陽キャの聖地
今日は、掃除もして今から買い物という、
テスト前の陽キャみたいなことをする僕は、陽キャではなく、
陰キャだ。いちいち言わせるな。
本来、12時に家を出るはずが、空が準備に時間がかかりすぎるから、結局、家を出たのは14時だ。
「僕に早く準備しろって言ったくせに、自分は準備遅すぎるだろ。」
「うるさい。バカ兄貴...だって、今日は特別な日になるかもだから...」
「え?特別な日?誰か誕生日なの?」
「もういい。」
空のやつ、急にすねやがっていったいなんなんだ。
でも、今回は僕のワガママに付き合ってもらってるわけだし、あとで、クレープでも買ってやるか。
僕の住んでいる奈良県は、もう本当にびっくりするぐらい服を買う店がない。
今まで、服なんて買わなかったから、気にもならなかったけど、本当に何もない。
もしかして、奈良県って陰キャなのか?
類は友を呼ぶとはまさにこのことだろう。しかし、陽キャの妹は、初めから奈良県で服を買うつもりはなかったらしい。
「なぁ、空、この電車はどこに行くんだ?」
「はぁ、あんた。電車に乗ったことないの?大阪行きって書いてあったでしょ。」
「お、お、大阪ぁ!!」
ここが車内だということを忘れるぐらい僕にとっては、衝撃的な言葉だった。
『大阪』それは、陽キャの聖地である。学校内で、陽キャどもは、
「今日、大阪いこー。」だとか「パンケーキ食べいこー」だとか「ハルカスいこー」だとかなんだかよくわからない横文字を言っている。横文字はドラ〇エだけにしてほしいものだ。
『ツギハァオオサカァーウォオサカァァー』
こんなことを考えている間に、電車は大阪駅についてしまったようだ。
アナウンスの癖強いな。
「ねぇ、あんた。とりあえず、ランチ食べに行くわよ。私、おなかすいちゃったから。」
お昼ご飯ではなく、ランチなことについては触れないでおこう。それが陽キャなのだろう。
「別にいいけど、どこで食べるの?僕、大阪は初めてだから、よくわからないよ。」
「あんた、大阪初めてなの(笑)ダサッ。もういいから私に付いてきて。」
大坂の町は、本当に人が多い。歩行者天国とかいう言葉を聞いたことがあるが、デブの僕にとっては、人の間をすり抜けていくことができないので、地獄のような空間だった。それにみんなイケメンだし美人だし、この集団の中で、一番横幅があるけど、肩身が狭いよ。
「ついたわよ。ここが私のおすすめのイタリアンのお店よ。」
「ご、ご飯だぁ。もう食べないと大阪みたいな町で生きる勇気が出ないよ。」
僕は、ブタ小屋に戻るブタのように、お店の中に入っていった。
お店の中は、まさに異世界だった。メニューはよくわからない言葉でいっぱいだし、なんかもうオシャレな波動が立ち込めているような気がした。しかし、食べることに関しては、陽キャにも負ける気がしない。
なんせ僕はデブだぞ。今こそ、陽キャを蹂躙してやるぜぇ。
宣言通り、頼んだメニューを平らげた僕は、向かいに座っている妹のことを見ていた。
いつも、妹のすっぴんを見ていたけど、
こうなんていうか、オシャレだし、
神代さんと比べても遜色ないよ。
「かわいいよなぁ。空って...」
「...!?」
妹は、何か衝撃的な言葉でも聞こえたかのように驚き、そのあとは、ただ頭を下げて、激辛パスタが入っていたお皿とにらめっこしている。
ただ、その顔は、確実に真っ赤になっている。
「なぁ、空。」
「は、はい!な、なにお兄ちゃん。」
妹の顔はますます赤くなり、額から汗も見えた。
「お前......そんなに赤くなるなら、激辛パスタなんて食べるなよ。」
妹の態度が目に見えて、悪くなった。どちらかというとゴミでも見るかのような目だ。
「期待した私が、馬鹿だった。ここの料金あんたが払いなさいよ。」
「え、なんで僕が払うんだよ。」
「払えよ?」
「はい。」
逆らえなかった。これが陽キャの本気だとでもいうのか、ほんの数分前までは、陽キャを蹂躙して喜んでいたのに、やはりそうだ陰キャが陽キャに勝てるわけがないじゃないか。ここは悔しいけれど、自然の摂理に逆らうことは、僕の美徳に反するので、従うとするか。
...妹、怖いし。