さあ、ピクニックに行きましょう
雲ひとつなく晴れ渡った空。 清々しい空気。 周りは色とりどりの咲き誇ったきれいな花々。
「今日はピクニック日和ですわね! ねっ? ロイ様」
「…………」
「ねっ? ロイ様?」
「…………」
「ねっ? ロイ様?」
「…………」
「お嬢様……」
いや、メイドさん、そんな可哀想なものをみる目で見ないでよ。
私が可哀想になるじゃないか。
それとロイ様よ……。 返事くらいしようよ。 そんな私から離れた位置にいないで、ほらもっとこっちに来よう。 馬車から離れようよ!
ロイ様はこの場所に着いてから一歩も動かないのだ。 やっとの思い出馬車からは降りてもらえたが降りた場所から動かない。
どんなに名前を呼んでもさっきのように無視される。
そう、ロイ様はかなり不機嫌なのだ。
顔を見なくてもわかる。 態度で丸わかりだ。
あれっ? 心なしか仮面も怒っているように見えるよ……?
せっかく、ピクニックに来たのに……。
まあ、半分は私のせいなのだけど……。
そう、初めはロイ様はこのピクニックを断っていたのだ。
お母様が私のためにロイ様に出した手紙の返事をそれはもう丁寧なお返事がきた。
ピクニックの定義から、それを行なった場合のメリットとデメリット……そして、最終的には行けないとの謝罪文。
ピクニックの定義って何? それにデメリットとかある?
そんな手紙をもらった。
6歳児がそんな手紙を書くなよ……。
どんだけピクニックいやなんですか、ロイ様よ。
と思ったことを今でも思いだせる。
しかし、それで諦める令嬢もいるが最悪なことにそれで諦める私とお母様ではなかったのだ。
私とお母様は計画した。 そう
『突撃、ロイ様お宅訪問〜からのピクニック計画』
を考えたのだ。
意味はそのまんまだ。 突然、家に行ってロイ様をピクニックに連れて行くというもの。
お母様にはお兄様とお父様の足止め。 そして、私はその間にロイ様の家にむかう。
私は準備万端で家を出た。
まあ、家を出るときにお兄様とお父様の悲鳴が聞こえた気がしたが聞こえないふりをした。
お母様よ。 一体どんな足止めと言う名のイタズラを仕掛けたのですか?
まあ、そこまでは良かったのだが問題はロイ様の家に着いた後に起こった。
ロイ様の家に着いたら、まず初老の執事に出迎えられた。
「リンディ家のお嬢様。 ようこそおこしくださいました。 ロイ様とお約束でございますか?」
「いえ、ないですが。 いけませんか?」
「いえいえ、そんなことは御座いません。 ロイ様を呼んで参りますのでこちらでお待ちになってください」
約束はなかったが一応私は婚約者なので屋敷に通され、メイドによって居間に案内された。
案内された居間には紅茶の用意とお菓子が用意されていた。 まるで、私が来ることがわかっていたかのように。
まあ……そんなことはないだろう。
なんせ、私は約束なしに突然来たのだから。
しばらく待っていると居間のドアがノックされ、ロイ様が姿を現した。
相変わらずの顔には仮面、手には手袋です。 通常運転です。
「ごきげんよう。 ロイ様。 本日はお日柄もよく……」
「……どうして」
私が最後まで話し終えるまえににロイ様が声を発した。
「まあ、めずらしい」
「…………なにが?」
あら、声に出てしまっていたのか。
「ロイ様が自分から話しかけてくれたことですわ。 いつも、私から話しかけていたから」
「…………」
「ロイ様?」
なにも言わないロイ様に首をかしげる。
「…………僕は行かない」
「あら? どこにですか?」
「…………ピクニック」
「あら? なぜわかったのですか?」
そうなのだ。 私はまだロイ様にお手紙では言ったが、まあ、断られたけど。 今日はまだ一言もピクニックとは言っていない。
それどころかロイ様……二言目にお断りとはどういうことですか?
「…………なんとなく」
なんとなくって……どんだけ嫌いなのですか?
「では、話は早いですわね! 今日は天気も良いので絶好のピクニック日和ですわよ!」
ロイ様は首を横に振り
「…………行かない」
「どうしてですか!!」
「…………この前、手紙で」
「ピクニックの定義ですか?」
ロイ様はコクっと首を縦にふる。
いや、だからピクニックの定義ってなんですか?
「せっかく晴れているのですよ?」
「…………晴れの日はいつでもある」
まあ、そうなんですが……。
「今日の晴れの日は今日だけです」
ああ、ロイ様が首をかしげている。 私もなにを言っているのかわからない。
でも、ここで負けてはいけない。
「ロイ様! わたくしはロイ様とピクニックをしたいのです。 婚約者のかわいいお願いぐらい聞いてくださいませ!」
私の婚約者の一生懸命なお願いをロイ様は首を横に振った。
「…………行かない」
もっと、考えてよ……ロイ様!
「ロイ様! お願い!」
「…………」
なおも首を横に振るロイ様。
一筋縄ではいかないと思ったがここまでとは……。
そんなやりとりを数回繰り返し、諦めかけたその時急にドアがノックされ、ダンディなおじ様……ロイ様のお父様が姿を現した。
「…………おとう様」
ロイ様はポツリと小さな声でそう言った。
しかし、その言葉がなんだか固く感じたが気のせいだと思い、ロイ様のお父様の方に意識を切り替えた。
「こんにちは。 フェルーナ嬢」
「ごきげんよう。 おじ様」
相変わらず、ダンディですね。 おじ様。
「今日は一体どうしたのかな? 声が外まで聞こえていたが……」
そう言ったおじ様はロイ様の方に顔を向ける。
しかし、ロイ様はおじ様から顔をそむけ、私の方を見た。
えっ。 何、私のせい? いや、私のせいなのだけど……。
仕方ない。
「おじ様、すみません。 わたくしのせいなのです」
そう言った私におじ様はロイ様から私に顔を向けた。
「どういうことかな?」
そう言いながらおじ様は私と視線を同じにするためにしゃがんでくれた。
「わたくし……ロイ様とピクニックに行きたくて……」
「でも、ロイは行ってはくれなかったということかな?」
私はコクっとうなづいた。
すごい、おじ様。 どうしてわかったんですか?
「ロイ」
すると、おじ様は立ち上がり、ロイ様の方に行き、
名前を呼んだ。
この時、私からはおじ様の顔は見えなかった。
「……………………はい」
ロイ様の返事はすごく小さく、頑張って耳をすませても聞こえるかどうかだ。
「お父様命令だ。 フェルーナ嬢と一緒にピクニックに行きなさい」
あんなに嫌がっていたロイ様だけど……お父様に言われたら行くのかな?
「…………………はい」
ええっ! 行くの!
そう思った瞬間、おじ様がこちらを振り返り笑顔で
「よかったね。 フェルーナ嬢」
と言ってくれたが、この時のおじ様の笑顔はなぜだか寒気を覚えた。
この時、ロイ様は手袋を着いた手でズボンをギュッと握りながらおじ様を見ていたことに気づかなかった。
こうして、私とロイ様は馬車にのり、この花畑にピクニックにやってきました。