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過去

 汚い、汚い、汚い、汚い、汚い。

 その汚い手で僕に触れるな。

 その汚い口で僕に話しかけるな。

 すべてが汚い。

 この空気さえも。

 汚い、汚い、汚い、汚い、汚い。



 今よりもっと小さい時からもう間違っていたのかもしれない。

 この世に生まれ落ちた時から。

 そう、ウェブル家に生まれてしまったことが間違いだった。


 僕はウェブル家の長男として生まれた。

 この時からもう父と母の間には愛がなかった。

 いや、元からなかったのだろう。

 父は違う人を愛していたみたいだが、その思いは叶わず、母と家同士の政略結婚で結ばれた。

 だけど、父はその人が忘れることができていなかった。

 それを母が知り、心を病んでしまっていたのだ。


 これは僕が生まれる前の話だ。


 そう、僕は望まれて生まれたわけではなかったのだ。

 ただの義務で生まれてしまった子だ。


 と心無い大人にも言われた。


 だけど、そんな僕を母様は愛してくれた。


 生まれてから母に会うたびに言われていたことがある。


「ロイ、ロイ。 この世はとても汚いの……。 今食べている食事だって汚いのよ。 だから洗わないと……汚れを落とすのよ」


「はい。 母様」


「ロイ、ロイ。 この世はとても汚いの……。 今触れているものはとても汚いのよ。 だから触らないように手袋をするの」


「はい。 母様」


「ロイ、ロイ。 この世はとても汚いの……。 今吸っている空気も汚いのよ。 だからね……ロイ。 貴方はこの仮面をつけるのよ」


「はい。 母様」


 母様は言っていたこの世はとても汚いと……。


 僕もそう思います。


 だけど、僕が料理を洗ったり、手袋をつけていたり、仮面をつけているとみんな変な顔をする。


 ある人はこう言った。


「なぜ、せっかく作った料理を洗う! 変な子供だ」


 また、ある人も


「なぜずっと、手袋をつけているのかしら。 子供なのに変な子」


 またまたある人は


「仮面をつけた変な子」


 僕を見た人はクスクスと笑う。

 笑うならまだしも、嫌なことを言う人もいる。


 そのことを母様に言うと


「みんな、汚いのよ……仕方ないわ。 だからね、ロイ。 汚いものには近寄らないのよ。 貴方は綺麗なのだから」


「はい。 母様」


 みんな汚いのだ。


 あれも、これも、あの人も、あの子も。

 みんな、みんな……。


 僕は汚いものにはあまり近づかなかった。


 だけど、ある日事件が起こったのだ。


 僕の仮面に触れた人がいたのだ。

 その時のことをあまり覚えていないが僕は魔法を暴走させた。


 触れた人間はなんとか生きていたが重症で、その周りにいた人も被害を多大に受けた。


 そして、この日から僕は父様にある魔法……嫌、呪いの類を顔に刻まれた。

 魔法の暴走を防ぐ役割を持つというが本当かはわからない。

 右頬に刻まれてしまった呪いの証。


「父様、あつい! ほっぺがあつい!」


 あの日から時々焼けるように熱い頰。

 それを父様にいうがそれは無視された。

 それどころか……


「ロイ! 我慢しなさい。 そこの君、ロイをあの部屋に連れて行きなさい」


「嫌だ!」


 暗い、暗い、灯一つない部屋に閉じ込められた。


 父様が言うにはなにも見えない、聞こえない場所なら汚いとは思わないだろう。

 だから、魔法の暴走は起こらないと言って、僕が頰が熱いと言うと地下室の部屋に閉じ込める。


 だけど、父様……僕は頰が熱いとき魔法を使っていない。

 使っていないのに熱いんだ。


 この時に、僕の味方は母様しかいないと思ったのに……。


「ロイ、ロイ。 …………! その顔……」


「はい。 母様」


「近寄らないで! 汚い! 私の綺麗なロイを返して!」


「母様……」


 僕が母様に触れようとすると、その手を振り払われた。


「触らないで!」


「母様……」


 僕はそっと仮面を顔につけ、部屋を出た。


 この日から僕は仮面を肌身離さずずっとつけたままだ。


 僕は汚い……。

 この頰はその証なのだ。

 父様も母様も使用人もその他の人間もみんな汚い……。

 綺麗なものはこの世にはなにもない。


 そう思っていたのに……。


 あの日から君が綺麗に見えるんだ。


 初めて出会った日、お茶会の日、僕のためとサンドイッチも作ってくれた。


 この仮面もとても気になってたはずなのに悪口を言ったり、嫌な目もむけたりしなかった。

 それどころか洗ってもいいから一緒に食べようとも言ってくれた。


 だから、あの時綺麗な君に汚い男が触ったのを見て目の前が真っ赤に染まった。

 この時はまだ、落ち着いていたが、僕にも汚い手で触った瞬間、魔法が暴走してしまった。


 次に目を覚ましたのはベッドの上だった。

 とっさに顔を触る。


 よかった……。

 仮面はついている。

 

 ホッとしてから、周りを確認する。

 そして、左手が何かを握っていた。

 それを目で確認すると、それは小さな手だった。

 そして、その手の持ち主は……フェルだった。


「うー」


「!!」


 起きたのかと思い、顔を覗きこむが寝息を立ててまだ寝ていた。


 僕は内心ホッとしていた。

 彼女にどう声をかけたらいいかわからないからだ。

 僕は魔法を暴走させ、フェルも巻き込んでしまったからだ。

 そう思った瞬間、彼女をもう一度見る。

 怪我がないか確認するためだ。


「……よかった」


 彼女に怪我はなかった。


 彼女の手をギュッと握るのが強くなった。


 そこで気づいたのだ。

 僕が彼女の手に触れていることに。


「触れる?」


 僕はもう一度彼女を見る。


 彼女は優しく笑っていた。

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