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帰宅

1周年!巻頭カラー!


ミッチェルと名言に支えられて、僕の心には迷いがなくなっていた。


僕は、神代さんを救いたい。

神代さんのためじゃなく、僕が救いたいから救うんだ。


でも、僕には先にやらないといけないことがある。ミッチェルとは違ったベクトルで僕の大切な人だ。


僕は、夕焼けがもう暗闇に蝕まれつつある空を見つめながら、家を目指して走っていた。


ただ、僕は言うまでもなくデブだ。

そんなイケメンキャラみたいに綺麗な汗を流しながら、家のドアを開けることはできない。


(ガチャ)


「った...ただいまはぁ...」

僕が勢いよくドアを開けて、気色の悪い返事をしても家の中からは誰の返事もなかった。


ただ、僕の帰りを祝すかのように空気清浄機のニオイのゲージが反応して真っ赤になっていた。


ニオイが真っ赤になろうとホコリが真っ赤になろうと僕にはやるべきことがある。


空気清浄機の音がうるさかったせいか、聞き逃しかけたが、僕は決してある音を聞き逃さなかった。


(ドドドドドド)


星野〇の「ドラ〇もん」ではない。

僕の妹の空が自分の部屋で何かをしている音だ。


今だけマタギの僕からすると、空は2階のそれも自分の部屋にいる。


「待ってろ。空。いまいくぞ!」


ここで勢いよく階段をのぼることができたら、カッコ良いのかもしれないが、僕はデブだ。

テレビショッピングの階段をのぼる再現VTRみたいな、のぼりかたになってしまうのは仕方がない。 

恐る恐る僕は、空の部屋のドアを叩く。

(コンコン)


「そ、空...今、いいか...」


「なに?そもそもだれ?」

ボソッとした。空の声が聞こえる。

声からはまだ空が僕に対して怒っていることが理解できた。


「僕だよ。兄ちゃんだ。入れてくれないか?」

そう言った後に、しばらくして、妹の部屋の扉が開いた。


「ん!」

妹の声にならない声が怖いけど、可愛かった。


「え?入っていいの?」

空はそんなこと聞くなと言わんばかりに僕の手を引っ張り、僕を部屋に引き込んだ。


「うわ。な、なんだよ。空!」

空は相変わらずむすっとしたままだった。

正直、言って、気まずい。


僕は空の目を見ることができなかった。


かといって何かを言い出すきっかけを見出すこともできなかった。

静寂を破ったのは空だった。

「ねぇ。あんた、なにしにきたの?」


静寂を破ってくれたのは、嬉しいが

その代償として、返事を求められてしまった。


異様な喉の渇きと共に、僕と空の距離が徐々に遠く感じるような奇妙な感覚に襲われていた。


「えと...えー。その...」


がんばれ。僕!

どうして言い出すことができないんだよ。


俯いた僕は、自然に手をもじもじさせていた。


ふと思い出す。

河川敷での光景

大好きな異世界ミンティアの名言

そして大親友の言葉


そうだ僕はミッチェルから、何を教わったんだ。


腹を括った僕は今まで俯いていた顔を上げて、空に謝った。


「ごめん。空!!神代さんが僕の家に来た日のことなんだけど、空に酷いこと言って...」


妹の目は赤くなっていた。

それがいつから赤かったのかは、ずっと俯いていた僕には分からない。


「...私も意地張っててごめんなさい。お兄ちゃんが辛いの分かってたのに...それを掘り返すようなことをしちゃった私が悪かったの...」


こうなったらもうよくあるパターンだ。

両者ともに、謙遜し合うやつだ。


「いや、僕も空の優しさに気づかなくてごめん。」

「いや、私こそ〜」

「いや、僕こそ〜」

この均衡状態を破ったのは僕だった。


もう完全に仲直りをした僕たちの謙遜し合う様子がおかしく感じた僕は、いつものように空に話しかけることにした。


「ところでなんだけど、空」

「え?何、お兄い...じゃなくて、あんた」


相変わらずその途中で挟む「オニイ」ってなんの呪文なんだよ。


「いや、ちょっとした疑問なんだけどな、なんでお前、僕の手を引っ張って部屋に入れたんだよ。」


痛いところを突かれたのか、空の顔は真っ赤っかになっていた。

目も顔も真っ赤っかになった空はまるでタコのようだった。


「えと...あの...それ...はね...」


不意に僕は、空の目が赤いことに引っかかってしまった。



もしや...


一つの閃きが僕の脳内を走る。


「もしかして空、僕と寝たかったのか?」

「ふぇ?」


空の気の抜けたような声が部屋に響き渡る。

気は抜けても空の真っ赤っかな顔が元の色に戻ることはなく、余計に赤くなっていた。


「ななななんで、そそうなるのよ。バカバカバカバカバカ。」


そう言って、妹は布団を僕に投げてきた。


「いや、だって...空の目が真っ赤だから寝起きかそれとも全然、寝てなくて眠たいのかなと思って」


不意に僕は、自分に投げられた空の布団を見つめる。


「それに、今、僕に布団も投げてるしね!」


僕の決め台詞で流石の空も参ったのか、それとも眠気が最大限に達したのか、頭から湯気のようなものが出てきていた。


おそらく僕はもう部屋から追い出させれるだろう。

(バタン!!)

ほらね。追い出された。


僕はもう自分の部屋に帰るとするかな

本当に私のお兄ちゃんは馬鹿だ。

改めてそう思う。

でもあの辛気臭いお兄ちゃんよりも今のようなバカ全開で、鈍感なお兄ちゃんが私は大好きだ。

でも一緒に寝たいのかって聞かれたときはびっくりしたな。


たまにはやるじゃんってね♪


なんだか眠たくなったし、

お兄ちゃんの言葉通り寝ようかな。



お帰り。


お兄ちゃん。



佐分利先生の作品が読めるのは

なろうだけ!!

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