似ている?似ていない?
とうとう当日がやってきた。
「ロイ様、頑張りましょうね!」
「…………がんばる」
「はい! この1週間いっぱい練習しましたもの大丈夫ですわ!!」
「そうなんだ。 それは楽しみだね」
ロイ様よりも意気込む私の前に笑顔のお兄様がやってきた。
来たなラスボス!
「はい! 楽しみに待っていてください」
わたくしたちはお兄様にギャフンと言わせますわよ!
「ふふっ。 じゃあ、早速始めようか」
そう言ったお兄様は紅茶を淹れる準備を始めた。
私たちは庭にあるテーブルのお菓子が上に置かれている席に座った。
「これはわたくしが好きな焼き菓子!」
置かれていたお菓子は私が好きなものだったので目が輝く。
「……フェルはこれが好きなの?」
これっと焼き菓子を指差すロイ様に私は縦に大きくうなづき返し椅子から立ち上がった。
「そうですわ! 大好きなんです! しっとりとした甘さが絶妙で紅茶によく合うんです‼︎ 一度食べればやみつきですわよ‼︎」
「…………そうなんだ」
椅子から立ち上がり力説する私に、さぞびっくりしたであろうロイ様は若干引き気味だった。
思わず、ロイ様にも詰め寄ってしまったのもいけなかったと思うが。
「フェルはこの焼き菓子が大好きだからね」
優しい目を私に向けながらそう言ったお兄様の手には紅茶の入ったカップを持っていた。
始まるのだ。
「さて、準備ができたから、そろそろ楽しいお茶会を始めようか」
「……はい」
ロイ様の前にカップを置いたお兄様は私たちの目の前に座った。
テーブルに肘を付けながらこちらをじっと見つめるお兄様に声が少し震えたロイ様は仮面越しで見つめ返していた。
「さあ、どうぞ」
その言葉でカップを手に取るロイ様の手は少し震えていた。
「…………いただきます」
ロイ様なら、きっと大丈夫なはず……。
2日前。
「…………秘策って?」
「ふふふふふ! よくぞ聞いてくれました!」
私のこの言葉に若干呆れた様子を見せるロイ様だが、秘策が何か気になるようで早く話せと促される。
「それはですね…………」
私は小声でロイ様に説明した。
「……は?」
ロイ様は驚いて声が出ないみたいだ。
「フェルは馬鹿なの」
うっ! ロイ様に初めて馬鹿って言われた……。
しかも、驚いて声が出ないんじゃなくて呆れて声が出なかったみたいだ。
「馬鹿じゃないですよ! すごくいい考えだと思ったのです!」
「ハアー」
えー! 初めてロイ様にため息をつかれました。
何がいけないんですか! ロイ様よ。
「でも、やってみないとわからないじゃないですか! なので、明日から試してみましょう」
「…………わかった」
そして、次の日。
私はいつもと違う格好をしてロイ様の前に現れた。
服はお兄様の小さい時に着ていた服を借りた。 初めは何に使うか不審がっていたお兄様だが、私が着たいと強く言うと仕方ないなぁと言いながら用意してくれた。
なので、今の私は髪は後ろで一つに結び、上はシャツに下はズボンのラフな男の子のような格好だ。
「ふふふ。 どうですか? ロイ様」
「…………まあ、フェルだよね」
というような感想を言うロイ様。
もっと違う感想が欲しかったよ。
「えー。 お兄様には見えませんか?」
その問いに対して首を縦に振るロイ様。
「そんな! わたくし、おにいさまと似ていると思っていたのですが……ほら、特に目とかよく似ていると言われます。 …………まあ、おにいさまは美少年なので、普通の私とは似てないかもしれないですけど……」
最後はだんだんと声が小さくなっていく。
攻略対象者の美少年なお兄様にモブの私が勝てる筈ないじゃないですか!
「…………確かに目は似てるけど、フェルは女の子でしょう。 お兄さんは男の人なんだから違うよ」
「……え?」
「?」
何? もしかして、ロイ様は私が女の子だからお兄様とは似てないってこと?
「あの、ロイ様?」
「……なに?」
「わたくしは女の子だからお兄様のようにはなれないってことですか?」
「……そうだけど」
なにを当たり前のことを聞いているの? と言われているように感じる。
「なんだ。 てっきり、おにいさまは美少年だけどわたくしは平凡だからおにいさまには見えないと言われたのかと思いましたわ 」
「? フェルは可愛いよ」
「え?」
「! なんでもない」
ロイ様は勢いよく私から顔をそらす。
今、可愛いと聞こえた気がしたのですが!
そんな、でも、えっえっ。 まあ、でもあの、ロイ様ですからね……。
私の幻聴かもしれない……。
「……それよりも、フェル。 始めなくてもいいの?」
顔を私からそらしていたロイ様はそらすのをやめて、話を変えるように言った。
「はっ! そうでしたわ」
いけない、いけない。
私たちは練習しないといけないんだから。
「では、ロイ様。 今からわたくしは紅茶を淹れますので、わたくしをおにいさまだと思って飲んでくださいませ」
「…………わかった」
私とお兄様は血が繋がった兄妹なので自分で少しは似ていると自負している。
なので、秘策というのは名付けて『思い込みだけで紅茶を飲めるようにしよう』ということだ。
内容は私がお兄様の格好をして紅茶を淹れてロイ様に飲んでもらう練習をする。
それで当日はお兄様が紅茶を淹れても、私が淹れた紅茶と思い込んでもらうということだ。
私はいい考えだと思ったのに、ロイ様は呆れていた。
でも、この案で練習してくれるみたいで、少し嬉しい。
「さあ、美味しい紅茶を淹れますわよ!」
そう、意気込んだが……。
「……渋い」
「どうして、上手く淹れれないの!」
格好はお兄様を真似できても紅茶の味は真似できませんでした。
この後、散々この格好で練習したが、私の味は変わらず、むしろ余計、渋くなった。
何故!
「……でも、だんだん癖になってくる」
そのロイ様のフォローが悲しい!
「う〜。 それで、ロイ様の方は大丈夫ですか? いけそうですか?」
私の問いに対して、首を横に振るロイ様。
「……わからない」
「そうですか……でも! あと、1日ありますわ! 明日も頑張りましょう!」
この言葉にうなづいたロイ様。
そして、私達は同じような練習を最後の1日は繰り返した。
でも、私の紅茶の味は変わらなかった。
どうして!
そして、今日当日を迎えてしまった。
今、お兄様が淹れた紅茶の入ったカップを持ったロイ様。
私は信じていますよ。 ロイ様。




