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fight for liberty

神代さんが僕の家に来るのが土曜日、木曜日の早朝から、腹痛のためトイレに籠りながら僕はトイレに飾られたカレンダーを見ていた。

神代さんが家に来ることが決まって以来、僕は緊張しまくりだ。

心の緊張は体にも影響を及ぼすということを高校一年生にして初めて知った僕はアスリート気分だった。具体的に体に影響というのは、2つある。


①体が震える:とにかく体が震えるのだ。寒いとかじゃない。緊張しているんだ。みんなも高校入試とか受けたことがあるだろ?あの時と一緒だ。あまりに震えているから家族から高血圧だと思われて、僕だけここ最近、精進料理になってしまった。


②便秘:こいつがやっかいなんだ!今までの人生で皆勤賞ならぬ快便賞を目指していた僕にとって史上最大の屈辱である。便の出ない生活がこんなにも不便だとは思わなかった。便と不便をかけているつもりもなかったんだ。許してくれ。


そんな便秘の僕がトイレにいるということはわかるだろ?

一世一代のチャンスということだ。

僕は絶対に便を出さなければならない。

しかし、僕の便は肛門と大腸を絶妙なラインで維持しようとしている。この状態を名づけるなら、

「便竦み」とでもいうべきか。

僕はこの「大腸・肛門解放戦」に絶対に負けるわけにはいかない。便秘になって以来、今回までとは言わないが、便秘を解消するチャンスはいくつかあった。しかし、僕はそのチャンスを逃したのだ。


やはり、陰キャは恋愛だけでなく、便からも見放されているのだろう。クソ以下だと改めて感じさせられた瞬間である。

今回こそは、絶対にこの戦いに勝利するために、自分に誓約を設けることにした。


内容はというと、今回で便秘を解消することができなければ、僕は今週の土曜日、家に来た神代さんを今度デートに誘うことはできず、神代さんへの恋心は諦めるというものだ。


自分でも、泣きそうになるくらい残酷な誓約である。どうしてう〇こごときで恋心を流さなければならないのだろうか?冷静になって考えてみると、おかしいところだらけだった。

しかし、もうあとには引けない。戦いの火ぶたは切って落とされたのである。


つまり、『これは肉体ではなく心を摘む戦い』なのである!


 誓約やら戦いの名前やらを考えている間に僕の一世一代のチャンスは過ぎ去っていた。そう!腹痛は収まってしまったのである。

笑えない。言葉が出ないとはまさにこのことだったのだ。この期に及んで、俺の肛門は開かずの扉と化してしまったのだ。何度も言うが、今回だけは失敗は許されない。


俺は神代さんが好きなんだ。神代さんをデートに誘って、いいムードになって告白するんだ。陰キャの僕からしたら勘違い甚だしいかもしれないけれど、好きだから告白する・好きだから何かしたいと思うのは人間として、当然の権利なのではないのだろうか。


「考えろ...考えろ...う〇こを出すためにはどうすればいいんだ...」

ふと、頭に一つのアイデアが浮かんだ。

「前に動画投稿サイトで馬鹿な奴らが肛門に何かを浣腸していたな。あれはいったい何だったか...イチジクだ!イチジクなんだ!」

神代さんへとつながる道は閉じていなかったのだ。僕は絶望の淵から笑みをこぼした。


「我、天啓得たり」


 幸い、家にはイチジク浣腸があった。

「いったい、こんなの誰が買ったんだか(笑)だいたい想像がつくのが嫌なんだよな。」

ここは、読者のためにも誰が買ったのかは秘密にしておこう。一つだけ僕から言うならば、性癖は人それぞれだということだ。

僕は再び、トイレに舞い戻り、閉じかけていた門に破城槌を押し込んだ。

「がっァ!なかなか来やがる...」

破城槌の威力に負けて、閉じていた門は破壊され突破された。肛門戦は立嶋軍の勝利に終わったが、肝心の勝負はこれからだ。


「おそらく、イチジク浣腸の効果は、これから現れる。現れてからが勝負だ!僕は負けn...」

体中に電気が走った。体の水分がすべて汗になっているような気がした。大腸に閉じこもった便が徐々に徐々に動いているのがわかる。

「う、動くたびにいたい!なんなんだこれは!」

いつか見た医療番組で尿管結石は男のお産だとか言っていたが、それは嘘だ。いや、正確に言うと、嘘ではなく、もう一つある。それは便秘だ!

体中に脂汗を流し、苦悶の表情を浮かべながらも、便は土俵際の力士のようにじわり...じわりと肛門に向かっていく。

「いける!もう少し!いける!」

肛門から奴が顔を出した。ニョッキしたのだ。その瞬間、僕の体を蝕んでいた苦痛がほんの少し和らいだ気がした。


「いまだ!いましかない!いくんだ僕!レバーを押せぇ!!!!!!」


頭の中で、「プゥン」という何かが外れたような音がして、頭の中で一面に広がっていた液晶画面が暗くなっていく気がした。


「あぁ、ダメだ。いかないでくれ。おねがいだぁ...」


 僕の涙は便には届かなかった。便は僕の門で顔を出したまま止まっている。僕は便に負けたのだ。それは同時に僕の恋の終わりを知らせることを意味した。真っ白になった頭の中で、神代さんとの今までの会話を思い出していた。

「ははは、神代さんが『異世界ミンティア』にはまっているって言った時は驚いたな。あの時は僕が『異世界ミンティア』の良さを熱弁したんだっけな...」

誰かの声がどこかからか聞こえてくる。僕はこの声を知っている。これは神代さんの声だ。

「そうだね。私が間違えてた。好きなことに理由なんていらないよね。うん。立嶋が正しい。」

僕はこの言葉を知っている。


「そうだ!好きなことに理由はいらない!僕がそれを忘れてどうする。僕は神代さんが好きだ!便に負けてたまるか!僕は正しいんだ!!レバーを押せぇ!!!!!!!」


水面にはしずくではなく一石が投じられていた。

僕は戦いに勝ったんだ。

今までで一番の強敵だった。

僕はこいつのおかげで成長することができた。

流しの大をひねりながら、僕は便に最大の敬意を払いたくなった。


「おまえはすげえよ。よく頑張った。たった一人で...

何度も俺の体の中で居座り続けて、いい加減、いやになっちまうくらいにな...

今度はいいやつに生まれ変われよ!一対一で勝負がしたい...待ってるからな...

僕ももっともっとウデをあげて...またな!」


ゴォォォという音を合図に奴の姿はもうなかった...

それはまるで、新たな旅を告げる汽笛のようだった。


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