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婚約? それとも……?

「…………なぜですか?」


 私より先に言葉を発したのはなんと意外なことにロイ様だった。


「ロイ様……?」


 しかし、そんなことはどうでもいいというように冷たい声で父は


「君は危うく私の天使を傷つけそうになったからだよ」


 と言った。


「…………っ」


 いや、それは違う。

 私は傷ついてはいない。

 むしろ、私を助けてくれた。

 まあ、少々……いや、かなり暴走はしていたのだけれどね。


「おとうさま! ロイ様は助けてくれましたわ!」


「私の天使……。 それでも、傷つけそうになったことには変わらない」


 そんな……。

 まだロイ様は6歳なのですよ。

 魔法の暴走を起こしても仕方がないと思うのは私だけかしら?


「しかし、おとうさま!」


「私の天使……お父様はね、もともとこの婚約には反対をしていたんだよ。 だから、今回の事件だけじゃない。 申し訳ないがロイくん、婚約は無かったことにしようと思う。 君の両親にもその旨を伝えておくよ」


「おとうさま!!」


「天使がなんと言おうと私の意見は変わらないよ」


「おとうさま!!」


「すまない。 私の天使……」


「いえ、そうではありません」


「?」


 お父様の顔にはじゃあ、なんだい? という顔をしている。


「後ろです」


「後ろ?」


 お父様が後ろを振り向いた瞬間スパーンと頰が叩かれ、次の瞬間座っていた椅子から落ちた。


「はあ、おかあさま……」


 そう、お父様の斜め後ろぐらいにお母様が立っていたのだが、お父様が話す度に黒い笑顔になっていったのだ。

 それをお父様に教えようとしたのだが遅かった。


「愛し合う若い二人を引き離すのはたとえ私の愛する人でもダメよ。 ふふふふ……」


 怖い……。

 笑っているのにお母様が怖い……。


「ねえ、ロイくん」


「…………っ!」


 ロイ様、一瞬ビクーンってなってたよ。

 そりゃあ、怖いよね。

 お父様を椅子から落とすぐらいのビンタを繰り出していたらね……。

 起き上がってこないけどお父様よ、大丈夫か?


 コツコツコツ。

 お母様がロイ様と私の目の前まで歩いてきて、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「貴方はどうしたいの? このままフェルと婚約をしていたい? それとも、破棄したいかしら? まあ、少々面倒な父親と兄がついてくるのだけれど……………………それに、私に似てうるさい子なのが難点かしら?」


 最後にボソッと呟いたの聞こえてますから!


 しかし……ロイ様は何と応えるのかしら?

 やっぱり、破棄かしら?

 そもそもの原因のピクニックに無理矢理連れて行ったり、隣でうるさくしていたしね……。

 でも、破棄したら私とロイ様は何も関係がなくなってしまうのかな?

 あれ? そう考えると少し胸のあたりがキュッと締め付けられる気がする。

 なんでだろう?


 私がそんなことを考えていると、急にロイ様と繋がれていた手がギュッと強く握られた。


「………………僕は」


「ロイ様?」


「……………婚約を」


「だめだよ!!」


 ロイ様の言葉を邪魔するかのように頰にくっきりと手の平の後を残して復活したお父様の声によって遮られた。


 お父様よ!!

 もう少し倒れていなよ!!

 ロイ様はなんて言おうとしたの!!


「おとうさま!!」


「私の天使、こればっかりは私も譲らないよ!」


「あなた。 もう一発くらいたいのかしら」


「っ! 愛する君の一発くらいもう一度受け止めるよ」


 そう言いながら顔を引きつるお父様はどうやっても引き下がらないようだ。

 お母様は拳をフルフルと震わしている。


 お母様よ、もう一発いくんですか?


「あなた…………」


 ばっとお父様に駆け寄るお母様。

 それに身構えるお父様。

 もう一発いくかなと思った瞬間、勢いよくお父様に抱きついた。


「あなた♡ 嬉しいわ♡ 私の拳まで愛してくれるなんて!」


「はははっ当たり前だよ。 私は愛する君の全てを愛すよ」


 えーーーーーーーー!

 何を言ってるんですかお母様。

 お父様もですよ!


 私は呆れてしまって声も出なかった。


 ギュ。

 手がまたもやさっきよりも強く握られた。


「ロイ様?」


 私はロイ様に向かって首をかしげる。

 すると、ロイ様はあそこでキャッキャしている私の両親をじっと見つめながら


「フェルは……」


「はい?」


「………………僕と結婚はしたくない?」


「ロイ様?」


 彼は私の両親の方をじっと見ていたのにいつの間にか私を見ていた。

 仮面をつけているのでどんな表情をしているかわからないが、なぜか泣きそうだと思った。


 私はロイ様と結婚したいかと問われたら正直わからない。

 この世界は乙女ゲームで所詮はモブな私。

 だけど、これが今私の生きている世界。

 今はまだ6歳で、これからどうなるかわからない。

 私はどうしたいのだろう。


「わたくしは」


「フェル……僕はフェルと結婚したい」


「えっ…………」


 私が何かを言う前にそれを遮るようにロイ様が言った。


「僕はずっとフェルと一緒にいたい」


 吸い込まれそうな仮面をつけた顔でじっと見つめられる。

 手はギュっと握られたままで。




 えっえっえっえーーーー!

 あのロイ様が、ロイ様が…………!

 私が近づくと後ろに下がって距離を取っていたロイ様が……。


 かあーと頰に熱が集まってくるのを感じる。

 多分、今の私の顔は真っ赤に染まっているだろう。


「えっえっ?」


「…………いや?」


「いやとかではなくて」


「…………なら、良かった」


 えーーーー。

 貴方、本当にロイ様ですか!!

 私が知っているロイ様と全然違いますよね。

 そして、あいも変わらず手が繋がれたまま。


 いや、これも不思議。

 本当に何があった?

 近づくのさえ、距離を取られていたのに。




「私の見ていないすきに……だめだよ!」


 急に、私の父の声によってこの空気が壊れた。

 お父様、空気読んでよ。


「おとうさま!」


「ああ、私の天使」


「おとうさま、わたくしは」


「僕は……フェルと結婚したいです」


 ロイ様……。


「ロイくん。 しかし、私は反対だ。 なぜかわかるかい」


 お父様の問いかけにうなづくロイ様。


「君がもし、また魔法が暴走したらその時はどうする? フェルが隣にいて今回は怪我がなかったが、次はわからない。 大怪我をおうかもしれないし、最悪死ぬかもしれない。 私はそれが心配なんだ」


「………………」


 お父様……。


「だから、私はフェルと君の婚約を破棄する」


「駄目よ。 あなた」


「おかあさま!!」


「あなたの気持ちは分かるわ。 だけど……愛する二人を引き離すのはだめ」


 お母さまが反対するとは驚きだ。

 あの時、お父様の味方になったと思ったのに。


「それに」


「それになんだい?」


「私のお母さまがそれを許すかしら?」


 その言葉を聞いたお父様は顔を一気に青くさせた。


 えっ?

 お父様がこんなになるなんてお祖母様ってどんな人なの。


「…………許してもらうよ」


「どうやって?」


「………………」


 お父様は何も言えなかった。

 それどころか額から汗が止まらなく出ている。


「おとうさま? 大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。 私の天使」


 いや、顔を青くさせながら大丈夫はないよ!


「……それより、私の天使はロイくんと婚約をしていたいかい? それとも、破棄したい?」


「えっ?」


 急にどうした?


「それは……」


 チラッとロイ様を見る。

 ロイ様は……変わらず顔がわからない。

 しかし、手は小さくギュっと握られた。


 それで、決心がついた。


「わたしは婚約をしていたいです」


「……………………………わかった」


 声ちっさ!


「でも、婚約(仮)だよ! (仮)!」


「さすがあなた♡」


 さすがじゃないよね。

 お父様、やけくそになっていたよね。


「ただし、条件がある」


「…………条件?」


「私の知り合いに魔法を習うことだ。 これが条件だ。 私の天使の横にいるんだ。 暴走してもらっては困るからな」


「はい!」


 ロイ様は今まで聞いたことのないような声で大きく返事をした。

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