笑顔のお兄様はお腹真っ黒
あれから数日後、ロイ様はお父様の紹介で魔法を教わる事になったが……
「ロイ様、魔法の先生はどんな方ですの?」
「………………………………別に普通」
「どんな練習をしているのですか?」
「………………………………別に普通」
というようにどんな様子なのか全然教えてくれない。
別に普通って……普通って何ですか!
普通なら教えてくれても良いじゃないですか!
すっごく気になるのですよ! ロイ様!
ゴホン。
まあ、それは後々教えて貰えば良いので今は置いて置いて……それよりも今は他のことの方が問題です。
最近は、魔法の練習の合間にちょくちょく遊びに来てくれるようになったロイ様。
そして、今日も同じように遊びに来てくれたのはいいですが………………………………近い。
近いのです。
何がと言われたら、ロイ様との距離が!
あの婚約騒動の後からロイ様との距離がとても近いのです。
「あの、ロイ様?」
「…………何?」
「少し、近すぎませんか?」
「…………普通だよ」
「……そうですか」
というような会話がいつも繰り返されます。
私も納得してしまうのもいけないんですが。
お母様、そんな生暖かい目でドアの隙間から覗かないでください!
そして、これも問題だがそれ以外に問題が今日はあるのだ。
「あっあの、お兄様?」
「どうしたの? フェル」
キラキラの笑顔いただきましたが、目があまり笑っていないお兄様は正直怖いです。
「いえ、なんでもありません」
「そう?」
その後、お兄様はまた紅茶を優雅に口に運んでいた。
いや、気まずい。 すごく気まずい。
ロイ様が話さないのはいつものことなのだが、お兄様も話さない……そして、私も話さないとなると気まずい!
そもそもの始まりは、お兄様が急に「今日は僕もフェルたちのお茶会に参加してもいいかな?」と聞いて来たのだ。
ロイ様と仲良くして欲しかった私はそれを二つ返事でOKしてしまったために今の状況が起きている。
もともと、お兄様はこの婚約に反対組だ。
しかし、あの婚約騒動の後から何も言わなくなったので認めてくれていたのかなぁと思っていた矢先のこれだ。
どうしよう?
私は隣に座っているロイ様をこっそり見やるが、相変わらず仮面をつけているので表情が読めない。
「フェル?」
「はい!」
紅茶を飲んでいたお兄様に突然名前を呼ばれた。
「僕はね、この婚約(仮)について反対はしてないよ」
「……えっ! そうなのですか!」
「うん。 初めは反対していたんだけどね、お父様も認めたから僕も認めないとな……って思ったんだ」
「そうだったんですか……」
「今日はそれを伝えたかったんだ」
なんだ……。 私は反対されると思っていたから拍子抜けだ。
「ただ……」
「!」
えっ! なんですか! お兄様、やっぱり何かあるんじゃないですか!
「条件があるんだ」
「条件ですか……?」
「うん」
お兄様はそれはもうキラキラな笑顔だ。 相変わらず目の奥は笑ってはいないが……。
それに、条件をだしてきたということはこちらが絶対できないと思ってだしてきたのだ。
「どんな……ですか?」
「なんだと思う?」
「もったいぶらないでください!」
「そう怒らないで、フェル。 かわいい顔が台無しだよ」
「誰がそうさせてるんですか!」
「僕だね」
分かってるんじゃない! お兄様のことは大好きだけど、今のお兄様はお腹の中が真っ黒だわ!
「…………それで条件は?」
ロイ様が小さな声でお兄様に話しかけた。
それに対してお兄様が言った言葉は
「そうだね、君が僕が淹れた紅茶を飲むことだよ」
「!」
え! そんなことでいいの!
と一瞬そんなことを思ったが……相手はあのロイ様だ。
初めて会った時も紅茶を洗って飲んだロイ様に飲むことができると聞けば、答えはNOだろう。
たとえ洗って飲めたとしてもお兄様は認めない。
きっと、お兄様は知っていたからそんな条件をだしたのだ。
「無理ならいいよ。 別に。 ただ、僕は婚約(仮)を認めないだけだから。 僕が認めなくてもお父様たちは一応認めてるからね。 だから、この条件は呑んでも呑まなくてもどちらでもいいよ」
そう言ったお兄様はこちらをじっと見つめた後にもう一度紅茶を口に運んだ。
どうしよう、どうしよう……。
ロイ様はきっと飲むことができない……。
私は一度落ち着くために紅茶を口に運んだが、それは少し冷えていた。
「さあ、どうする?」
お兄様が聞いてくる。 こちらに溢れんばかりの笑顔を向けながら。
いつもなら、きゃーイケメン! と思っていたが今日はその笑みが怖い。
「……ロイ様」
ロイ様が無理ならお兄様に私から無理だと言おうと思ったが……ロイ様を見ると、彼は手袋をした手でズボンをギュッと握っていた。
それを見た私はロイ様の手に私の手を重ねる。
「…………フェル」
私の顔をじっと見つめるロイ様。
ロイ様が何を考えているか私にはまだわからないけど、この婚約はロイ様だけじゃなくて私とロイ様の二人の問題なのだ。
なら、無理だと諦めるのではなく二人で乗り越えなければいけない。
それに、お兄様にはこの婚約を認めて欲しい。
「ロイ様、わたしくしがついておりますわ」
「………………」
その言葉にうなづいてくれたロイ様。
「で、どうするの?」
「…………やる」
「そう。 分かった」
「お兄様! 見ていてくださいませ! 必ずお兄様に認めてもらいますからね!」
「ふふ、分かったよ。 じゃあ、1週間後にまたお茶会をしよう。 その時、僕が紅茶を振る舞うよ」
私たちはその言葉に大きくうなづいた。
それを見たお兄様は席を立ち上がり
「じゃあ、1週間後楽しみにしているね」
と手を振りながらこの場を後にした。
紅茶が入ったカップを持って固まっているロイ様の横で私は冷えた紅茶をもう一度口に運んだ。
さて、どうしましょう?