は目がハートだ。
そして、彼らの婚約者になりたい彼女達の凄まじさといったらすごい。
お茶会の席は取り合いだし、二人に一生懸命話しかけている。
そして、その様子を私、ロイ様、ジークで見ている。
てっきり、ジークもあの二人のところに行くのかと思ったが、彼女達の凄まじさに「俺はここにいるよ」とにっこり笑いながら少し顔を引きつらせていた。




