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変な人

「さあ、どうぞ!」


 紅茶の入ったカップをロイ様の前に置く。


「マリーに教わりながら初めて淹れましたけど、わたくし案外上手く淹れられたと思いますので飲んでみてください」


 最初は淹れ方が分からずオロオロしていたが、教えて貰いながら何とか淹れることができた。


「………………」


 何も言わずカップをじっと見つめるロイ様。


 本当に飲めるかしら? 今まで飲めなかったロイ様が私が淹れたからといって急に飲めるものかしら?……。


「!」


 カップを手に持ったロイ様。


「ロイ様! 頑張ってくださいませ」


「…………いただきます」


 そう言ったロイ様は口にカップを持っていく。


 何故かドキドキしてきた。

 これはどちらのドキドキなのだろうか?

 ロイ様が飲む瞬間が見えるから? それとも、ロイ様のドキドキが移ってしまったのか……。


 息を飲み、ロイ様を見守る。


「……ロイ様」


「…………………」


 ロイ様が紅茶を飲もうと仮面の口元あたりに持っていった時、空いている片方の手で仮面を少し持ち上げた。


「!」


 一瞬だけ、ロイ様の顔が見えた気がしたが、それも一瞬で、ロイ様はカップの紅茶を一口飲み込み、また仮面を戻し元のロイ様に戻った。


 今……仮面を少し外した?


 でも、今は……そんなことよりも…………


「ロイ様! 飲めましたわ! 飲めましたわよ!」


 私は嬉しくなりロイ様の元に寄り、ロイ様の手をとった。


「やりましたわね! ロイ様!」


 手をとったままブンブンと縦にふる。

 近くにいた、メイドのマリーも手を叩いて喜んでいる。


「素晴らしい! 実に素晴らしいぞ!」


 急に後ろから声がした。


「! 誰!」


 私たちは声がした方を見ると、そこに立っていたのは……真っ黒な服装なのに肩には真っ白のロングコートを羽織り、膝まで長い髪を手で払った後にこちらに大きな拍手を送っている長身の男だった。


「……ハア」


「ロイ様?」


 隣にいたロイ様がその男を見た瞬間にため息を吐いたのだ。


 もしかして知り合い?

 確かに、顔はイケメンよ。 でも……あんな変な人がロイ様と知り合いなのだろうか?


「素晴らしい! 私は感動したのだよ!」


 そう言いながら近づいてくる男にメイドは私達を後ろに隠し警戒する。


 すると、ロイ様は椅子から立ち上がりメイドの制止も振り払いその男に近づいて行く。


「ロイ様!」


 私の声が聞こえたロイ様は振り返り、一言「……大丈夫。 あれ、僕の師匠」と言った。


 師匠! あの人が? えっ?


 私が困惑している間に男に近づくロイ様。


「…………ハア、何してるんですか?」


「何って、ロイ! 君が何かを隠しているのが気になってね! こっそりついて行って隠れて見ていたら……何と! 普段魔法で洗って飲んでいた君が飲み物をそのまま飲んだじゃないか! これを喜ばずしてどうする!」


 歓喜いっぱいに叫ぶ男。


「…………ハア、ついてこないでください」


 何と、あのロイ様が頭を抱えているではないか!


「おや!」


 男がこちらに気づいた。 そして、ロイ様の横を通り過ぎ私の前までコツコツと歩いて来たと思ったら羽織っていたコートをパッと投げ捨て、次は手で長い髪を払い、そして何かを小さく呟いたと思うと、空からキラキラと光の粒が降り注いだ。


「きれい……」


「ご挨拶が遅れました。 私は希代の魔術師スイージェスト・オーディオ。 どうぞ、よろしくお願いします。 リンディ家の天使様」


 と言った後に手を取られ軽くキスされた。


 おお、何と言っていいのやら……。

 でも、これだけは言える。

 変な人だ。


「フェル」


 すると、いつの間にか横にいたロイ様に名前を呼ばれたかと思ったら次の瞬間にはスイージェストにキスされた方の手を取られロイ様の魔法でできたであろう水の玉の中にその手を入れられていた。


「ロイ様?」


「…………汚いから」


 なるほど。 と思ったが師匠に対して汚いっていいのか?


 そう思い、スイージェストをみるが……案の定


「私は汚くないぞ」


 と言ってはいたが怒ってはいないみたいだ。


 まあ、ロイ様だしね。


 で片付けてしまっていいのだろうか?


「それよりも、リンディ家の天使様はハーデンよりも奥方の方に似ているな」


 そう言ったスイージェストからは優しい目を向けられた。


「私のお父様を知っているのですか?」


「知ってるも何も親友だよ」


「そうなのですか!」


 驚きだ。 この人、お父様の親友なんだ……。


 そう思っていると横からパシャンと水が弾けた音がした。

 手を包んでいた水が弾けたのだ。

 弾けた水はその場でキラキラと輝いている。


「きれい……」


「……これで綺麗になった」


 顔は見えないがご満悦なロイ様に私は


「ロイ様の魔法はいつも綺麗にしてくれますね!」


 と彼の手袋がついた手をとって言った。


「………………………………」


 何も言ってくれないロイ様に不安になった。


 あれっ? 私何かおかしなこと言った?


 すると、ロイ様ではなくスイージェストが急に大声で笑い始めた。


「はははははははは」


 バッとスイージェストの方を向くロイ様。


「…………笑わないでください」


「いやはや面白いと思ってね。 ロイはいい人を婚約者にしたよ」


 そう言いながら、優しい目をロイ様に向けながら彼の頭を撫でるスイージェスト。

 ロイ様はすぐ様、スイージェストの手を払いのけるが気にしないで笑っている。


 一体、どういうこと? 私は困惑したままその様子を見ていた。

 それに気づいたスイージェストは私に向けてこう言った。


「君は怖くないかい? ロイの魔法」


 何を聞いてくるのかと思ったらそんなことか。


「怖くないですよ。 もしかして、暴走のことを言っているのですか? わたくしの前で一度暴走を起こしましたがそれは守るための暴走でした。 あのままではわたくし達は攫われていました。 だから、こう言ってはいけないとは思うのですが……あの暴走は結果的に良かったのです。 それに……ロイ様の魔法はさっきも言った通り、いつも綺麗にしてくれる魔法ですわ。 好きになることはあっても怖いと思ったり嫌いにはなりません」


 私の言葉に一瞬目を大きく開いたが次の瞬間にはまたしても笑い出すスイージェスト。


「はははははははははは。 さすが、ハーデンの娘だ。 私は気に入った」


 そ言ったスイージェストは私の前にひざまづき


「何か困ったことがあれば私に相談すればいい。 リンディ家の天使様。 この希代の魔術師を使え」


「え?」


 私が困惑している間に彼は立ち上がり


「では、また会おう!」


 そう言った後に彼は何かに包まれるようにして消えた。


 一体何だったのか?

 嵐のような時間だった……。


「フェル」


「……ロイ様」


「………………ありがとう」


 彼の小さな声はしっかりと私に響いた。

 そして、その言葉の後に彼が笑った気がした。

 仮面をつけているので見えないが、そういう気がしたのだ。


「……あと、あれ」


 あれとロイ様が指差したのは私が淹れた紅茶だった。


「…………渋い」


「えっ!!」


 どうやらロイ様に飲ませることには成功したが、味は失敗だったみたいだ。

 私は紅茶を淹れる練習をしようと心に誓った。


 残りあと3日。

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