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はじめて

「ロイ様! いい加減になさいませ!」


「…………」


「あきらめも肝心ですわよ!」


「…………」


「ほら、きれいな花ですわよ」


 私は近くに咲いていた黄色の花を一つだけつみ、ロイ様の方に持って歩いて行ったが……さすが、ロイ様です。 一歩近づくと一歩私から距離をとりました。

 

 また、一歩近づくがロイ様は一歩後ろに下がる。


「…………ロイ様…………」


「…………フェル」


 ロイ様、何か不穏な気配を感じたのか小さな声で私の名前を呼んだ。


 だが、私の名前を呼んだところでもう遅いですよ。

 ロイ様!


 私は口元に弧を描きながらゆっくりとロイ様に近づき、そしてワンピースの裾を持ちあげ、、一気にロイ様にむかって走った。


「……!」


 ロイ様はそれに気づき走り出したが、私の方が早かった。


「ロイ様! つかまえ……ま……ふぎゃっ」


 しかし、ロイ様の腕を掴むまえに私は石につまづき、前のめりでこけた。


「……!」


「お嬢様!」


 メイドが血相を変えてこちらに駆け寄ってくる。


 痛い……。 おでこぶつけた……。


「お嬢様! 大丈夫ですか!」


 私はメイドさんに起こしてもらいながら立ち上がるが、自分が思っていたよりとても痛かったので目に涙がたまっていく。


「……いたい……」


 おでこがいたい、膝がいたい。 それと、心もいたい。


「お嬢様! 大変、膝から血が……。 それに額が赤くなっています」


「いたい……」


 メイドさんが慌てながら手当しようとしたら


「…………どいて」


「しかし……」


「…………いいから」


 さっきまで私から離れた位置にいたロイ様が若干無理矢理メイドを言葉でどかし目の前に立った。


 ロイ様?

 こんな近くにロイ様自らやってくるのはとてもめずらしいので驚きすぎて涙が止まった。


「フェル」


「……?」


 何だろう?


 すると、ロイ様はしゃがみこみ、手袋が着いた手を私の血が出ている膝に触れるか触れない程度の位置でかざし、魔法を使った。


 なぜ、魔法とわかったのは前に見た紅茶を洗っていた魔法に似ていたからだ。

 水の球を出し、血が出ている膝を包み洗っている。


 いや、きれいになっていくのはわかるけど……地味にしみる……。


「…………これできれいになった」


 おっ! 血が止まってる。


「ありがとうございます!」


 ロイ様は私からすぐさま顔をそらしたが、少し見える耳が赤くなっているのが見えた。


「ふふ」


「……次は額」


 ロイ様は私が笑ったのが気にくわないのか、次は額と言いながら、水の球を出した。


「でも、おでこからは血が出ていませんわ」


 そう、ぶつけて赤くなっているだけなので血が出ているわけではない。

 しかし、ロイ様は血が出ていようが、出ていないが関係ないみたいだ。


「……一度地面についたんだから汚い」


 なるほど……血が出ているのではなく、汚いということから洗ってくれているのか……。


 ん?


「ロイ様! 私の心配からではなく、汚いから洗ってくれているのですか?」


「…………そうだけど」


 なんと、ロイ様! 婚約者が心配ではないのですか! 汚いからって……。 まあ、そのおかげで膝

とかきれいになりましたけど……。


「それでも! わたくしはぶっ!」


 額にあった水の球が顔全体に覆ってきた。


「ちょっごぼっ……ロごぼっイ……」


 ちょっまじで息できない……。


 と思った瞬間水の球が弾け、太陽の陽を浴びながらキラキラと光っていた。


 きれい……。


 一瞬息をするのを忘れてその光景を見ていたが、急に鼻がツンときて息をするのを思い出すと、一気にむせた。


「けほっけほっ」


「お嬢様!」


 その様子を見ていたメイドさんがすぐさま私に駆け寄り、背中を撫でてくれる。


 だいぶ落ち着いた。


 それよりも……


「ロイ様! わたくし、殺されると思ってしまいましたよ! 地上にいて溺れるなんて初めての経験ですわ! おでこと膝の痛さより、鼻の奥がいたいですわよ! ツーンですよ、ツーン!」


 ロイ様に対して一気に巻くしたてた。

 しかし、ロイ様は……


「…………はは」


「…………?」


「……ははは」


 ん? ロイ様? 笑ってる? えっ? えっ?


 驚きすぎてメイドを見ると、メイドも同じように目を見開いて驚いていた。


 顔は見えないが肩を震わせて、小さな笑い声がこの場に響きわたる。


 私は驚きすぎて怒りを忘れてしまっていた。


「あのっロイ様?」


「……はは」


 ロイ様は何がそんなにおかしいのか笑いが止まらないみたいだ。 


「ロイ様! 何がそんなにおかしいのですか?」


「だって……あんなに必死なフェル……初めてみたから……はは」


 なるほど、ロイ様は私の必死な姿がおかしかったということか……。


 ひどいですよ! ロイ様!


「ははは」


 でも、こんなロイ様は初めてみたのでいいかと思ってしまう自分もいて、私もだんだんとおかしくなってきてしまった。


「ふふっ、あはは」


「……はは」


 私たちは声を出してしばらくの間笑った。

 出会ってから3回目で初めてロイ様の笑い声を聞けました。


 このあと、一通り笑い終わったあとに私はメイドさんの治療を受け、ロイ様はいつもの無口に戻りましたが、なんだか流れる空気は軽くなりました。


 しかし、ピクニックはこれで終わりではないですよ!


 さあ、ロイ様よ! いよいよ昼食ですよ!

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