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妹と阿修羅とスキップと

「金曜日」は、一週間の中で二番目に好きな曜日だ。

一番は、もちろん土曜日だ。理由なんて言わなくてもわかるだろ?

休日であり、次の日もまだ休みという余裕も備わった曜日界の陽キャだ。

そして、今日は幸福なことに創立記念日で僕は、3連休の初日を迎えたわけだ。

そういえば、土曜日が好きな理由を言ったのに、金曜日が好きな理由は言っていなかった。

金曜日は、次の日が休みだから、

陰キャの僕が学校で肩身が狭い時も、

一人で本を読んでいるときに石ころになるように頑張っている時も、

「明日は休みだ。学校で陽キャに蹂躙されなくて済む。だから今日を頑張ろう」って思えるから大好きなんだ。

でも、神代さんと出会ってから...

「金曜日は少し嫌いだ。」

朝っぱらからこんなつまらないことを一人で考えているあたり、やはり僕の世の中は平和だ。昨日、壮絶な戦いがあったとは思えない。


そんなことより、明日は神代さんが僕の家に来るというのに、まだ何も明日の準備ができていない。

とりあえず、部屋の掃除は絶対にしなければいけない。

とりあえず、抱き枕とかアニメのポスターとかは、隠しておこう。女の子が部屋に来るなんて、幼稚園の時に幼馴染を入れて以来ないから、何をすればいいかなんてわからないよ。

まぁ、男の子もないんだけどね。だってボッチだもん。

とりあえず、一通り掃除は済んだはずだ。デブのエキスにあふれたこの部屋のにおいをごまかすために、消臭スプレーも吹いたし、一度はやってみたかった押し入れに物を詰め込む作業もできたし、明日の準備は完璧だ。

果報は寝て待てとはこのことなのではないだろうか?

『異世界ミンティア』にはまって以来、よくわからないけれど、難しい言葉を言うのが癖になっているが、人前でそれを言う勇気はない。こう見えて、僕は結構、人目を気にするタイプなんだ。

「デブだけどね...」


 なんとか、明日の準備はできたけど、少し不安だから、神代さんと同じ女子の我が妹、空に聞いてみるとするか。

「同じ女子でも、神代さんの方が何百倍も素敵だけどね。妹が昔みたいに、僕になついていたら、いい勝負だったのに...」


その時、隣の部屋から、勢いよくドアが開く音がして、同時に足音が次第に大きくなっていく。

この足音は、「空だ。」


何か物申すとでも言わんばかりに勢いよくドアを開いた空はどこかモジモジして、両手の人差し指を合わせながら、僕に対してどのように接していいか分からないような雰囲気だった気がする。


「ど、どうしたんだよ。空。いきなり僕の部屋に入ってきて。そんなことより、明日に備えて部屋を掃除したんだ。綺麗だろ?神代さんがくるからハリキッタンダ。」


急に空の表情が険しくなった。

まさに怒り顔だ。

さっきまでのりんごみたいな顔はどこに行ったんだ。こいつ阿修羅か。

「空に聞きたいんだけど、掃除以外に何かやることってないかな?」

「そんなの自分で考えれば、なんで私がクソ兄貴のためにそんなことしなくちゃいけないの?死ね。」

「そんなこといわないでよ。でも、残念だね。僕に死ねなんて言葉は効かないぞ。学校で僕は存在すら認識されていないから話しかけもされないし、ましてや死ねなんて言われないんだ。死ねは生きている人に使うからね。」

なんで、こんな悲しいことを自慢げに言っているんだろ?なんか悲しくなってきた。

ほら、阿修羅の顔も怒りとか通り越して、真顔だ。やっぱり、こいつ阿修羅だ。

「そんな僕の悲しいエピソードはどうでもいいんだよ。ね?だからお願い。こんなこと言えるの世界で空だけなんだよ。」


何かぼそぼそと空が独り言を言っている。

もしかして、僕がさっき言った悲しいエピソードをまだ引きずっているのか?


「え、せ、世界で私だけ...お兄ちゃんそんなこと思ってたんだ。そんな、え、う、嬉しいな。」

何か一通り独り言を言い終えた空は、深く深呼吸をして、リセットしたかのようにしゃべり始めた。「もう。仕方ないわね。今回だけだけだからね。まず、掃除はこれでいいとして、お兄...じゃなかった。あんた神代さんと会う日にどんな服着んのよ。」


服?予想外の質問に僕の頭は真っ白になった。


「え、待って。自分の部屋にいるのにおしゃれしないといけないの?」

「本当にあんたって...信じられない。女の子と会うのに、オシャレしないなんて、今時、小学生でもやってるのに、そんなんじゃ、彼女なんて一生できないわね。」

「空。そんな悲しい事言わないでよ。僕の私服で僕をコーディネートしてよ。」

「別にいいけど、私服見せてよ。」

僕は、全く開くことのなかった開かずの扉を開いた。

え、なんで開かずの扉だって?だって、平日は学校だから、制服だし、休日は家から出ないから、パジャマだもん。


開かずの扉の中身を見た妹の表情が険しい。まるで、パンドラの箱を開けたような顔をしている。

そんなに、僕のクローゼットは不幸がたまっているのだろうか?たまっているのは、ホコリだけだとおもうんだけどな。


「待って。兄貴。これは、何?何もないんだけど、なんか全部中学生が着てそうな服は捨てるとして、唯一、着れそうな服がチェックシャツって...それになんで、全部服のサイズがMなの?ダメ。こんなのコーディネートできないじゃない。」

「え、じゃあ、どうしよう。あ、そうだ。今から服を買いにいこ。空、一緒に行って、僕をコーディネートしてよ。」


「私も行くの!?いや。友達にこんな兄貴と一緒にいるの見られたら死んじゃう。でも...今回だけは、特別に一緒に...行って...アゲル」


さっきまでの真顔が嘘のように顔を真っ赤にさせて、りんごみたいな顔になっている。本当に我が妹ながら、よくわからんやつだ。

「なあ、空、そんなことより僕、服を買いに行く服がないんだけど、どうしたらいいの?」

まさか、ネットでも何回か見たことがあるこのセリフを言うことになるなんて、やっぱり僕は正真正銘の陰キャみたいだ。


「そんなのぐらい、自分で考えなさいよ。バカ兄貴!!!」


そういうと同時に僕の視界は真っ暗になり、勢いよくドアが閉じる音がした。

あいつ、僕に服を投げやがった。


空がいなくなって静かになった部屋の中で、僕は、空の足音が僕の部屋に入る前と出た後で明らかに違うことに気付いた。


「あいつ、スキップしてるのか?本当に、分からないやつだな。」



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