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トライフォース

僕は,自分の神代さんに対する感情が分からなかった。


時には,憎い・許せないと思うこともあれば,急に悲しい・かわいそうと思うことがあった。


いったい,僕はどうすればよいのか分からなかった。


僕はそんながんじがらめの世界で僕は苦しんでいた。

本当は,どうすればよいのか教えて欲しいわけじゃなかった。


誰かに...誰かに...僕の気持ちを分かってほしかったんだ。


僕の心の奥底を分かってほしかった。

そして,僕は改めて出会うことができた。


いや,いつもいたんだ。

ミッチェルは...いたんだ。


「ありがとう...ミッチェル...」


「お,おぉ。なんだ恥ずかしいな。全くよ。」


やっぱり,ミッチェルは,僕を励ますために来てくれたんだな。

「残念だが,お前を励ますために来たわけじゃないんだよ。」


「え!?」


「いや,厳密に言うと,励ましに来たのもあるんだが,悩みを解決する方法を考えるためってのが目的だ。そもそも,友達を励ますのは,当たり前なんだよ。全く...」


「本当にミッチェル...君ってやつは,いつか僕に大切な人ができた時に,君を絶対に紹介するよ。『オレの最高の友達だ。』ってね。」


ミッチェルは少し照れくさそうな顔をして,話し始めた。


「いや,まぁ,いい。とりあえずだ一つ葵に質問がある。お前の好きなものはなんだ?」

唐突な質問に僕は虚を突かれた。

なんだこの質問,池上○先生や林○先生でもこんな話題の空間を捻じ曲げることはないぞ。


「えーと...『異世界ミンティア』だね。」


「そうだよな。相変わらず暗い趣味してんな。お前は。それでおれもある程度内容は知ってるんだが,好きなセリフとかないのか?」


徐々に話題が『異世界ミンティア』に向いていくことに僕が気づかないわけがない。


そうなると,僕のエンジンはブイブイしちゃうぜ♪


ヤケドしちゃうぜ♪


「もっちろん!あるにきまってるじゃないか!!」

もう僕を止めることはできない。

気づいたら口が動いていた。

僕の口の動きは音を置き去りにしたのだ!


「えーっとね...まず,僕の好きなセリフはね...3つあるんだけど,1つ目は,『1歩踏み出す勇気』でね。2つ目が,『心に嘘はつけない』だね。ちょっとセリフは省略してるんだけどね。それで3つ目がね」


急にミッチェルが僕のオンザステージに上がって来た。


何事だ。

無礼な。


「ストーーップ。ストーーップだ。黙れ。デブが!勝手に話しすぎだ。ちょっともう一回,1つ目と2つ目のセリフを言ってくれ。」


「え,あ,ミ,ミッチェル言いにくいんだけど,これと僕の悩み解決の何も関係なくない?」

恐る恐る,ミッチェルの逆鱗に触れないように,僕は言った。


「いいから,言ってくれよ。いいから,ほら。」


あ,踏んだわ。ちょっと踏んだわ。

地雷ちょっと踏んだわ。

おしっこちょっと漏れたみたいな言い方だけど,ちょっと踏んでるわ。


多分...


「え,えーっとね。1つ目が,『1歩踏み出す勇気』でね。2つ目が,『心に嘘はつけない』だよ。」


「おう。ありがとう。この名言がお前を救う力になるんだよ。今から俺が言うことをよく聞くんだぞ。」


『異世界ミンティア』の名言が僕を救うだなんて,そんな都合のいいことがあるのか?

進○ゼミの漫画じゃあるまいし。


「まず,葵。お前は,神代さんへの複雑な感情が入り混じって悩んでるんだ。でも,お前は一生,そのままグチャグチャの心のままでいるつもりか?違うだろ。まず,大切なのは,どんな結果になろうが『1歩踏み出す勇気』が必要なんだ。お前が,神代さんに告白をしようとしたのも立派な『1歩踏み出す勇気』だ。それが,なければ未来は止まっていたかもしれないんだ。もっとお前はお前を誇っていいんだ。」



ミッチェル...伏線回収みたいなのしてるじゃん。あざす。


「でも,1歩踏み出す時に,適当に右も左も決めずに進むのはダメなんだ。そんなのは勇気の無駄遣いだ。でも,お前はもう...分かってるはずだ。このままグチャグチャしたままの感情でいるのが幸せか...それとも神代さんのために行動するか。それを決めるのはお前次第だ。俺から言えるのはただ一つ,『心に嘘はつけない』ってことだ。」


まったまた伏線回収みたいなのするじゃん。うぇい。


「お前は,今日俺と出会って,言葉が人に与える影響を学んだはずだ。それは他者だけじゃなく,自分にも大きな力となるんだ。口にも出せないようなものは力なく消えていくんだ。最後の名言は,もう今のお前には確認するまでもないな。」


「うん!!!」

ミッチェルの確認に対して僕は力強くうなづき,返事をした。

首は折れなかった。



もう何も怖くなかった。

胸のモヤモヤはいつの間にか消えていた。


そして,僕の近くにいたはずのミッチェルも,消えていた。


「そうだ。お前には,名言だけじゃねえ。俺もついてるんだ。頑張れ。葵。」



空耳に近い,言葉が僕の胸には響いていた。


でもそれは耳ではなく,胸に直接届いた。


気づけば1年。なんてこった。


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