砂埃パニック①
声の主,ミッチェルは僕の目の前に,不意に現れた。
ミッチェルは、福笑いのようにヒドイ顔をしていて,見るだけで笑いそうになってしまう。
ミッチェルはそんな僕の態度を見逃さない。
なぜかって,僕の友達だからさ。
「おい。お前,俺の顔を見て笑ってんじゃねぇよ。」
「だ,だって...本当に面白い顔なんだもん。プププ」
「お前が俺の顔書いたんだろうが!!もっとかっこよく書けよ。アイドルグループの中○君みたいにしてくれよ。やっぱり~中○君がおる~ってさしてくれよ。」
「ごめんね。ミッチェル...僕にそんな画力ないし,もしあっても僕よりもイケメンになるように書くことはできないよ。」
「な,なんでだよ。いいじゃねぇかよ。」
本音を言っていいのだろうか...
絶対にミッチェルは傷つく気がする。
いや,でも友達なら本音を言うに限る!!
「だ,だって...やっぱり自分よりもブスが近くにいると安心するでしょ?」
自分でも思う。
まさに外道!!!!
「お前,ひっでぇな。友達だから本音を言ったんだろうがな...なんでも言える関係が友達じゃねぇんだよ。いや,友達だからこそ知らないやつと話すよりも慎重に言葉を選ぶ必要があるんだよ。」
ミッチェルの言葉が深く僕の心に刺さる。
絶対に傷つくと分かっていたのに,どうして僕はあんなことを言ったんだろう...
「まぁ,もう言ったもんだ。仕方がねぇ。次から言わなかったらいいんだ。」
「ミ,ミッチェル。なんて君は優しいんだ。やっぱり持つべきものは友達だね!!」
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「まぁ,そうだな。とりあえず俺に謝れや。な?」
「え?」
「いや,え?じゃねぇぞ。お前,俺にあんなこと言っといて,謝罪の一つもないんかい。友達なら,謝罪はいらねえと思ったか?甘いぞ。お前。はよせんかい。」
「え,あ,え,」
体からものすごい勢いで脂汗がでる。
こんな感覚は高校に入学式の帰りにヤンキーに絡まれて以来だ。
あの時も,今みたいな感じで謝罪を迫られたような気がする。
嫌な思い出だ。
「謝罪の一つもできないのかよ。お前は。心までブスになってどうするんだ。」
「うぅ。そうだよね。ご,ごめんなさ......」
待てよ。
僕の中に一つの真実が落ちてきた。
「ミ,ミッチェル...君ってどうなったら僕の前に現れるの?」
「は?今,そんなの関係あんのかよ。」
「お,お,お願い。教えて!その後に謝るから。」
「仕方がねぇな。えーっとな。お前がなんか地面に顔みたいな絵を書いたら出てくるんだよ。
後は,俺の予定が空いてる時だな。(まぁ,もう一つ大事な条件があるけど,秘密だな。)」
「ということは,この絵が消えたら,ミッチェルは帰っちゃうってこと?」
「まぁ,そうだな。この汚い絵が,お前の世界での俺の仮の姿であり,俺の意識とお前の意識をつなぐ架け橋みたいなもんだからな。」
「ふーん。な,る,ほ,ど,ね~」
ミッチェルの話を聞いた僕は不敵な笑みを浮かべた。
僕の不敵な笑みの裏に隠された真意をいち早く読み取ったミッチェルは焦ったような態度になっていた。
「お,お前...もしかして...」
「そのまさかだよ。ミッチェル...」
「お前,早まるな!!それだけはやめろ。」
「もう遅いよ。バイバイミッチェル...(ニヤリ)」
そういって僕は,地面に書かれた汚い絵...いや,ミッチェルを思いっきり蹴った。
「オラァァァァ!!」
それはまるで,小学生が運動場で砂埃を起こしたいがために,地面を蹴り上げる様子に近いはずだ。
いや,なんならそのイメージで僕は蹴った。
汚い絵は,蹴られたこともあってか,より汚い絵になっていた。
そして,あれほどうるさかったミッチェルの声はもう聞こえなくなっていた。
「はぁ,はぁ,はぁ。か,帰ろう。まさかあんな正論を言ってくるなんて」
正論を言われると,なんだか逃げたくなってしまうのが僕の悪いところだろう。
夕日がのぼる様子を見ながら,河川敷を歩き始める僕。
なんてエモいシチュエーションなんだろう。
さっきまでのことは忘れたことにして,
僕は河川敷を歩く一人のモブキャラとして,お家に帰ることにしようじゃないか!!
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「おい。何帰ろうとしてるんだよ...」
「ん?なんだ。この声は...」
「お前,まさか逃げれると思ってるんじゃねえのか?」
「んー。聞いたことがある声だな。まさかな」
たらりと脂汗が僕の頬を伝う。
「まさか,俺の名前を忘れちまったのか。」
「ソ,ソラミミカー。コ,コワイナー」
「もう1回,自己紹介が必要か?」
声の主はいつの間にか僕の足元にいた。
「うわっ!!ミッチェル...いつの間に足元に!!」
「この街もかわらねえな!どうした,汚い絵を見るような目で俺を見やがって...」
思わずゴクリと息をのむ。ミッチェル...まさか出るのか...あれをやるのか!!
「忘れちまったか!!俺だよ!俺!!ミッチェルだよぉぉぉ!!!!!!」




