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お兄様と波乱のお茶会終結

 ガサっと音がした。


 彼らは一斉に音がした方を振り返った。

 フェルが戻って来たと思ったからだ。


「ランディ」


 しかし、そこに立っていたのは別の人物だった。


「お父様!」


「ハーデン」


 ランドールは何故、ここに父がいるのかわからない。


「何故ここにいるのですか? 今日はお母様と出かけている筈では?」


「ああ、出かけていたが用事を思い出して私だけ一度戻ってきたんだ。 そしたら、庭でランディとスイージェスト。 それにロイくんまで何やら話し込んでいて不思議に思ったんだよ。 私の天使はいないみたいだが……」


「そうですか。 フェルは今、調理室に行っています。 それと、お父様は()()()()話を聞いていたんですか?」


 この父はどこか腹黒いところがあるため、きっと話を聞いていながら出るタイミングを見計らっていた筈だとランドールは考えていた。


 それに、父は彼の……ロイの頰のアレについても知っていた筈で何故、自分には黙っていたのかという苛立ちもあった。


「どこまでとは? 私は今来たんだぞ?」


 まだ惚けようとしている姿に苛立ちを隠せなくなったランドールは直接父に聞く事にした。

 スイージェストは止めたが、自分にはそれを黙っていることができないし、何故黙らなければいけないのかわからない。 大事な妹のことなので尚更だ。


「お父様。 正直に答えてください。 最初から話しを聞いていた筈ですよね? なら、何故フェルの婚約者にしたのですか? お父様なら危険なことがわかりますよね?」


「ふぅ〜」


 やれやれと言うようにため息を吐き、そしてこちらに真剣な眼差しを向けた。


「仕方がないな。 ランディ、私も婚約については未だに早いと納得はしていない。 だが、この婚約は……お義母様……お祖母様が決めたことだ。 私には解消できない。 それにロイくんは」


 ハーデンはそう言って一度ロイくんをちらりと見るがそれも一瞬だった。


「婚約したいために魔法を習い、今日紅茶も飲んだ。 そして、何より一緒にいる私の天使が笑っていたんだ。 さすが!私の天使だ。 笑うと一層輝いて光っている! 絵姿に残したいぐらいだ! 見ただろうスイージェスト! 私の天使は可愛いんだ! 国一番、いや、世界一、可愛い!」


 そう言ったハーデンは少し興奮しながら、あれが可愛いとかやっぱり天使だとか語っている。


「落ち着けハーデン」


 いつも派手で目立っているスイージェストだが、親友のその様子に若干引いている。


「お父様!!」


「ん? ああ、……ゴホンすまんな。 話しがそれた。 まあ、なんだ婚約(仮)ぐらいは認めるってことだ。 あくまでも(仮)!だかな!」


(仮)だと言われたが少しは認めていてくれたようで嬉しいと思ったロイは小さく誰にも見られないように手袋がついた手でガッツポーズをした。


 しかし、ロイの頰にある模様は消える訳ではない。


「それに彼の……アレに関してと魔法についてはスイージェストに一任している」


「ああ、私が任されている」


「任されたって……魔法の使い方だけで、結局は解決しないじゃないですか! 私は認めません!」


 いつも冷静なランドールだが、この時ばかりは大声をあげる。

 その言葉で顔を下に向けたロイは手袋が右手で仮面がついた顔を触った。


「ロイ、それにランドール」


 名前を呼ばれた二人はスイージェストの方に顔を向ける。


「誰が解けないと言った! 私は希代の魔術師だぞ!」


「難しいと言っていたでしょう?」


「難しいとは言ったが解けないとは一言も言ってはいない! ただ、時間がかかるんだ! だが、私はロイのそれを解く予定だ! だから、安心して私の後を継ぎ次代の魔術師になるんだ!」


 二人して目が点になる。

 ロイの方に至っては自分が魔術師になるなんて初めて聞いたのだから。


「はあ〜」


 スイージェストの隣でため息をつくハーデンはランディの方に顔を向けて言った。


「ランディ。 心配なのはわかるが、この事は天使には黙っていてほしい。 あの子のことだ、きっとロイくんのために危険を犯すかもしれない。 それだけは避けたいんだ。 それに……私の天使が笑っている。 その笑顔を取り上げたくないんだ。 この事はここだけの秘密にしてほしい。 もちろんお母様にも言ってはいけない。 いらぬ心配をかけたくないんだ。 彼女もきっと危険を犯すだろう。 そういう人だからね。 私は家族を危険に晒したくない。 話さなかった私も悪いがランディ。 頼む」


 頭を息子に下げる父を見て、黙っていたのは家族の事を思った結果だったのだ。


 その様子を見て自分が話す事はフェルの危険につながることだということがわかったランドールはうなずいた。


「わかりました。 ……この事は秘密にしておきます」


「ありがとう」


「はっはっは。 一件落着だな!」


 そうスイージェストが言ったところでまたガサガサと屋敷の方から歩いてくる音が聞こえた。



「ロイさま! おにいさま! お待たせしました!」


 そこにはお菓子を両手で一生懸命に持ってきたフェルと、その様子を見ながら彼女の後ろでオロオロするメイドのマリーだった。


「あれ? おとうさまにスイージェストさま?」


 不思議そうに首をかしげる彼女にランドールは近づく。


「ありがとう。 ねえ、フェル?」


「なんですか?」


「さっきの質問だけど……」


「さっきの?」


 一瞬なんのことかわからなかったけど、お茶会のことだとすぐにわかった。


 お兄様は目の前でしゃがみこみ目線を私に合わせながらもう一度聞いた。


「彼と一緒では食事を普通にできないし、共感を共にすることができないかもしれないけどいいのかい?」


 本当は一緒に美味しいとか共感したりとかできたらいいなというのが本音だ。

 でも……。


「はい! だって、それがロイ様だもの! わたくしは一緒にいられるだけで楽しいですわ!」


 そう言ってニッコリと笑った。


 一瞬目が丸くなるお兄様だが、そのあとはいつものように私に優しく微笑んだお兄様だった。


「そう……。 なら、僕の負けだね」


 お兄様は立ち上がり、ロイ様の方に向き言った。


「君とフェルの婚約(仮)を認めるよ」


 その言葉を聞いた私はお菓子をメイドに渡し、勢いよくお兄様に抱きついた。


「ありがとうございます!」


「はは! でも、ロイくんが魔法の暴走を起こしたらいつでも破棄にする予定だからね。 お父様が無理でも僕が何をしても解消するから」


 と言ったお兄様の声に背筋が冷やっとしたが取り敢えず認めてくれてよかった。


「!」


 こちらを見つめているロイ様を見つけたので私はお兄様の元を離れ、ロイ様の方に向かって走った。


「ロイ様!!」


「!」


 そして、勢いよく、手袋がついた手を両手で握った。


「やりましたね!」


「………………うん」


「お兄様に認めてもらいました!」


「………………うん」


「紅茶も飲めました!」


「………………うん」


「ふふっ。 ふふふふふふ。 えへへへへ」


 嬉しすぎて、顔がにやけてくる。 変な笑い方になってきた。


「天使、可愛い」


 お父様はどんな私でも可愛いようだ。


「…………ははっ」


 目の前で私のではない笑い溢れた声が聞こえた。


「ははは」


 小さくだが、ロイ様が笑っている。

 他の人には聞こえない、小さな笑い声だが、その声を聞いて私はもっと嬉しくなった。


 本当によかった。






「なあ、スイージェスト」


「なんだい?」


「私の天使がお前の名前を呼んでいた気がしたのだが気のせいか? 私は会わせた記憶がないのだが?」


「気のせいではないよ。 この前、会ったんだ」


「なんだと! いつ? どこで? 私はお前とは会わせたくなかったんだぞ!」


「はははははは! 秘密だ!」


 そう言ったスイージェストはパチンと指を鳴らした瞬間何かに包まれて消えた。


「スイージェストーーーー!」


 この夜、私はお父様からスイージェスト様とどこで会って何を話したかしつこく聞かれた。

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