計画
あれっ?
おかしいな?
さっきまで書庫にいて本を持っていたはずなのに現在は両手にパンを持っている。
「お嬢様、愛情を込めてパンに挟みましょうね」
そう言っているのはさっきまでお母様と一緒になって話していた料理長だ。
現在、56歳になる。 目元のシワが特徴の優しそうなおじさんだ。 しかし、料理のことになると目元をつり上がらせ怖くなるそうだ。 見たことはないが。
そんな料理長と一緒にサンドイッチを作っている。
といっても、パンに料理長が作ったくれた具材を挟んでいるだけなのだが……。
「お嬢様、具がはみ出ていますよ」
「あっごめんなさい。 具が多い方がいいかなって思って」
「愛ですな」
いや、なぜに愛? 具を多くしただけですよ。
いやね、それよりもなぜ、今料理を作っているんだろうってなるよね。
お母様に書庫でロイ様のことについて調べていると話すとここに連れてこられた。
そして、心を射止めるのは胃袋からだと声高々に宣言されたのだ。
お母様は何か盛大な勘違いをしている。
私は仮面のことについて調べていたはずなのに今やロイ様の心を射止めることになっている。
お母様よ……確かに調べていると言ったが、ロイ様のことをloveの意味の好きで調べているのではなく、彼の顔につけてある仮面について知りたいんです。
それを説明したいのに……現在お母様はここにおらず、料理長に何かを伝えた後に用事があるといい今はいない。
しかも、出て行くときに
「フェルちゃん! お母様に任せて!」
と言ってここを後にした。
不安なことしかない……。 あの自信満々なお母様嫌な予感しかしない……。
「お嬢様、どうされましたか?」
ん? どうやら手が止まっていたみたいだ。
「ごめんなさい。 考え事をしていました」
「愛ですな」
いや、なんでまた愛?
料理長よ……ただの考え事です。
「もうすぐ完成ですな」
「はい!」
おおー、美味しそう! 我ながらうまくできた。 まあ、具を挟んだだけなのだが。
目の前には様々な種類のサンドイッチが並んでいる。
たまごが挟んであったり、お肉が挟んであるもの、フルーツが挟んであるものと様々だ。
サンドイッチが完成したのと同時に用事があると出ていたお母様が戻ってきた。
それはもう満面の笑みで……。
「おっおかあさま?」
「ふっふっふっふっふっふっ」
えっこわ!
「フェルちゃん!」
「はい!」
「ピクニックよ!」
はい? ピクニック?
「おかあさまと?」
「それも楽しそうでいいのだけど……」
じゃあ、誰と……まあ、なんとなくわかるんだけどね……。
「ふっふっふっ。 ロイくんとよ!」
ああ、やっぱり……。 そんなことわかってたよ。
でも、ロイ様にピクニックって難しくてない?
「ロイ様と……」
「そんな不安そうにしなくても平気よ? お母様、お手紙を出しておきましたから」
私不安そうにしていたのかしら……ん? はい? 今なんて? 手紙を出した?
「おかあさま、今手紙を出したと聞こえたのですが……?」
「ええ、フェルちゃん奥手そうだから……ダメだった?」
いや、そんな目線を下げて目元をウルウルさせないで……お母様よ、あなたそんな性格ではないでしょうよ!
「ダメってわけではないのですが……」
「じゃあ、良いわね」
ええーー! お母様! さっきまでのウルウルはどこにいったのですか!
「話を戻すわね。 お手紙にはピクニックに行きましょう。 と書いておいたわ。 だから、またサンドイッチを作ってピクニックにロイ様と行きなさい。 それと、ランディとあの人のことは任せておいて! お母様、邪魔をする準備をしてきたから。 全く、ランディとあの人ときたらフェルちゃんがかわいいからってロイくんとの逢瀬を邪魔して……。 そういうことだから、フェルちゃん、存分に楽しんできていらっしゃい」
お母様よ。 この短時間で色々してきてすごいな!
それにしてもピクニック……ロイ様と難易度高くない?
紅茶を洗うロイ様だよ……外でご飯たべる?
だけど、目の前にはニコニコ笑うお母様……。
私がロイ様のことを調べたいと言っただけでここまでしてくれたお母様……。
……………………よし!
フェルーナ・リンディ6歳。 覚悟を決めます。
ロイ様とピクニックに行こう!
だって考えてみると、もし食べるところを見ることができれば仮面の謎に近づける!
まあ、断られると思うけど。
「おかあさま! わたくしがんばります!」
「フェルちゃん、頑張りましょう!」
こうして私とお母様の『ロイ様と一緒にピクニック計画』が発動した。
この後、作ったサンドイッチはみんなで美味しく食べました。