砂埃パニック②
ど,どうして,ミッチェルがまだいるんだ...
そんなバカな...もしかしてちゃんと蹴れてなかったのか...
そう思った僕は,汚い絵をもう一度見た。
「うん。確かに,ちゃんと消えているよな。」
「あれ?なんでってか。そう思っただろ。」
僕の心を見透かすように,ミッチェルはそういった。
「というか,さっさと謝ってくれればいいものを,全く」
「オラァァァァ」
ミッチェルが何かを言う前に,僕はミッチェルを激しく蹴った。
「おいおい。まだ話の途中だろうがよぉ。」
「な...なん...だと...」
全く意味が分からない。
どうしてミッチェルの声が聞こえるんだ。
「全く...いつまでも小学生みたいに地面蹴るんじゃねぇよ。」
「本当にそうだよな。謝るだけなのに,どこからそんなプライドが出るんだよ。」
今,僕は両耳からミッチェルの声が聞こえたような気がした。
「あれ?ミッチェルの声が2つある?」
「お?気付いたのかよ。」
「お前がやってくれたんだぜ。」
いっぺんにしゃべるな。よくわからん。
「え?なんでだよ。気持ち悪いよ...」
「気持ち悪いとかじゃないんだよな。」
「そうだぜ。論点をずらすなよ。」
そう言いながら,ミッチェルたちは,僕のところに近づいてきた。
「な,なんでだよ。なんで絵なのに,動くことができるんだよ。」
その間にも,ミッチェルはじわりじわりと僕のところに近づいてくる。
まるで,ホラー映画で主人公に迫りくる空気の読める幽霊役のように...
「さぁ,たくさん謝罪してもらうからな。」
「覚悟しろよ。」
ダメだもう逃げられない。
こうなったら戦うしかない!!
「う,うぉぉぉぉ。」
僕は自分を奮い立たせながら,伝家の宝刀の右足を武器にして,地面を蹴り続けた。
ズサァァァ
ズサァァァ
ズザザァァァァ
・
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・
・
(30分後)
「おい。謝れよ。」「けじめはどうつけるんだよ。」
「覚悟しろよ。」「主人公補正ってなんだよ。」「たまらないぜぇ。」
「ケンカはもう終わりか?」「全く,お前,ざこいなぁ。」
「心を摘む戦いだったなぁ。」「ちょっと,増えすぎたんじゃねぇのか?」
「おい,葵。なんか言うことあんじゃねえのか?」「そうだよな。なんかあるよなぁ。」
「う,う,う,ご,ごめん...ごめんなさい...」
簡単に結果から言うと,僕はミッチェルに負けました。
だって,考えてくださいよ。
僕は四方八方をミッチェルに囲まれてるんですよ。
多分,ミッチェルの数は1000を超えているし,なんか増えすぎだよ。
「というか,そもそもミッチェルなんで,増えるんだよ。消したら消えるって言ったじゃないか!」
ミッチェルは戸惑った顔一つせず僕の質問に答え始めた。
「それは,本当にごめん。嘘ついちまった。ちょっとお前を懲らしめようと思ってな。でも,これで俺とお前,どっちもお互いに悪いことをしちまったし,両方が謝った。今回の件はこれで仲直りといこうじゃねぇか。」
「おぉ,いいじゃねえか!!」「やっぱり友達って最高だな!!」
「俺と仲直りの握手しようぜ!!」「俺は心を摘む戦いがしてぇ」
「おい!お前ら,いっぺんに喋んな。もうあとはおれが一人でしゃべるからお前らは,もう帰ってろ。」
おそらくリーダーと思われるミッチェルの一言を合図にミッチェル軍団の声は消えていった。
「全く,葵よぉ。お前は本当にプライドだけは高いんだからよ。今は,俺しか友達がいないかもしれないけど,いずれお前には友達がたくさんできるはずだ。俺なんかよりも,もっといい友達がよ。」
「そ,そんなことないよ。」
「いや,お前にはできる。俺は知ってるんだ。でもな,さっきみたいなプライドだけ高いままじゃな...大切な友達を失ってしまうんだ。俺はお前には,そんなことになってほしくないんだよ。だからちょっと荒っぽいけど,あんなことしたんだ。葵,ごめんな。」
ミッチェルの行動の裏に隠された優しさに触れ,僕は心が暖かくなった。
そして,心が暖かくなり,均衡をとるように,僕の目からは冷たい水がでて,僕の頬を冷やした。
「う,ううう。ううう。ミ,ミッチェル...ありがとう。ありがとう。」
「おう!全く,世話のかかる野郎だな。まぁ,これからは俺のことを大切にするんだな。」
「うん。わかったよ。師匠!!」
ミッチェルがキョトンとしているのが分かる。
僕は何か変なことを言ったのだろうか?
「し,師匠?なんで師匠なんだよ。」
「だって,ミッチェルは,嫌な役を買ってまで、今の僕に足りないことを教えてくれたんだよ。かっこよすぎるよ。僕もミッチェルみたいな男になりたいなと思ったんだよ。だから,師匠って呼んじゃダメかな...」
「お,おおう!!いいに決まってるじゃねえかよぉ!!全く可愛い弟子だなぁ。おい。この際,俺が男かはどうでもいいぜ。おい!」
「やった。ありがとう。これからもよろしくね。師匠!」
「葵よぉ。ただ,師匠は照れるからさ,普段はミッチェルって呼んでくれよ。何か修行っぽい雰囲気の時だけ師匠って呼んでくれ。わかったか?」
「分かったよ。ミッチェル。」
そう言って,僕たちは,ないはずのミッチェルの手を握って,握手をした。
僕たちは,友達であり,師弟関係だ。
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「ところでなんだけどね,ミッチェル。」
「なんだよ。葵。」
「ミッチェルって,なんかしばらくぶりにあったような気がするんだけど,気のせいかな?」
「まぁ,確かに,お前に最後に会ったのは,あの体育の日,以来かもしれないな。」
「そうだよね。そうだよね。」
ミッチェルは,とても疑問に思ったような顔をしている。
それもそのはずだ。
いきなりこんな訳の分からない質問をされて不思議に思わないわけがない。
「あのー。ミッチェルってこんなキャラだっけ?」
場が凍るのを肌で感じる自分がいる。
まるで,核心を一突きしたような感覚だ。
「お前,それに触れるのか......俺も思っていたんだがな,久しぶりに出るとな,キャラがブレるんだよ。分からなくなるんだ。これもそれもお前が全然,俺のことを呼ばねえからだぞ。」
なんだか、拍子抜けな返事に自然と笑いたくなってしまう。
「ぷぷぷ。ハハハハハ。なんだよキャラがぶれるって,ハーフ芸人かよ。ハハハ。」
「お前,笑ってんじゃねえよ。ハハハハハ。」
二人の笑い声が河川敷にこだまする。
やっぱり友達と過ごすのは楽しい。
かけがえのない時間だと思わせてくれる。
周りに人がいるのに,この空間が二人だけのものだと思ってしまう。
「あ,そうだ。葵。そういえばな,俺の声って...お前以外に聞こえねえんだわ。」
「ん?つまり...?」
「いや,だからな...周りの人からはお前が一人でしゃべってる変なやつに見えるってことだよ。」
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「さぁーて,か,帰ろうかな。」
周りの目線は怖くない。
だって,涙で前が見えないもの...




